第39話 運動会へ参る
プロデビューを果たした私たちは東京のある競技場で行われるアイドルだけのフレッシュ運動会に出演する。
司会者はあのハイテンションで有名な本田綾香さんで、選手宣誓はアフタースクールズの沖田つかささんになる。
受付を済ませて体操着に着替え、開会式に臨んだ。
「さぁ始まりました!アイドルだけのフレッシュ運動会!司会は私、本田綾香でお送りします!みんな盛り上がっていこうね!」
「おー!」
「では選手宣誓を…沖田つかさちゃんお願いします!」
「はい。宣誓!僕たちアイドルは、ファンの皆さんに夢を与え、運動会を通して、さらなる絆を深め、正々堂々と戦うことを誓います。白組、アフタースクールズ所属、沖田つかさ。」
「ついに始まりましたでございますね。」
「私たちのデビュー戦が運動会とはね。」
「そうね、みんなプロだから恥ずかしくない様にしましょう。」
「そう思うと緊張してきた…!」
「はなー、流鏑馬や書道の時はあんなに勇ましかったのにー。」
「慣れないことは緊張するものさ。私だってなぎなたの全国大会では手汗が止まらなかったさ。」
「つばき先輩でも緊張するのですね。少しだけ安心しました。」
「最初の競技は…100m徒競走ね。他の子たちは2種目出るけれど、私たちは普段の戦で疲労もあるだろうと花柳先生が気を使って1種目のみにしたのよ。」
「そうなんだ。それで徒競走に出るのは…」
「私だね。」
「頑張ってね、すみれちゃん。」
「うん、精一杯頑張るよ。」
最初の競技である徒競走にすみれちゃんが出場し、優勝候補は同じ紅組のアフタースクールズ日野鈴香さんで、デビュー前の中学時代は広島市の大会だけでなく中国地方大会でも実績がある子だった。
鈴香さんは最終レースで、すみれちゃんは第2レースになった。
決勝戦はないけれど、タイム順で得点を決めるのでいい記録を出せばレースで2位でも全体でいい順位になれるかもしれない。
第2レースになり、すみれちゃんは堂々とした態度でスタート体勢に入った。
「第2レースの優勝候補は、あの時代劇俳優の藤野源次さんの一人娘の藤野すみれちゃんです!彼女は平安館女学校の新体力テストで学年でトップの成績を誇っています!果たして彼女の走力はどうなのか!?」
「On your mark…set…」
ピストルの音が鳴り、すみれちゃんは好スタートを切った。
すると徐々に加速していき、後続のアイドル誰一人も影を踏ませなかった。
あっという間にかわしてゴールし、1位を獲得した。
最後のレースでは鈴香さんがアルコバレーノの青井海美さんにわずかな差で勝利した。
「うーん…私は全体で3位か…。まだまだ全国は広いんだね。」
「そうだな。すみれもいい記録だったが、日野鈴香の好走が青井海美の心に火をつけたかもしれない。」
「すみれさんは圧倒的なレースでございましたが、来年こそは1位を目指すでございます。」
「そうだね、これからが本当の第一歩だ。もっと頑張るよ。」
「続いての競技は…綱引きです!力自慢のアイドルたちが一斉に綱を引きます!」
「つばきの出番ね。」
「ああ、それでは行ってくる。」
「つばきファイトー!」
「相手は赤城ほむらか…。それに沖縄出身の知念ひびき、運動神経抜群の相手なら不足はないな。」
つばきさんはレッスン前でもやっているルーティーンの足さばきのウォーミングアップをし、綱引きの準備にかかった。
ほむらさんは気合い十分でおっしゃあ!と叫び、紅組全員を威圧した。
こちらには元・暴走族のアイドル藤沢拓海さんがいて、パワー比べなら勝てるかもしれなかった。
ところが…
「おーっと!紅組が拓海ちゃんとつばきちゃんの息の合った引っ張りで白組を引っ張っていきます!この二人はかなりの力持ちと見た!」
「やるな…喧嘩で鍛えたパワーは伊達ではないようだな…。」
「テメェこそやるじゃん…なぎなた全国準優勝は嘘じゃねぇんだな…。」
「赤城ほむらが覚醒しないうちに決めるぞ。」
「上等だ!おらあぁっ!」
