第6話 忍ぶ者
先ほど感じたあの魔力は神社の力だけでなく、何か特別な力だと私は確信し、しばらく先輩方の様子を伺う事にしました。
あの化け物は八つ橋屋さんを破壊しようとゆらゆらと前進し、手に持っている短刀で切り裂こうとしていました。
先輩方は変身してすぐに化け物の目の前に立ちふさがりました。
「ねぇ、そんなにこのお店の八つ橋って美味しいの?」
「ソレガナンダ…!」
「毎日買って食べるほど好きなんですよね…?でも…売り切れたからって、暴れる必要は…」
「ダマレ…ダマレェェェェェ!」
「きゃあっ!」
「はな!」
「キサマモ…ジャマダ!」
「うぅっ…!この魔物…強い…!」
「ひまわりちゃん…!」
「そんな…!ではあの人妖神社の大炎上以降、化け物が頻繁に現れるようになったのは本当なのですね…!」
あまりの出来事に、私はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なくなり、安全な場所へ避難するという選択肢を失いました。
避難しようも足がすくみ、震えで動くことが出来ませんでした。
するとその恐怖を振り払うかのように、花柳先生と一人の女の子が駆けつけました。
「紅葉さん、無事で何よりだ!」
「花柳先生…大丈夫です…。でも…あの化け物は一体…?」
「えっと…はじめまして。妖魔大王の娘のヒメギクです。あなたがはなさんの仲間の…」
「紅葉もみじと申します。あの化け物と人妖神社の大炎上と何か関係があるのですか?それから先輩方から感じるあの不思議な力は…?」
「この妖魔の力…彼女からも感じる…!紅葉さんですね。あなたには話さなければなりません。妖魔界や人間界に関係する今までの経緯を。」
「え…?」
「落ち着いて聞いてほしい。あの二人は妖魔の力という人間にも潜んでいる妖怪の魔力が眠っていたのだ。その妖魔の力がひときわ強い彼女たちが、あの悪の組織で京都神話にもある、ザイマ一族と戦っているのだ。」
「ザイマ一族とは…紅葉流にも伝わる悪の一族…!」
「実はあなたにも強い妖魔の力を感じるの。あなたにも勇気があるのなら、どうか二人を助けてほしい。」
「なるほど…ではあの妖魔界に異変が起こり、人間界にも現れて人妖神社が炎上し、今は京都の危機という事ですね。これで辻褄が合いました…。私は紅葉流女将21代目、紅葉もみじ!この命に代えて、我が故郷の京都をお守り致します!」
「その心意気…忘れるでないぞ!」
「心得ました!」
「彼女ならきっと…」
「ナンド…マッテモ…タベラレナイ…!コノミセ…ウバエバ…オレダケノモノ…!スベテ…オレノモノ!」
「待ちなさい!」
「紅葉さん…!?」
「逃げて…あいつは強いよ…!」
「いいえ!ここから一歩も退きません!先輩方のお話を、ヒメギクさんという方から全て聞きました。あなたがたは人妖神社の使命を二人で背負い、あのザイマ一族とも戦っていたのですね。」
「どうしてそれを…?紅葉さんには話してないのに…?」
「ザイマ一族…我が初代紅葉流師範である紅葉鶴姫が討伐のために命を落とし、後にある禁術を使った人間により地獄へ封印された神話を代々受け継いでいました。そして紅葉流の予言にもこう記されています。2000年の時が流れた時、京都にかつての災いがもう一度降り注ぎ、妖魔の力を受け継ぐ7人の娘が災いを振りほどくであろう…と。」
「ナンダ…キサマ…!」
「そしてこの獄魔…人間の悪しき自己中心的な心が暴走し、体と魂が分離して魂が罪魔として転生する。その罪魔を消すには、正しき心である妖魔の力が必要と聞きました。私はその妖魔の力はまだありませんが…先輩方を見捨てるような薄情者ではありません!真のくノ一たるもの、恐怖に打ち勝ち…過去の己に勝利するのです!」
その時、私の体から黒と橙色の霧が発生し、胸から篠笛が出てきました。
もしこの篠笛が先輩方と同じものであれば、あの呪文を唱えて篠笛を吹けばいいはず。
私は先輩方の真似をするように呪文を唱えました。
「闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!」
