第53話 ドクロスケ襲撃
「ケケケケ…いいねぇ、その憎しみにあふれた顔…。俺っちそういう顔が大好きなんッス!」
「貴様…軽薄だけでなく外道とは…!」
「おっと、今動いたらお前の姉であるこいつの命がないッスよ?」
「何だと…!貴様!卑怯な真似ばかりしてくれる!」
「卑怯?それは弱者が強者に言う遠吠えの事ッスか?そういうの気持ちいいんスよねぇ~。」
「つばき…。」
ドクロスケは姉を人質に取るだけでなく、囮にして私に無抵抗を促した。
このまま動けば姉の命を目の前で奪われ、私は姉を殺したことになってしまう。
私は恐怖と絶望のあまりに戦意を失い、薙刀を足元に落とした。
すると姉は意識が朦朧としながら私に喝を入れる。
「つばき…私の事はいいから…こいつをやっつけて…。あなたは十分強くなった…。勇姿を見れて…悔いはないわ…。」
「つつじ姉さん…私はまだ…あなたに恩返しをしていない…。」
「いいの…もうあなたに恩返しはされたから…。あなたは私が出来なかった…なぎなたの全国大会出場を果たしてくれた…。それで嬉しかったの…。それに…いつか私もあなたと共演出来ると夢を見たけれど…本当に夢が叶った…。だから…悔いはないわ…。さぁ…私の事はもういいから…こいつに攻撃をして…。」
「姉さん…心得た…!ドクロスケを倒さねば…世界は平和にならぬ!覚悟しろドクロスケ!貴様の卑怯で卑劣で軽薄な男である貴様を…許すわけにはいかん!雪月氷晶斬!」
「本当に撃ちやがった!?いいんスか!?こいつの命がどうなっても…」
「一瞬の隙を見逃すな…。そして全魔力を下半身に溜め込め…今だっ!はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐわぁっ!」
「ああ…つばき…。」
薙刀をもう一度手に取って必殺技をドクロスケを姉さん諸共向けて放ち、ドクロスケが一瞬で後ずさりして隙を作った瞬間を見逃さず、魔力を下半身に集中させて瞬間移動をする。
その間にドクロスケの顔に鉄拳を加えて姉さんを取り戻し、抱きかかえてその場からすぐに離れた。
必殺技はさすがに弾かれてしまったが、姉を救うという作戦は成功した。
人質を取られたことに気付いたドクロスケはショックだったのか歯ぎしりをし、私の方を睨みつけた。
「お前…随分俺っちに屈辱を与えてくれたッスね…!人質を取ってお前の戦意を喪失させ、憎しみの罪魔の力を利用して父ちゃんを復活させようと思ったのに!」
「貴様の私用だけで悪の根源を復活させるわけにはいかん!これで私は自由の身だ、覚悟するがいい!」
「まだ憎しみが込められた顔をしてるッスね…。へへへへ…もっとこいつと戦いたいッス。人質は取られてももう一度奪えばいいだけの話ッス!」
「そんな事はさせん!姉さんは早く逃げるのだ!」
「わかったわ!でも…無茶はしないでね!」
「行かせないッス!」
「それはこちらのセリフだ!」
姉さんは足元が震えながらも全力で遠くへ逃げ、地下鉄の方へ走っていった。
ドクロスケが姉を追おうとしたので私はその動きを読んで薙刀を構えて威嚇する。
奴は悔しそうに姉がいなくなるのをジッと見て、いなくなると私と戦う意思が出たのか鋭い爪を研ぎ澄ませて襲いかかった。
奴の単調で単純な動きは素早くて目では負えないが、肌と耳を使えばどうってことのない動きだった。
奴は地面を蹴って動く時に視野が狭いのか一直線にしか動けず、その軌道を読めば簡単にかわす事は出来る。
それに重力に逆らわずに避ければよいので奴はだんだん疲れが出始めた。
私はそれを好機と判断し、もう一度必殺技を放つ。
「これで決着をつけようぞ!雪月氷晶斬!」
「うぐわぁぁぁぁぁぁっ!……なーんちゃって…ふんっ!」
「何だと…!?」
疲れ果てたドクロスケに必殺技で決着をつけるはずが、ドクロスケはニヤリと微笑み、私の必殺技をいとも簡単に弾き飛ばした。
渾身の攻撃が通用せず、私はショックのあまりにただ呆然とするばかりだった。
ドクロスケは人差し指を左右に揺らし、チッチッと舌打ちをして挑発する。
「あーらら、残念だったッスねー。俺っちをちょっとだけ本気にさせたのは褒めてやるッス。けど本気を出すのは今じゃないッス。もう俺っちの今日の役目はこれで終了ッスからね。妖魔使い冬野つばき…次会う時はそう簡単に勝たせないッスよ。ではバイバーイ。」
「こいつ…まだそんな力が…!」
「ザイマ一族の目的は…父であるアクドーを復活させ、人間界から人間のみを絶滅させて極楽浄土を創り上げる事…。その復活に僕たちが利用されたって事…?」
「わからないが恐らく私たちにも潜んでいる罪魔の力を利用したのだろう。悔しいが…奴らの手に乗ってしまったわけだ…。」
「それじゃあ…今度から罪魔の力に支配されない精神的修行が必要になるね。僕らサポート妖怪も含めてね。」
「その様だな…。」
つつじ姉さんは助けられたものの、ザイマ一族の目的であるアクドー復活に手を貸してしまった事に虫唾が走るが、ドクロスケの本気はまだこの程度ではないという事がわかった。
ザイマ一族にはまだまだ力が蓄えられていて、奥の手が隠されているようにも思える。
事が落ち着いたところでまたスタジオに戻り、私は収録を再開する。
姉の芝居はとても聞き入るものがあり、声だけで芝居をする難しさと奥の深さを目の前で感じた。
身振り手振りがないからこそ芝居力に力をつけなければならず、より演技力と創造力が試される現場となった。
収録時間が終了し、私は姉の護衛のために家まで送る。
「別にいいのに、私はもう大丈夫よ。」
「たまには姉妹水入らずで語りたいものさ。」
「そう?じゃあお言葉に甘えるわ。」
「姉さんのおかげで私はアイドルとして道を進むことが出来た。それがきっかけでもう一度なぎなたを始められた。初心に戻ってやり直す機会を与えた姉さんに感謝する。」
「何を言ってるのよ。私が中学の時になぎなた全国大会目前で負けて、私の無念を晴らすかのように全国で準優勝まで導いたじゃない。私にとってあなたは誇りなのよ。なぎなたで全国に行けないから早々に諦めて別の道へ進んだ私と違い、なぎなたと真摯に向き合って続けられた。私よりも強い子だわ。」
「つつじ姉さん…。」
「だから今後ともよろしくね、つばき。」
「ああ!」
私は弱いままだ、いつも姉に頼ったままでいる。
それでも私は過去の私より強くなった、その姉を越えることが出来ただけでなく、姉を助けることが出来た。
人というのは弱さを認め、そこからどうするかで人生が決まる。
逃げる事は恥かもしれないがもちろん役に立つこともある。
逃げてばかり、あるいは挑んでばかりだといずれは逃げも挑みも疲れが発生するだろう。
私はもっと過去の自分に挑み続け、今後も勝利してみせる。
しかし…他の皆はまさかザイマ一族と接触してないだろうか…?
つづく!




