第29話 子どものわがまま
武術がインプットされているとはいえ、二対一のこの戦況では私の方が部が悪く、一人で一気に二人の相手をしなければならないので二刀を構えました。
はな先輩とひまわり先輩は妖怪の援護がつき、大獄魔を浄化できるようになったものの、私にはまだその妖怪の援護がなく、一人で戦わざるを得ませんでした。
するとしばらく様子を伺っていると、初老男性が走って私に近づき、そばに来た瞬間に蜘蛛となって私に憑依しました。
「あなたは…?」
「土蜘蛛の土屋曇山じゃ。ワシの能力を使って大獄魔を翻弄するんじゃ。」
「蜘蛛という事は…わかりました!」
「アレホシイ…オマエノイノチホシイ!」
「ウルサイガキ…オトナシクシロ!エスエヌエスミセロ!」
「仕方ありませんね…少しばかり手荒いですが、大人しくしてもらいます!はあっ!」
「ナニ…!」
「蜘蛛といえば蜘蛛の糸ですからね。この糸であなた方を縛り上げます!」
「ホシイホシイホシイ…!オマエノイノチガホシイ!」
「何ですって…!?」
「ヨコセ!」
「くっ…!母親の方は何とか止められましたが…子どもの方は理性が足りない分力任せというところですか…!」
「オマエノクビ…ホシイヨォォォォォ!」
「きゃあっ!」
母親は本体が持っているスマートフォンに夢中で何も抵抗はしませんでしたが、駄々をこねている子どもの方はどうしても欲しいものがあり、私の命を奪おうとしました。
ギリギリのところでかわすものの、このままでは決着がつかず、後ろへと追いやられてしまいました。
ただまだ幼子であるが故に、体力的な部分で未熟さがあり、暴れていくうちに疲れ果ててまた泣き出しました。
「ツカレター!アレカッテコレカッテー!モウヤダー!」
「あの母親をあの子に引き寄せられれば…!」
「ならば縛るだけでなく糸を上手く扱うがよい。ワシの糸は強いぞ。」
「糸を上手く扱う…強くて丈夫…だとすれば!ありがとうございます!曇山さん!これでどうでしょう!」
「ウワッ!」
「ウエーンウエーン!」
「これで勝機が見えました!二人まとめて浄化いたします!厳流大滝斬!」
「ウアアアアアアアアアアアアッ!」
刀を罰の字にして斬りかかり、母子の大獄魔は浄化されて魂となり、元の身体へと還っていきました。
子どもの方は何が起こったのかわからずに固まり、母親の方は子どもの方へ駆け寄って頭をペチンと叩き、腕を強引に引っ張って帰ろうとしました。
するとやはりまだ幼子の男の子は駄々をこねて、あのおもちゃがほしいと泣き出しました。
私はこのままだと他の方にも迷惑がかかり、母親もストレスのあまりに虐待しかねず、あの子もさらにわがままが悪化すると判断し、スマートフォンのセルフチューブのアプリでニンニンニンジャ体操を流しました。
「皆さん!もみじお姉さんです!今日は泣き止まない子どもたちだけでなく、日頃のストレスで心が荒んでいる大人の皆さん、毎日部活や勉強、友達関係でお疲れの学生の皆さんとご一緒にニンニンニンジャ体操を踊ります!せーの!」
「あっ!もみじおねえたん!」
「えっ…?どうしてここに…?」
「この体操を最後まで踊れたら、あのおもちゃを私が買って差し上げます!ご参加は自由です!皆さんもご一緒に!ニンニンニン!」
「面白そうじゃん!」
「ニンジャ大好きヨ!」
「神よ…あの子の勇気ある行動に私にも勇気を!」
「わーい!」
こうして男の子は泣き止み、母親は安心して男の子を見守り、他の荒んでいた皆さんも続々とご参加致しました。
フラッシュモブという企画ではありませんが、あまりにも自然に順番で入っていき、最後は老若男女皆さんで踊ってスッキリしました。
そして私はあの男の子に笛のおもちゃを差し上げました。
「もみじおねえたん!あいがとー!」
「どういたしまして。それから…お母さんはもしかしてご懐妊ですか?」
「どうしてそれが…?」
