第66話 長女サトリーヌ
~紺野るりside~
裁きの鏡に入った私とサトリーヌは荒れ果てた荒野にたどり着き、今は睨み合いの状態になりました。
サトリーヌは弓を構える様子がなく、私の心を覗くように微笑みました。
ですが私も花柳先生やヒメギクさんに習いました閉心術で心を悟られないようにしました。
サトリーヌは心を読むことを諦めたのでしょうか、言葉で開心術をしだしました。
「あなたも意外と頑固なのね。何としても心を開こうとしない。人間の心は容易く覗けるのに不思議ね、あなたは。」
「そう簡単に心を覗かれては困るのでございます。あなたのような穢れた心を持つ女に心を読まれてしまっては、何か悪い事が起きそうでございます。」
「悪い事ね…人間にとってはそうかもしれないわね。あなたの心を読む以前に、開かせることは今は困難だって事がわかったわ。ならば…強引に開心させあなたの心を支配させてもらうわ!」
「させません!ここには人質になられるような方はございません!思う存分戦えるでございます!」
「言ってくれるわね!これでもくらいなさい!」
「うっ…!矢のスピードが前よりも格段に上がっているでございますね…!」
「あら、お美しいお顔に傷がついたわね。女として屈辱かしら?」
「いいえ。この戦は傷ついてでも勝たなければならないでございます。ここで逃げてしまえば…女として廃れるでございます!」
「普通の男でも逃げる状況で逃げないっていうの?あなた、面白い子ね。これで遠慮なくやれるって事ね!もう一度くらいなさい!」
「この矢のスピードでございましたら避けるのは不可能でございます…。ならば…はぁっ!」
「へぇ…。」
私はあのスピードを避けるのは本能的に不可能と判断し、扇で矢を放った瞬間に前へ振って風を起こして矢のスピードを落としました。
そして身体に近づいたところで矢を扇で叩き落とし、今度は傷つくことがありませんでした。
サトリーヌは面白いと言わんばかりに微笑み、私の顔を見てにやりと笑いました。
「うふふふ、あなたは面白いのね。普通の愚かな人間とは全然違うもの。逃げず自分のためだけでなく世界のために戦うのね。自己犠牲と言うべきか、勇気があると言うべきかね。」
「それはありがとうございます…。」
「矢を防ぐ妖魔の力があるのなら…今度はこれでいくわよ!」
「矢じりが変わったでございますか…!?」
「ふんっ!」
「きゃぁっ!!」
私は矢じりが変わった事に気付きましたが時すでに遅く、サトリーヌは矢じりこそ尖ってはないものの風の抵抗をまったく受けない特別製のもので猛スピードで私の脚を射抜きました。
右脚を射抜かれた私はそのままガクッと崩れ落ち、それが原因で的にされるかのようにサトリーヌの連続射撃に大ダメージを負いました。
連射するというよりも同時に無限の矢を発射させ、前だけでなく上からも矢が降ってきて避ける場所をなくすものでした。
そしてついに私は隙を大きく作ってしまい、サトリーヌは計画通りという微笑みで私の腹部を拳で殴りました。
「うぐっ…!!」
「うふふふ、あなたは十分頑張ったわ。でもこの痛みで閉心術を使う余裕なんかなくなったわね。じゃあ早速…ふーん、なるほどねぇ…。」
「随分趣味の悪い事をなさるでございますね…!」
「この期に及んでまだ閉心術を使える気力があったなんてねぇ。じゃあいいわ、冥土の土産にあなたにひとつ教えてあげるわ。」
「何を…するでございますか…!?」
「あなたにとっても重要な話よ。何故私がそこまで人間を毛嫌いするかもね。私は生まれつきずっと人間にだけ心が読める能力があったのよ。妖怪や他の兄弟たちのは生憎読めなかったけどね。パパは人間が大嫌いで、いつも人間の悪い事ばかり教えてくれたわ。本当ならそんな偏った教育は子を滅ぼすはずだけど、私はちょうど心を読んだり、開心術を使いこなせたり出来たの。その開心術が使えるが故に…私は人間の悪い心、それもどうしようもないくらい薄汚れた欲望に絶望したわ。人間ってこんなにも自分のために他のものを利用して、裏ではこんなに見下したりバカにしたり、最悪心の中で殺したり死を願ったりするのね…って思ったわ。人間なんて…心の中では悪い事ばかり考えるのよ。あなたの心は全然読めないけれど、他の人間は腹黒くて性格悪くて…現に金儲けするために誰を陥れようか、あの人を殺すためにどう隠そうか、自分たちの悪行をいかに隠蔽するか、世の中の人間なんて裏の顔を覗けばこんなものなのよ。」
「それは…確かにそうでございますね…。」
「ここまで核心を突けばさすがに心を閉ざす余裕なんてないわね。じゃあ…」
(私は…私は一体誰のために戦っているのでございますか…?このまま諭されて負ければ…皆さんを裏切る事になるのでございますか…?ザイマ一族の言う事は正しいのでは…?)
「そこまで考えるなんて、あなたもやはり人間が信用できない一面もあるのね。それともパニックになって何を信じればいいのかわからなくなったのかしら?もう残念だけど…ここで終わりにするわ。さようなら…紺野るり。」
サトリーヌに諭された私は、今まで何のために戦ってきたのか、誰を守るために戦ってきたのか、アイドルをやって人間の皆さんは変われたのかわからなくなりました。
無気力状態が続き、私は戦意を喪失してそのまま扇を足元に落としました。
サトリーヌは至近距離で矢をつがえ、私の喉元と胸元を同時に射抜こうと構えました。
ですが…私はもう一度考え直し、鏡に入る前のはなさんとの約束を思い出しました。
その約束を破ればはなさんは息絶え、自分たちの無力さを永遠に呪い続けるでしょう。
その恐ろしくも友情を誓い合える呪術を思い出した私は、欲深くて裏で悪い事ばかり考えている人間たちを想うのをやめ、今まで接してきた家族や仲間、友達や師匠などの温かい心を持った方々のために戦うと決心しました。
「っ…!?何…この胸元から輝くこの黒い光は…!?」
「サトリーヌ…あなたは確かに心を読めるが故に、醜い部分ばかりをご覧なられたと思うでございます…。開心術が出来るが故に、相手をコントロールして自分の思い通りになり、人間の脆さと弱さを実感なさったことでしょう…。ですが…人間は生憎ながら心を読むことは不可能でも…心を開かせて自分だけでなく他者とも共有する事も出来るのでございます…。共有出来るからこそ…それぞれ好きなものを語り合ったり、目標や夢のために一緒に歩んでいったりするのでございます。心が読めて今まで辛かったでしょう…?私があなたをその呪縛から解き放つでございます!」
「呪縛…?随分新しい表現ね…?私はオロチマル兄さんと同じ一度決めた心は揺るがないの。アマジャーク兄さんと違って価値観が違うからって激昂したりしないわ。残念だけどあなたはここで終わるのは確定なの。だからごめんなさい、さようなら。」
「そうは…させません!」
「くっ…!」
「私は…もうあなたの言葉に惑わされないでございます!自分の信じた心をもう裏切らないでございます!サトリーヌ…お覚悟はよろしいでございますね!」
つづく!




