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第42話 平安祭・前編

平安館大学の文化祭、通称・平安祭が行われる11月を迎えた。


私たち月光花はプロのアイドルなので平安館撫子グランプリには出場できず、代わりに去年の撫子だったるり先輩が審査員として選ばれる。


他にもわかば先輩は盆栽での新作や文学での発表会、もみじちゃんは紅葉流が主催する忍術体験、すみれちゃんとつばきちゃんは時代劇研究部の助っ人、そしてひまわりちゃんは夏目プロと日向プロとのコラボで対局道場破りという囲碁・将棋体験会をする。


一方の私は書道部の出し物で展覧会を開く。


月光花としての活動は2日目で、今回はクラスや部活の出し物中心の1日目になる。


「春日さん、もう少し右に寄って貼れる?」


「じゃあここかな…?」


「うん、オッケー。」


「やっぱり春日先輩の作品は凄いなぁ…。」


「部長の西明奈さんの作品も凄いよね…。」


「部長と春日先輩の作品を見れるなんて、後輩になってっよかったなぁ…。」


「ほらそこ、感心してないで自分の作品の展示をして。」


「は、はい!」


「西さんごめんね、私がアイドルで忙しいばっかりに手伝わせちゃって。」


「いいの。春日さんがアイドルをやるって聞いたときはビックリしたけど、日向さんに巻き込まれたとはいえ、よくここまで頑張ったと思う。」


「西さんって京都府で金賞獲って全国大会にも出るんだよね?頑張ってね。」


「春日さんも年始の書き初めがあるのよね。人妖神社での書き初め、毎年行くのが日課なの。あなたの書き初めは重みがあって、そしてその年の縁起を占う神事でもあるから好きよ。」


「西さん…。」


「さぁみんな!ここからが本番よ!もうすぐ文化祭が始まるから仕上げに行くわよ!」


「はい!」


西さんは文化祭が終わった後に全国書道大会に出るために何度も書き続け、その作品が文化祭で展示される。


私はそんな彼女の作品に携われて嬉しく思った。


ところが…西さんが突然脚立から踏み外し、自分の作品ごと落下してしまった。


「きゃあっ!」


「西さん!」


「いたた…!」


「西さん!大丈夫!?」


「なんとか…っ!そんな…!」


「どうしたの!?」


「私の…作品が…!」


「え…?あ…そんな…!」


西さんが脚立から落下したときに、体ごと落ちて右手を負傷した上に、西さんの作品が破れてしまった。


他の子や私の作品は無事だったけど、せっかくの全国大会応募作品が破れてしまい、西さんは口には出さなかったけど、自分の不甲斐なさを責めていた。


部員の子たちはまだチャンスはあると励ますものの、西さんが何度も書き直してようやく満足のいくのが出来たと考えると、とても立ち直れるものではなかった。


「ごめんなさい…西さんだけでなく作品まで…!」


「いいの…元はと言えば私が脚立から踏み外して作品ごと落下したのが悪いの…。でも…これで全部水の泡かなぁ…。嫌だなぁ…せっかくの青春を無駄にしちゃうの…。」


「部長…。」


「だから…私自身で落とし前を付けなきゃ…うっ…!」


「部長!」


「西さん!」


「西さん…その右手首…!」


「大したケガじゃないわ…。ちょっと受け身に失敗しただけよ…。これは私自身の責任だから…自分のミスは自分で…痛っ…!」


「西さん!」


(どうしよう…このままだと展示会に間に合わない上に、西さんの全国大会の夢が…!どうしたら…!)


