第59話 呪われし血統
私たちは家族と花柳先生を安全な場所へと避難させ、神木の木陰に隠れて意識が戻るまでそばにいた。
お父さんとお母さんは深い傷を負っていたものの、意識は徐々に戻り、おじいちゃんも受け身を上手く取っていたのか軽傷で済んだ。
しかし花柳先生は想像以上に重傷で、倒れた隣には長めの刀が置いてあった。
忍術で怪我の応急処置を学んでいたもみじちゃんが花柳先生の体を気遣って包帯を巻いたりした。
すると先に意識を取り戻したのは花柳先生で、先生は私たちがいる事を確認すると嬉しそうに微笑んだ。
「ああ…そなたたち…。ついに来たのだな…。」
「先生!」
「ご無事で何よりです!」
「すまぬ…某は…そなたたちの大好きな…この街を守れなかった…。」
「顔を上げてください花柳さん!春日さんたちと一緒に京都を守ろうと戦ったじゃないですか!」
「それで私たちを置いて京都に帰ったんですか…?」
「念のために…焔間さんには合流するように命じた…。だが予算もないのにどうやって…?」
「それは…」
「支援者がいたんです。皆さんにとっては評判が悪い方でしたが、事情を話したらすぐに支援してくれました。」
「それって…高飛車きららの事?」
「はい…。」
「いつの間に彼女と交流していたのだな。」
「はい。ですが…この事は芸能界では秘密にしてください。彼女には闇の力を背後から感じました…。」
「そう…。それよりザイマ一族は…?」
「もう隠していても仕方あるまい…。ザイマ一族のアクドーは…元は人間であった事は聞いているだろう…。あやつの本名は…花柳亜鬼邪…。某の忌々しき遠い先祖だ…。」
「何ですって…!?」
花柳先生は衝撃的すぎる発言をし、私たちは花柳先生がアクドーの子孫だって信じられなかった。
アクドーが元々は人間だったことは知っていたけれど、どうやって悪魔となったのか少し気になった。
花柳先生は荒い息を吐きながら傷口である胸を押さえ、辛そうに昔の話をし始めた。
「アキヤは元々は両親に酷く嫌われてな…。何をやっても認めてくれず…学校でもそれを拗らせてしまい…友達からも裏切られ続け…恋に慕っていた女からもいじめを受けた…。それを大人まで引きずり…社会で上手く溶け込めずに引きこもり…さらに第3次世界大戦で人間の弱さと醜さ…そして欲望の多さに失望し…人間を滅ぼして地球を本来の姿にしたいと強く願った…。そして運命的な女性に出会ったものの…赤子の一人娘を連れて妻は失踪し…あまりの絶望に己の命を生贄に悪魔に魂を売った…。その悪魔は…今はアクドーの妻として君臨し…ザイマ一族の幹部を生み出し…絶望姉妹と連携し…ザイマ一族を裏で率いていたのだ…。その悪魔の名は…ホロビノミコ…。」
「ホロビノミコ…!」
「あやつは長女のアンゴル・モア…そして三女のディスピアと同じ…絶望三姉妹なのだ…。アキヤは自らの魂をアクドーとしてホロビノミコと血の誓いをし…ザイマとなったのだ…。」
「そんな…それじゃあ花柳先生は…!」
「アクドーが人間時代に遺した子の末裔でございますか…?」
「そうだ…それが某の…呪われし血統だ…。そして…妖魔大王である春日聖一郎は…悪魔殺しと言われた…この大太刀でアクドーを斬り捨て…ホロビノミコ諸共封印したのだ…。だがアクドーの魂は妖魔界に居座り…ホロビノミコと共に生み出した子たちを率いてクーデターを2000年越しに起こし…人間界に復讐をしようとしたのだ…。某は…人妖神社の大炎上を知り…子孫へと遺した悪魔殺しを掘り出し…そなたたちに強い妖魔の力を感じ…月光花を集結させたのだ…。」