「お母さんのお腹を見ればわかります。それに…私にはお腹の中で赤ちゃんの鼓動を感じるんです。こう見えて私はニンジャですから。きっとお兄ちゃんらしくなってほしくて、我慢を覚えさせようとしてるのでしょう。」
「やっぱりわかるものなのね…。」
「では男の子に聞きます。あなたは何歳ですか?」
「3歳でしゅ!」
「3歳ですか…ふふっ、まだまだお兄ちゃんらしくあるのは難しいご年齢ですね。たった3年ではわからないことばかりで、お母さんの要望通りに応えるのはおそらくいかないでしょう。」
「じゃあどうすればいいっていうの?」
「簡単です。お母さんがこの子のことをよく見守り、お兄ちゃんらしくいてほしいなら、お母さんらしくお手本でいてください。ただ厳しくしつけてるだけでは、自尊心を失い、ただの指示待ち人間か、よりワガママになってしまうでしょう。お母さん自身がお子さんとしっかり向き合って、どうしてそれがいけないことかをわかりやすく教えてあげてください。そうですね…あなたはもしかして自分の欲しいものは絶対手に入れてますか?」
「言われてみれば…主人やうちの子には我慢させておいて…自分だけ自分勝手に主人の収入で欲しいもの買ってます…!」
「意外と小さい子どもは、親の行動や考えを真似しているのですよ?」
「そうね…私自身も気をつけるわ。感情的になるのも少しだけ我慢するわ。」
「ふふっ、ただ我慢するのではなく、我慢する時としなくていい時を見極められるといいですね。耐えるだけが大人ではありませんから。」
「あなた…私みたいなそこらの大人よりも大人らしいわね。ありがとう、さぁ、もみじお姉さんにもお礼を言いましょう。」
「うん!おねぇたん!あいがとー!」
「どういたしまして。ではごきげんよう…っ!先程から邪悪な気配を感じます…。早く私から離れてください。」
「え、ええ…わかったわ!」
「ばいばーい!」
「そこにいるのはわかっています!姿を隠すのは忍びの十八番ですから、私にはお見通しです!」
「ふっ、さすが紅葉流の末裔だな。褒めてつかわすぞ。」
「あなたは…何者ですか…?先程から邪悪な罪魔の力を感じますが…?」
「罪魔の力を感じるという事は…貴様が先程の妖魔使いだな。我はオロチマル、ザイマ一族の長男だ。」
「オロチマル…あなたが…!」
「人間の心というのは実に面白いものだな。少し欲が溢れれば己さえよければそれでよい。他人など駒に過ぎず、不幸になってもらうと喜ばしい。現に伝染病では無実な他人を傷つけ、言うだけ言っては自分が言われれば差別だ中傷だと抜かした自己防衛ばかり。そんな下等生物がこの世を占めているとは…何とも皮肉なものだな。」
「そうですか…あなた方ザイマ一族は人間をその様にしか見てないのですね…!私だって己の欲のためにライバルと競り合っています。欲がないと言えば嘘になりますし、自分が傷つかぬようにはしています。が…仲間と出会えた事で気付いた事もあります。たとえ理解者が少なくても、一人でも理解してくれる方がいれば、幸せになる事も出来、傷つける事も減ります!あなた方は醜い部分しか見る気がないようですが…それこそ心が醜い証拠ではないですか?」
「はははっ!そこまで言われたらさすがの我もぐうの音も出まい。だが…だからこそあえて言おう。我の心は醜い事は認めよう。それ故に我は人間を滅ぼし、地球にとっての極楽浄土を創り上げるのだ。」
「なるほど…開き直ったご回答に感謝します…!」
「しかし今の貴様では戦うほどではないし、楽しめそうもない。強くなったらまた会おうではないか。ではさらばだ。」
そう言ってオロチマルは消えていき、私はザイマ一族の野望を知ってしまいました。
もしアクドーが本当に元々は人間だとしたら…彼は人間の悪しきところしか見えていなかったのでしょう。
人間の全員がそうではないと言ったところで、彼の目にはそう写ってしまったのでしょう。
という事は…私たちがアイドルを通じて人間の醜い心がいかに世や身を滅ぼすものかを歌に込めなければなりませんね…。
つづく!




