第52話 姉がいない
~冬野つばきside~
もみじの朝の走り込みや、すみれの舞台稽古をしているうちに、私はなぎなたの自主稽古に励んだ。
本来なら本物の薙刀で稽古をしたいところだが、変身はいざという時にしか発揮せず、さらに日本には銃刀法違反がある。
なので競技用のなぎなたで木偶人形を相手に打ち込んだ。
朝の自主稽古を終えてすぐに、私はある現場に向かった。
「おはようございます。今日は冬野姉妹が揃う日だね。」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「今日の仕事はゲームの収録だよ。戦国繚乱娘という戦国時代の女性による戦シミュレーションゲームだよ。」
「わかりました。姉はどちらにいますか?」
「お姉さんはまだ到着していないね。まぁもうすぐ来るだろう。」
姉の冬野つつじはまだ到着していないらしく、他の皆はもう準備が出来ている。
合流待ちの共演者の残るは姉のみになり、いつも30分前行動を心掛けているのに遅れるとは珍しいなと少し心配になった。
念のためにLINEで連絡を取るも、姉からの既読がつかなかった。
収録時間になり、私は時間通りにスタジオの中に入る。
「じゃあ最初はつばきちゃんが演じる主人公の妹のお菊のセリフお願いします!」
「はい!…姉上…このままではこの櫻ノ国が持ちません!あの元帝国の軍勢があまりにも多すぎます!我らが櫻ノ国軍もこのまま押されるわけにはいきません!覚悟っ!」
「はいオーケーでーす!つばきちゃんいいねぇ!普段の勇ましいキャラが今回は規律を大事にする小さな女の子って感じが出てたよ!」
「ありがとうございます!」
私は順調に収録を進め、それぞれの声優さんも続々と終える。
それでも姉はまだ姿を現さず、連絡も来ないまま遅刻するとは何か不幸が起きたのではと不安がよぎった。
私は姉が心配になり、監督に迎えに行ってよいかを訪ねる。
「すみません、姉がどうしても心配なので迎えに行っていいですか?」
「お姉さん想いだね。彼女が無断で遅れたりドタキャンするわけがないからねぇ…それじゃあお言葉に甘えるよ。頼んだよ。」
「はい。」
一度スタジオに出て姉が今はどこにいるのかわからないので姉が住むアパートに向かう。
このまま探しに行くと言い訳して逃げたと思われたくはないので念のために荷物を財布以外預かってもらった。
すると最寄り駅の青山一丁目駅で姉のスマホが落ちていて、片足の靴まで脱がされていた。
姉の靴を拾おうとすると、どこからか怪しくも軽薄な声が聞こえた。
「おいっす!俺っちはドクロスケッス!妖魔使いの姉である冬野つつじって子?あまりにも俺っち好みだから誘拐したッス!もし返してほしければお前の命を引き換えッス!このスマホと靴を持ってここで待ってるッス!」
「あいつめ…ドクロスケの仕業だったのか…!挑発に乗ったみたいで気が重いが、ここで待つしかないな。」
姉がドクロスケにさらわれてしまい、私はドクロスケの言葉に従いざるを得ないまま青山一丁目駅でジッと待つ。
それにしても…東京はもっと人でにぎわっていると思っていたのだが、いつもと違って人が流れておらず、空は薄暗くて木々は冬とは思えないくらい枯れていた。
まさか東京にもザイマ一族の魔の手が下りたのだろうか。
ジッと待っているとドクロスケが急に現れ、姉のつつじも人質状態になっていた。
「これはこれは妖魔使い!俺っちの事を覚えてるッスかー?」
「ドクロスケ…貴様が姉を人質にするとは随分卑怯な真似をするものだな!」
「卑怯?俺っちは地球のために人間を人質に取ってあげてるんスよ?卑怯だっていう考えこそ理解不能ッス。だって人間が人質で感情が爆発するのはその人にとって大事だからでしょ?でも俺っちにはその大事って気持ちが理解できないッス。だから…相手の大事なものを奪い、破壊するの大好きなんスよねー。ほらほら、返してほしければ変身して早く戦うッスよー。」
「貴様…どこまでも外道を行くのだな!もう許さん!闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!雪原に咲き誇ることツバキのごとく!冬野つばき!貴様の軟派で下衆な考えを正してみせる!」
「つばき…変身しちゃダメ…!あいつは…強いから…!」
「姉さん!私はあれから強くなったのだ!私だって姉さんを失うわけにはいかないのだ!まだ…アイドルに進んだ時の恩返しをしていないのだからな!」
「つばき…。」
「ならかかって来るッス!ボッコボコにするッス!」
「いざ参る!はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「オラオラオラオラオラ!」
姐さんは手足を縛られたままでその場から動けず、ただ私の戦う姿を見つめていた。
ドクロスケは素早いスピードで翻弄し、動きに欠ける薙刀では奴のスピードを捕らえる事が出来なかった。
それでもリーチの長さがある分、攻撃を被弾する事はなかったが、決定打を与えることが出来ない。
無心さんの表情が悟られない能力を使うもドクロスケはニヤリと微笑みながら襲い掛かり、ザイマ一族の兄妹たちにはその能力はあまり通用しなかった。
「ほらほらー!こんなものなんスか?妖魔使いも随分弱くなったッスねー!」
「くっ…何だこのスピードは…!」
「あまりにも素早すぎて捕らえきれません…。私の能力でさえ追いつかない奴ははじめてだ…。」
「じゃあこっちから攻めるッス!くらえっ!」
「うわぁっ!」
ドクロスケの鋭い爪に引っ掻かれ、私は右腕を爪の跡で出血した。
左手で出血部分を押さえ、回復能力が発揮されるまで止血する。
奴は軽薄で軟派な態度とは裏腹に、戦闘が大好きで血に飢えたドクロのような罪魔の力を感じた。
こうやってザイマ一族は人々から罪魔の力を解放させ、自分たちの父親であるアクドー復活に利用していたのだろう。
そう思うと私はだんだん憎しみが込み上げ、薙刀を強く握りしめて反撃のチャンスを伺った。
つづく!




