第50話 舞台稽古
~藤野すみれside~
もみじが走り込みをしている中で、私は体を鈍らせないように筋トレを早朝に行う。
腕立てと腹筋と背筋、そしてスクワットをゆっくり行い、少し休んだら深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
本来なら走り込みと杖道の稽古なのだが、昼まで余裕のあるもみじとは対照的に朝から私には仕事があった。
その分私はもみじより帰りが早く、不穏な東京の中で安全のために芸能界も自粛が続いているらしい。
そんな中で私は…ある舞台の稽古に励んでいた。
モンスタークエスト・勇者の伝説へ…のミュージカルで勇者の仲間である女性戦士役に選ばれた私は、帝国劇場での舞台に向けて稽古を行う。
「今日は最初の出会いの酒場のシーンからいきます!毎日稽古とはいえ、この頃は首都圏が物騒だから早めに切り上げるよ!」
「はい!」
「ではルキナの酒場のシーンから!よーい…スタート!」
「あら、あなたが国王陛下が言ってた勇者アポロニアの息子さんね。」
「はい。ようやく16歳になって、父さんの敵討ちに行けるようになりました。魔王ヘルモスを討伐するために頑張ります。」
「そう…あんなに幼かった男の子が立派になったのね…。それじゃあちょうど旅の準備をしている女性戦士がいるわ。確か…ここアトランティア王国でも実力のある兵士で、腕っぷしだけでなく戦術も凄いのよ。」
「その女性戦士はどこにいますか?」
「ここよ。」
私は女性戦士のクリスティーンことクリスの役になり、男勝りで野蛮でこそないが好戦的ではあるものの女性らしさを気にする一面のある役を演じる。
主な武器は剣と斧と槍で、いかにも戦士らしい武器となった。
最初の装備は青銅の剣という最初のダンジョンによくある装備で、私は酒場のお酒を豪快に飲みながら勇者に会うシーンをする。
「お、あんたが勇者アポロニアさんの息子かい?」
「は、はい!あなたがその…クリスさんですね。」
「そうだ。私がクリスティーンことクリスだ。見たところあんたはまだ戦士としてはまだまだだが、私よりも将来有望そうだな。私と違って魔法が使えそうだ。私でよければアンタの仲間になるよ。だが…回復役と魔法使いが欲しいところだ。ルキナさんに聞いてみたらどうだ?」
「言われてみればそうかもですね…。」
「ああ、私に敬語なんて使わなくていいさ。堅苦しいのは苦手でね、それで王宮の兵士を退役したのさ。」
「そうですか…ではクリス、その回復役を探そう。」
「ああ、よろしく。」
「はい一旦ストップ!藤野さんはやっぱり堂々とした女性約得意だねぇ。時代劇で鍛えた芝居力も見事だ!」
「ありがとうございます。」
「勇者の君はちょっと委縮しすぎたかな。かしこまるよりももっと馴染もうとしてみよう!」
「すみません、もう一度お願いします!」
勇者ロトニアを演じる子役の金子勇くんはこのモンスタークエストの大ファンで、この作品の勇者になれると知ってオーディションを合格した子だった。
私たちと同じ去年にデビューしたブレイク中の子役で、14歳と遅咲きながらも才能を開花していった。
劇団サンフラワーに所属していて、13歳まではなかなか役をもらえずに陰に隠れていたが、持ち前の勤勉さと探求心で人気になったらしい。
何度も同じシーンを繰り返して少し休み、私は勇くんに声をかける。
「どうしたんだい?少し緊張したのかな?」
「あ、はい…。子役としてドラマには何度か出たことがあるのですが、舞台ともなると失敗出来ないなと思うと緊張して…。本番まで半年あるとはいえ、やっぱりプレッシャーですね…。だから今まで劇団にいながら舞台に上がれなかったんですけど…。」
「そうだったんだね。でも君は飽くなき探求心と芝居に熱心に取り組んだ向上心でこの大舞台に選ばれたじゃないか。それだけでも自信を持ってもいいと思う。この舞台の原作が大好きだったよね。君はその勇者になれたんだ。ゲームの主人公になったつもりでもう少し頑張って見よう。」
「すみれさん…ありがとうございます。」
こうして勇くんを励まして同じシーンをやり、オーケーをもらって次のシーンへと着々と進み、ついに稽古終了時間になった。
稽古場から出ると少しだけ雨が降っていて、不幸にも傘を忘れてしまい雨宿りするのが精いっぱいだった。
すると聞き慣れた懐かしい声が私の目の前から聞こえた。
「すみれ姐さん!お疲れさまです!」
「ドラゴさんにタイガさん、どうしてここに来たのかな?」
「いえいえ、姐さんが舞台をやるって聞いたもんで駆けつけました!それに…タイガの先輩がここの回復役の僧侶を演じてるって言うから。」
「へへへ…その先輩に居場所を教えてもらったんです。そしたら先輩が姐さんは傘を持って来てないらしいから持って来てあげなって言われて届けに来たんです。」
「そうか…ありがとう。」
かつて暴走族の敵対リーダー同士で抗争までしていた二人が私を助け、私は雨に濡れる事を彼らによって凌がれた。
彼らの見送りで寂しさも和らぎ、私はこんなにも応援されているのだと実感する。
すると目の前に190cmくらいある男性が立ちふさがり、私は警戒する。
「道を開けてくれないかい?私たちはそこに行きたいんだ。」
「あ?人間ごときが俺様に命令か?」
「おい…姐さんがそこを通るってんだよ!早くどきな!」
「何なら俺たちが痛い目に遭わせてもいいんだぞ?」
「くだらねぇ…ふんぬっ!」
「うわぁっ!」
「なるほど…。君は確か前にも京都であったね…オニゴロー。」
「覚えてくれたとは光栄だな!テメェを待ち伏せすればここに来るだろうとオロチマルの兄貴が教えてくれたもんでな!そしたら見事に来てくれたぜ!さてと…俺様の金棒で痛い目に遭ってもらおうか!」
「やるしかないね…彼らを犠牲にしたのは痛いが、これ以上の被害を出すわけにはいかない!闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!時雨に咲き誇ることスミレのごとく!藤野すみれ!」
「我も戦う…。すみれ…協力しよう…。」
「はい!立壁さん!」
タイガさんとドラゴさんがオニゴローの金砕棒で吹き飛ばされ、喧嘩慣れしているとはいえダメージが大きかった。
私は彼らに助けられた借りを返すためにオニゴローに立ち向かった。
奴は単純なパワーで攻め伏せ、破壊と殺戮を楽しむ豪傑なまさに鬼のようだった。
妖魔界にもいろんな鬼がいて、怒ると確かに狂暴だけどみんな普段は温厚で、親のお手伝いをした子どもや、高齢者や障碍者を助けた学生、ボランティアに自主的に参加した社会人や主婦の人々を優しく褒めてくれる。
だがオニゴローの鬼としての人格は別で、まさに人間を見下して暴力で支配するというタイプだ。
そんな奴に逆境を乗り越えた彼らを傷つけられ、私は怒りと悲しみが溢れてこん棒を握りしめ、オニゴローと戦う。
つづく!




