第65話 激昂
アマジャークが人間と同じ欲望を持っていると指摘されると、一緒にするなと言わんばかりに激昂しはじめ、知略を誇る彼でさえ核心を突かれると感情的になるとわかった。
私は冷静に一つ目小僧の能力である視力強化を利用し、苦手な動体視力を上げて回避能力を高めた。
同時に槍も少しずつ疲労が見られ、私はここぞと言わんばかりに火縄銃を構えた。
「どこまでも僕を侮辱するのですね!人間はいつも僕たちを逆なでしますね!」
「さて、どうかしら?力と知で人間を破滅に追い込み、自分たちの理想のために欲深い人間を滅ぼそうとする欲望持ちのあなたたちに言われたくないわね!」
「ふざけたことを抜かすな!僕は…下等生物の人間なんかと違う!」
「ならそれを証明することね!欲深い知識を使う人間と一緒にされたくないなら、まず世のため人のための知識を使って心の成長をしなさい!」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!あなたのような人間に言われたくはない!」
私はアマジャークが何故人間を見下してるのに自分たちを棚に上げて滅ぼそうとするのかは想像がついた。
彼は物心ついたときから人間に憎悪を抱く父親のアクドーに育てられ、知的な彼だからこそ人間の醜い部分ばかりを見せられて自分がいかに賢く、人間がいかに愚かな生き物かを植え付けられたのでしょう。
哀れに思った私はせめてもの救いでアマジャークを討伐して思い直させる必要があった。
アマジャークが怒りに任せて振るった槍が襲いかかり、私は冷静に銃身を盾にして塞いだ。
「何…!?」
「どうやらあなたの知略は核心を突くことで崩壊し、理性をなくした結果がこれのようね!絶対的知性に対する自信もここまでね!」
「ふざけるな…!こんな下等生物の人間より僕の頭脳が劣っているというのですか!?」
「劣ってるとか優れてるとかの問題じゃなくて、あなたは少々…いいえ、非常に偏った知識でしか生きれなかった残念なエリートのようね!柔軟な知識を得られなかったあなたはもう既に負けは確定しているのよ!」
「黙れ黙れっ!あなたはここで終わりです!あの世で僕を怒らせたことを後悔しなさい!うわああああああああああああっ!」
「一点に集中しなさい常盤わかば…。必ず彼に隙があるのだから…。そこよっ!神風旋陣大砲!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私の渾身の一撃がアマジャークに被弾し、彼は悲しみにあふれた断末魔を上げた。
花柳先生に教わった残心を火縄銃に込め、魔力ですぐに装填していつでも撃てるようにした。
アマジャークは悲しそうな表情で手を天に仰ぎ、涙を流してこうつぶやいた。
「ああ…僕が…人間より劣っていたなんて…。認めない…認められない…。何故…下等生物に負けなければならないのですか…?」
「あなたが死ぬ前に教えてあげるわ。知識での負けを恥とするか、成長の経験値にするかはその人次第なの。あなたは今まで失敗を犯さずに完璧にしてきた。もし生き続ければもっと成功するでしょう。でも…相手を見下し驕ってしまった時点で知識の獲得は遅れてしまったのよ。偏った思想はいつか自分自身を滅ぼすの。人間を見下すのは自由よ。でもそれを理由に滅んでいいはずがないわ。知識に溺れ、他人を見下せばいつかは…ね?」
「そうですか…。あなたは僕と違う賢さを持っていますね…。もっと早く…あなたに出会えていれば…僕はもっと違う生き方をしていたでしょう…。僕の完敗です…生まれ変わるなら…今度はあなたの言うように賢く成長していきますね…。もうすぐ鏡の世界は崩壊します…父さんは強いです…。その知略であなたの幸運を祈っています…。」
「ええ…最期にあなたにもわかってもらえてよかったわ。」
こうして私はとどめの一発を胸に撃ち込み、アマノジャークは灰になり勝利を収めた。
賢さは道を踏み外せば破滅の道を歩み、最終的には世を混乱させ、自分自身を苦しめてしまう。
一時的には快楽を得るけれど、遠い将来に自分に跳ね返ってくることは確かね。
生きているうちは問題なくても、死後はその驕った知識で損をするかもしれない。
私は賢く自分を高め、自分が今まで得た知識でもっと日本文化を知り、世界中に広めたいと思った。
しばらくすると鏡の世界が崩壊しはじめ、私は吸い込まれるように脱出した。
気が付くとボロボロのもみじと、アクドーに縛られたはなとひまわりが目の前にいた。
「わかば!無事だったんだね!」
「さぁね…これを無事と言えるのかしらね?」
「いいえ!生きて帰ってこれただけで無事ですよ!わかば先輩は月光花の知性です!」
「もみじに言われると自信が湧くわね。」
「本当によかった…!」
「はな…心配かけてごめんなさい。それより他のみんなは…?」
「それが…かなり苦戦を強いられています…。力自慢のオニゴロー、圧倒的スピードのドクロスケ、そして開心術で心を惑わすサトリーヌが厄介です…。」
「そう…。でもみんななら心配ないかもしれないわ。何故だかわからないけど…そんな気がするの。」
私はみんなが無事で帰ってくる、何故か心の中でそんな気がしていた。
アクドーはその発言を無視していたけれど、どこか我が子を思いやるような表情で鏡を見つめていた。
私に気付いたアクドーは驚きと悲しみの表情を見せ、私を憎むようにこう言った。
「アマジャークを倒したか…。我が手塩にかけて育て…莫大な知識を与えた我が頭脳を…。貴様の知略は厄介だな…。奴の知は完璧なはずなのに何故だ…。」
「あなたには一生分らないでしょうね。彼がいかにあなたのせいで偏った知識を持ち、私のような人間に負けてしまったのかを。」
「言ってくれるな…下等生物の分際で…。だが問題はない…我が子たちはそう簡単に全滅はしないのだからな…。」
「いいえ…私は先輩方を信じます!私でさえ最強のオロチマルに勝利を収めました!ですから偉大な先輩方だって勝ちます!」
「もみじちゃん…。」
「言ってくれるね私たちの後輩は…。そうだアクドー!お前の思い通りになんかさせないぞ!」
「勝手に言っているがいい…。勝つのは我々ザイマ一族だ…。たとえザイマ一族最強の男や…ザイマ一族の頭脳を失っても…我々の勝利には変わりない…。貴様らはここで疲れ果てながら見ているといい…。極楽浄土になってゆく瞬間を…。」
アクドーは余裕の笑みを表では浮かべていたけれど、裏を見れば自分の育てた子を失った事にショックを隠せなかった。
口元は歯を思いきり食いしばっていて、眉間にはシワが寄っていて、声も徐々に震えはじめた。
自分の子が絶対に完全勝利を収め、そこで一気に人間界を極楽浄土にするはずの計画も壊れ、揚げ句の果てには自分の子を失ったのだから無理もなかった。
他のみんなもどうか無事で帰ってきて…。
つづく!




