第37話 魔性の女
「私はカラス天狗の烏間天香よ。あなたは扇を武器にしていたわね。」
「はい、扇でございます。」
「なら私のカラスの翼で扇の強化だけでなく、一定時間のみだけど空を飛ぶことも出来るわ。私の能力とあなたの妖魔の力で彼らを助けてあげて。」
「烏間さん…ありがとうございます。私の妖魔で皆さんを救出するでございます。」
「タスケル…ミンナヲ…キュウサイスル…!ジャマ…スルナ!」
「自分の都合で商品や思想を植え付け、それによって救われていると思い込んで満足でございますか…?」
「ナニガイイタイ…?」
「確かにあなたの誰かを助けるという思想は素晴らしいでございます。ですが…あなたは何故他人を救いたいのですか?」
「ダマレ…!ワタシノシソウハタダシイ…!ヒトハ…ウマレタシュンカンニツミヲセオウ…!ダカラニンゲンヲテンニカエス…ソウスレバクルシミガナクナル…ミンナヲスクウノダ…!」
「なるほど…宗教でも商品売りでもなく、ただの自己満足と正義への間違った思い込みでございましたか…!ではあなたの素晴らしい思想というのは撤回致します!あなたの間違った正義感をここで矯正するでございます!」
「ワタシニサカラウカ…!キサマモクルシミカラタスケテヤル!」
「残念ですが結構です!私はもう仲間の皆さんによって助けられたでございます!あなたに助けられる必要はございません!はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ムッ…!?」
「あ…本当に飛んでいるでございます…!」
「るりちゃん!飛べるのはわずか3分のみよ!妖魔の力が強い人間の体で高速空中移動に耐えられる時間は3分!それ以上は体に大きな負担があるわ!」
「では短期決戦でございますね…!ならばこうします!はぁっ!」
「ンナッ…!グハァッ!」
「風の能力も強くなっているでございます…!」
「その調子よ!」
「今度は地上戦でございます!お覚悟はよろしくて?」
「ウッ…グフッ…!」
「今よ!必殺技を!」
「水龍天翔大渦巻!」
「ウワアァァァァァァァッ!」
私の扇から放たれた川の流れのような大渦は大獄魔を巻き込み、そのまま浄化されて魂となり、元の紳士的な男性の胸へと還りました。
すると街の方々も意識が戻りはじめ、心の奥底で黒い感情があったことを恥ずかしげに反省していました。
それでも大獄魔となった彼だけはまだ納得していない御様子で、私は変身を解いて紳士的な男性の元へ行きました。
「突然申し訳ございません…。大丈夫でございますか?」
「ええ…問題ありませんよ。チッ…もうすぐ助けてあげようと思っていたのに…邪魔が入りやがって…!あの女…今度会ったら不幸にしてやる…!」
「はて…?助けるとは何の事でございますか…?」
「独り言を聞かれたか…君に話したところで私の思想は理解出来まい。だがこれも思想布教のためだ、全てを話そう。私は元々は自衛隊の隊員でね、本来は災害がある度に派遣されて被災者を助けてきたんだ。みんな私たちに感謝し、ありがとうと言われるだけで凄く嬉しかった。ところが…支援すればするほどそれが当たり前だって思う輩がいてね…要望通りじゃないからって暴言吐いたり…精一杯やっているのに自衛隊は帰れだの人殺しだの誹謗中傷する奴らもいるんだ…。そんな奴らをまともに助けてもいい気になってさらに悪く言うだけだ…。だったら人がいなければ助ける必要もない、あの世に行けば全員が楽になると思い、宗教と偽って粛清しようと思ったんだ。もちろん自衛隊は退職し、今は無職だよ。」
「左様でございましたか…。では前職で心無い方々に誹謗中傷されて、真面目に助ける気が無くなり、文字通り楽な方法で助けようと思ったのでございますね…!それも…手軽で思想を集めやすい宗教を利用するとは…少々罰当たりでございますよ?」
「わかっているさ…そんな事はわかっているさ…!」
「わかっているからこそここまでの極論に行ってしまわれたのでございますね…!ですが思い出してみてください。心無い方々は置いておいてもよいでございます。それでもあなた方自衛隊の救助派遣で大勢の命が助かり、助けられた子どもたちは自衛隊に憧れ、入隊していったのでございませんか?」
「そう言えば…私も小さい頃に新潟で地震があった時に自衛隊に助けられて…誹謗中傷されながらも自衛隊は私を助けてくれたんだ!悪く言うならここから出ていけ!って大人相手に叫んだこともある…。そんな自衛隊に憧れて私は入隊したんだった…!ああ…私はまだ心が弱かったんだ…!」