「この程度のパワーか?だったらアタシが一気に決めるぜ!おりゃあっ!」
「あーっと!赤城選手が本気を出してから紅組が一気に引っ張られていく!何というパワーだ!これが全国リトルリーグのエースで4番だった赤城ほむらのパワーか!男子顔負けのパワーで寄せ付けずっ!」
「マジかよ…!あいつ野球やってたのかよ!聞いてねぇぞ!」
「花柳先生の情報によれば…彼女は幼い兄妹のために家事をやっていると聞いていたが…!」
「つばきが…負けた…!」
「平安館でもかなり力に自信があったのに…!」
「やはり全国は広いでございます…!」
「すまない、負けてしまった。これで全国は広く、アイドル界は甘い場所ではないとわかった。気を引き締めていくぞ。」
「うん!次の玉入れは…」
「私ね。運動苦手だけど、頑張るわ。」
「わかば先輩、ファイトです。」
次の玉入れはわかば先輩が出場し、運動が苦手な子でも気軽に出来る競技なので、わかば先輩は張り切っていた。
いつものメガネもスポーツ用になっていて、接触しても壊れず落ちないようになっている。
そして玉入れが始まり、最初は白組ペースで桃井さくらさんがみんなをサポートし、高飛車きららさんがワンマンプレーで一気に玉を入れていった。
ところがその二人が接触して揉めてしまい、白組のペースが急に落ちてしまった。
周りの子も高飛車きららさんの事が怖かったのか委縮しはじめ、わかば先輩はその隙にいつもの計画性と計算力で追い上げて逆転勝利した。
「ここで無情にも時間終了ー!結果は紅組が27個差で勝利!白組の追い上げもここまでだー!」
「勝った…!運動音痴の私でも勝てたわ…!」
「やるな!わかば!」
「さすがわかば!お勉強でいい所に行ったのはダテじゃないね!」
「ふぅ~…緊張したわ…。」
「あなたのせいで負けてしまいましたわ!足手まといなアイドルはさっさと引退してくれませんと困りますわ!あなたは向いてませんのよ!」
「……。」
「何だあいつ…!」
「ひどい…どうしてそんな事を…!」
「彼女…どこかで…!」
「あっ!桃井さくらさんが倒れました!」
「救護を早く呼んで!」
さくらさんが過呼吸を起こし、担架で救護室へと運ばれた。
先程の罵声で自分を責め続けてしまい、それで心を痛めて今にも泣きそうだった。
あの高飛車きららって子…少しだけ罪魔の力を感じるかも…。
あの子のことが気になった私は、同じ白組の沖田つかささんに質問をした。
「あの…突然すみません。あの高飛車きららってどんなアイドルなんですか…?」
「彼女かい?彼女はあの世界的大財閥の高飛車財閥の一人娘で、両親から過保護に甘やかされて育てられたのか、あそこまで自分勝手で他人を蹴落としてでも自分をトップにする評判の悪いアイドルなんだ。もし彼女に逆らったら財閥の力で弾圧され、二度と社会的に立ち直れないようにするんだ。それが原因で自殺した経営者や芸能人、政治家や海外の実力者でさえいるんだ。」
「そんな…!」
「君たち月光花は知らないと思うけど、僕たちも彼女に目を付けられないようにしているんだ。京都に戻ったら彼女に目を付けられないように活動するといいよ。」
その情報を聞いて高飛車財閥について今後は警戒しないといけないと思った。
高飛車財閥は確かに世界中の大企業や有名企業を買収しては私物化し、その一人娘がアイドルデビューしたと聞いたことはあった。
それがまさかアイドルの同期で今後は狙われるかもしれない。
昼食に入ると、かっぱ食堂を経営している河童の河野水丸さんの差し入れでかつ丼弁当をいただいた。
妖怪たちによる月光花後援会と、人間であるみんなによる月光花ファンクラブが全力で私たちをサポートしてくれるおかげで、プロの洗礼を浴びながらも紅組優勢になる。
スマイリング娘。の川島清美さんと稲垣奈津美さん、長谷部梨花さん、そしてそのメンバーで台湾から来たファン・メイユンさんが和風アイドルである私たちを注目していて、少し有名になったんだと実感した。
そして応援合戦を終え、後半戦を迎えた。
つづく!