「それってつまり…花柳先生はずっと私たちを見守り、この時のためにずっと私たちから離れて京都を気にしていたって事ですか…?」
「無論だ…。だがそれも果たせなかった…。すまぬ…。」
「もう我慢できません…。私もあなたの意志を受け継いで戦います!その大太刀をお借りします!」
「よせ…その大太刀は呪われし血統である某にしか扱えぬ…!最初は妖魔大王専用の刀であったが…アクドーの執念と…遺された一族の呪いがかけられている…。焔間さんには危険だ…!」
「だとしても…私はパパの仇を討てなかった…。人間界をも守れなかった…。知らなかったとはいえ…憎きアクドーの子孫が野望を止めようと命をかけてまで戦った…。それに…みんなも頑張ってザイマに挑もうとしている…。それなのに私は…何の役にも立ってない…だから…うっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ヒメギクさん!」
「止めないと…このままだとヒメギクは…!」
「待って!ヒメギクちゃんなら大丈夫…。」
「何故止めないんだ…?ヒメギクは命を捨てようとしているのだぞ!」
「ううん…ヒメギクちゃんはこれくらいで死ぬような修行はしていないよ…。私は知ってるよ…。ずっと一人で自分と戦い…弱さを知って強くなろうと頑張っていた事…。だから私は…ヒメギクちゃんを信じてます!」
「はな…そうだ…!私はこれしきの事で…負けるわけにはいかないよ…!私は将来の3代目妖魔大王になる…焔間ヒメギク!妖魔界を守るのが私の使命!ここでやらなきゃ…いつやるんだっ!!」
するとヒメギクちゃんから黒い霧と黄金の光が包み込み、花柳先生の言っていた先祖の呪いは完全に解かれた。
おそらくこの日のためにずっと乗馬で春日家に伝わる神鳴の刀でザイマとの戦に備えていた。
そのヒメギクちゃんは春日家に伝わる罪魔の力との向き合い方と妖魔の力による精神統一の修行を続け、2000年の歴史のある長き呪いから解放した。
大太刀はヒメギクちゃんと同化して消えていき、何やら怪しい黒い甲冑姿の男の化身が背中から感じられた。
そしてヒメギクちゃんは…平安貴族のような黒い衣冠と指貫で、両胸に黄金の菊の紋章が刺繍されていた。
「闇夜に咲き誇ることキッカのごとし!焔間ヒメギク!」
「何と…そなたは本当に…3代目妖魔大王となる者なのか…!?」
「花柳さん…あなたの無念をここで晴らします!」
「そうか…。ではそなたたちに…某が叶わなかった…人間と妖怪の絆を…守ってやってくれ…。頼んだ…ぞ…」
「先生!」
「行こう…。花柳先生の努力を無駄にしちゃいけない…。私たちがやらないと…もう誰もザイマ一族を止められないから!」
「そうだね…。はなの言う通り、私たちで何とかしないと!」
「花柳先生の悔しいお顔…忘れるわけにはいきません!」
「人間のみんなも妖怪のみんなも…せっかく長年築き上げた絆を壊したくないと思うんだ!」
「これ以上奴らの好きにはさせん!私たちは日ノ本に咲き誇る月光の花だ!」
「闇に隠れ影となり、一輪の花となって舞い誇るのよ!」
「散る運命だとしても…また咲けばいいのでございます!」
「これ以上…悲しい歴史を繰り返させないよ!」
「日ノ本を護りし妖魔使い!」
「「七つの罪を潤いし使者!」」
「月光花!」
「「いざ参る!」」
こうして花柳先生の長い時を経た因縁と、春日家に伝わる伝統と、妖魔界と人間界の未来のためにザイマ一族との決戦を迎える。
東京では事件はどうやら解決したらしく、平和が戻ったらしい。
京都をこれ以上ザイマ一族による破壊と混乱を招かないよう、私たちは篠笛で怪しく演奏し、京都に愛と平和の祈りを行った。
つづく!