「いいえ、あなたは十分心が御強いでございます。ただ少しだけ人を助けるのが当たり前になってしまわれて、心無い人に振り回されてしまっただけでございます。ですがその様な方々は自分さえ助かればそれで満足でございます。そんな薄情な方はいずれ罰が当たるでございますよ。あなたはもう一度堂々と自衛隊で人助けをし、日本という歴史ある誇らしい国を守ってください。私はあなた方自衛隊を誇りに思うでございます。私はあなたに助けられたこともございますよ?」
「君はまさか…!京都の大洪水による水害で溺れていた着物の子…!」
「12年前にあなたに助けられて以来、私は日本舞踊で活躍する事も、アイドルとして活動する事も出来ましたでございます。もしあなたが助けなかったら私は今頃…。だからもう一度あなたに会えたなら、お礼を言いたいでございます。ね…?中川大悟大尉。」
「こんなに成長したんだ…!今度は君に助けられたよ…ありがとう…!私はもう一度原点に戻って、初心に帰ります。アイドル…そうだ、君のアイドルとしての活躍を祈っているよ。君はソロ?それとも…」
「月光花という京都のローカルアイドルグループでございます。」
「ああ…人妖神社の巫女さん、時代劇俳優の一人娘、夏目プロや日向プロのお孫さん、さらに君は紺野流舞踊家元の子、伝統的忍術紅葉流の子、なぎなた全国準優勝、そして日本文学家常盤先生のお孫さんと和の伝統を引き継ぐグループだね。君たちの健闘を祈っています。では…」
「ええ、あなたに助けられたこの命…大切に致します。」
「これで一件落着ね。」
「はい…ですが先程から心を覗かれているような気分でございます…!」
「え…?」
「あら、あなたって閉心術を心得ていたのね。子どもなのに大したものね。」
「そういうあなたは開心術に随分長けているでございますね…!何者でございますか…?」
「開心術…この禍々しい罪魔の気…まさかあなたは…サトリーヌ!」
「この方がサトリーヌでございますか…?」
「へぇ、私って妖怪の世界では有名人なのね。でも戦闘中のあなたの心を覗かせてもらったわ。何とも人間らしい甘い考えなのね。何故そこまで人間を助けたいのかしら?助けたらそれをいい事に私利利欲として利用するのに…。」
「それは私にもわかりませんし、人間全員がそうじゃないと言ってしまえばキリがございません…。ですが悪に染まったのであれば、それを矯正するのも人間自身でございます。あなたは心が完全に読めるが故にその様な考えに至ったのでございましょう。」
「いいえ、私は心が読めなくても同じ考えに至ったわ。パパは人間について詳しく説明なさったわ。人間は自分さえよければ他人なんか不幸になってもいい、自然や動物が滅んでも儲かったり食べられたりすれば満足、お金さえ儲かれば何をしてもいい、感情任せで無責任と聞いていたもの。それが心が読めるが故にいざ読んでみればその通りだったもの。それでどうこう言われても仕方ないわ。」
「そうでございますね…私もまだ甘かったでございます。それでも…自分に正直になり、夢のために行動する立派な方々もいるでございます。人は反省という感情もあり、後悔と共に前に進んでいくでございます。もしあなたがそんな人間をも滅ぼすのでございましたら…私はあなたを断じて許しません!」
「なるほどね…返答に感謝するわ。でもね…あなたの甘い心を読んでいると疲れるし、戦闘力も魔力も圧倒的すぎるわ。ここでイジメても面白くないしここでお別れにしましょう。ではまた後程会いましょう。」
「サトリーヌ…とても黒い心の持ち主でございました…!」
「るり、確かに奴の言う通り人間は醜い心を多く持っているし、私利私欲に溺れている人間もいるわ。だからってここで屈したら…もうどんな生き物も滅びざるを得ないと私は思うの。妖怪だって心や感情があるわ。だから…私はサトリーヌの意見に賛同出来ない。あなた方月光花をこれからもサポートするわ。」
「はい…ご協力ありがとうございます。」
こうして魔性の女サトリーヌに出会い、心が読める事がどれだけ恐ろしい事かを実感しました。
騒ぎが収まると、達川さん兄妹が全力で救助と消火、そして安全指導をなさり、犠牲者も負傷者も0人で済みました。
そして一日消防署長はハプニングこそあったものの無事に終え、感謝状を表彰されました。
達川さんたちは敬礼で見送り、これからもレスキュー魂で京都を守り抜くことでしょう。
つづく!