篠笛を吹くと、先ほどまでは体操のニンジャ衣装だったのですが、霧が私を包み込んで黒と橙色のくノ一衣装へと変えました。
上は甚平のような忍術の道着で袖は振袖のように長く、下はくノ一の黒を基盤にした短いタイトスカートで、黒の足袋ニーソックスに草履とくノ一衣装へと変えました。
両手に柄が脇差サイズで刀身が打刀サイズと変わった日本刀が持たれ、紅葉流居合道でも稀に教えている二刀流となりました。
いつも結んでいる柿色のリボンも少しだけ大きくなり、私は突然浮かんできた名乗りを口にします。
「秋道に舞い誇ることモミジのごとし!紅葉もみじ!あなたの罪魔の力…御祓いいたします!」
「ジャマモノ…フエタ…!マタ…ヤツハシ…タベレナイ!イヤダァァァァァァァ!」
「紅葉さん!危ない!」
「心配はご無用です!とうっ!」
「うわっ!紅葉さん凄いジャンプ力!」
「ナンダト…!」
「あなたの心の悪魔をここで振り払います!はぁぁぁぁぁっ!」
「グワァッ!」
「紅葉さん…あなたも妖魔を宿っていたんだ…!」
「今です!紅葉さん!早く浄化を!」
「ヒメギクさん!心得ました!あなたの自己中な魂…ここで潤してあげます!暁ノ華厳大滝斬!」
「グワァァァァァッ!」
「クソッ…!新たな妖魔使いが現れやがったな…!」
こうして獄魔は浄化されて魂になり、その魂は男性の胸元へと還りました。
日向先輩と春日先輩が足止めしてくださったおかげでお店は無事で、店主さんやお客さんも犠牲者は出ませんでした。
男性が意識を取り戻すと、反省したのでしょうか先ほどの心の乱れを感じず、スッキリしたかのようにお礼を言いました。
「さっきは助けてくれてありがとう。どうやら仕事が上手くいかずに勝手にイライラして、大好きなこのお店の八つ橋が食べられずに怒りが爆発してしまったみたいだ。」
「そうなんだ…このお店は人気ですからね。」
「観光客も多く訪れるって聞いたよ。でも…買えなくてごめんなさい。」
「いいんだ。また明日買いに行くよ。それと…今勤めてる会社を明日辞めようと思うんだ。どうせ課長とは犬猿の仲でいつも減俸喰らってるし。」
「あの…もしうちの常連で店の八つ橋がお好きでしたら…ちょうど従業員を募集していたんだ。よかったらうちで修行していってください。」
「いいんですか…?」
「もちろんです。ここんとこあんたは買いに行くときは沈んだ顔をしていてね。いつも用意してあげられなくて申し訳がなかったんだ。だからずっとストレスだったろう…ごめんね…。」
「いいんです。おかげで今の会社とは縁が切れそうだ。もうイライラを溜めこまないように頑張るよ!」
こうして事件は解決し、あの八つ橋屋さんは花柳先生がプロデュースしている新アイドルが絶賛というキャッチコピーでさらに大繁盛し、支店を多く揃えることが出来ました。
同時に獄魔になられた男性も八つ橋屋さんで職人見習いとしてやり直し、きっと大繁盛を陰で支える存在になるでしょう。
一方の私はニンニンニンジャ体操が子どもたちに大好評で、京都の保育園や幼稚園で踊られるようになり、なでしこアイドルとして一歩前進しました。
それから3日後…
「よし全員揃ったな。これからそなたたちのグループ名を発表する。その名も…月光花だ。」
「月光花…!」
「そうだ。アイドルは本来なら太陽のように輝き、明るく世を照らす存在だ。だがそなたたちは月の光のように儚く輝き、その光を浴びる花は面妖な美しさを引き出す。言わば影のアイドルとなる。何も明るく華やかなのだけがアイドルではない。それに…我々には妖怪たちの期待も背負っている。妖怪は人の影に隠れるものだ。その影となりてファンを虜にする。それが月光花だ。」
「さすが花柳先生!」
「私たちにピッタリのグループ名ね!」
「ええ、これからは月光花として精進するでございます。」
「月光花…いい名前だな。」
「そしてリーダーは常盤わかばさんに任命する。そなたの計画性と正確さにグループを任せようと思う。」
「はい!」
アイドルとしても順調に進展し、これから月光花としてローカルからスタートをします。
ザイマ一族との戦いとも両立しなければなりませんが、京都を希望で包むためにもアイドルとしても妖魔使いとしても負けられません。
つづく!