「部長の作品となると、もう誰もコピーなんて出来ない…!」


「明奈の書道の実力はいくら達人でも真似できないから…。」


西さんの作品には独特の動きや抑揚があり、まるで字が生きているかのような表現をする。


一方の私は字の形式や意味を深く表現するという理論的なもので、とても真似出来るものではなかった。


それでも私は西さんの夢を諦めてほしくなかったから、私は覚悟を決めて大声を出した。


「あのっ…!私が西さんの作品をコピーしてもいいかな…?」


「え…?」


「西さんとはいつも隣で書いていたし、彼女のクセなら少しだけ知っているから…。それに…私は西さんが全国に出たことを誇りに思っている。でもケガしてるのに無理して書いたら…それこそ書道生命が絶たれてしまうのも嫌だ…。だから…」


「そんな…いくら春日さんの実力でも無茶だよ!」


「先輩の作品は知っていますが…部長とは正反対のタイプですよ…?」


「いいの…?春日さん…私のためにそこまで…!」


「私は月光花のセンター、京都中の期待を背負ってきているから大丈夫。西さんはゆっくり休んでて。」


「ごめんね…ありがとう…!」


「それじゃあしばらく和室にいるから、誰も入れないようにね。」


「はい!」


こうして私は和室に入り、西さんの作品をコピーするために書き続ける。


西さんは字が生きているかのような表現をするので、自分自身もその字のイメージをよりイメージしなければいけない。


プレッシャーが圧し掛かるけれど、友達でライバルのためにも私がやらなければいけなかった。


しかし書道になると一人になって集中したいタイプの私でも、いざ人のための作品を作るとなるとプレッシャーに追われ、筆を持つことがだんだん怖くなってきた。


そんな時だった…廊下から物音と部員と誰かが言い争っている声と同時に、和室の(ふすま)が勢いよく開く音が聞こえた。


そこには…


「はな!西さんのために書いているんだって!?」


「ひまわりちゃん…みんな…!」


「はな先輩の作品の中にも、字に生命が宿っているものもあると知っています!」


「はな、西さんのためにも完成させようとしているんだね。本当に優しい子だよ。」


「誰も入るなと言われてきたのだが、仲間が頑張っているところを応援したいと部員に納得してもらったぞ。」


「あなたの本気と情熱…ここで私たちに見せて!」


「ファイトでございます!はなさん!」


「みんな…ありがとう!しっかり見守ってて!」


「春日先輩…!」


「春日さん…いい仲間に巡り合えたんだね…。」


「何言ってるんだよ西さん。あなただってはなの書道仲間でしょ?アイドルとは違うけど、同じ畳の上で何度も作品を書いてきたじゃん。今更仲間じゃないって言っちゃったら、はなが泣いちゃうよ?」


「日向さん…。」


「よく見るのだ。彼女の君に対する敬意と、君の夢を終わらせたくないという熱意と、書道が心から好きだという誠意をな。」


「冬野先輩まで…。」


月光花のみんなは書道部員の気遣いを物ともせず、私の応援をするために噂を聞いて駆けつけてくれた。


私は西さんのためだけに一人で勝手に戦っていて、私もまだ心が弱いなって痛感した。


西さんのアドバイスとみんなのエールのおかげで作品は完成し、名前と学年まで完全にコピーして展覧会に間に合った。


そして文化祭が開場して、展覧会も大成功に収めた。


「春日さん!あなたのおかげで私も決心がついたわ!秋のコンクールは残念だけど…中等部卒業記念作品や、高等部でのコンクールを目指すためにまずケガを治すことにしたの!」


「そうなんだ!西さんの作品がしばらく見れないのは残念だけど…高校での活躍を応援しているね!」


「ありがとう!それから明日の日曜の月光花のライブ、必ず来るから!書道部員全員でお客さんを集めるね!」


「ありがとう!」


「いいなぁ…部活の青春って…。」


「そうでございますね…。」


「ええ、はなは部員だけでなく部長にも慕われていたのね。」


「確かに噂通り、書道になると物凄い集中力だったよ。」


「でも…明日は私たちの番ですね。」


「そうだな、明日のライブは必ず成功させるぞ。」


「うん。明日はよろしくね。」


「もちろん!」


展覧会準備でのアクシデントもあったけれど、1日目は何とか成功で終えられてよかった。


そして西さんの全国コンクールへの挑戦は高校までと持ち越されたけど、新たな目標が出来て彼女ももっと頑張ろうと意気込んでいた。


ちなみに平安館撫子は大学の文学部3年生の水本志津絵(みなもとしずえ)先輩でした。


つづく!

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