第27話 白黒つける
獄魔を何とか全滅させたものの、大獄魔だけはしぶとく生き残り、追い詰められて自棄になったような目つきで包丁を振り回していた。
それでも前があまり見えないのか、闇雲に振り回していて、人に当たればそれでいい感じだった。
私は槍で少しだけ距離を取り、不意打ちに備えて警戒した。
大獄魔はどんな気持ちなのか、どうして人をそんなに殺したいのか気になった瞬間、ミステリアスな男性が突然近づき、私に語りかけた。
「私の能力を使いなさい。私は覚という妖怪です。ヒメギクさまからあなたのサポートを任命されました。」
「ということは…あなたの能力を使えば心が読めるってこと?」
「はい、その通りです。私の通名は…里田心ノ介です。」
「心ノ介さん…ありがとう!あなたの能力を借りるね!」
「ヒトノケハイ…カンジル…!ソコニイル…!イマカララクニシテヤル…!」
「あなたの心…少し覗くよ!」
(人間がいるから地球の困難は消えない…!地球上から人類がいなくなれば地球は平和になるのだから殺してもいいよね…?)
「なるほど…御もっともな極論ですが、だからといって無実な人間を殺めるのはよろしくありませんね…。」
「だったら簡単じゃん…。この人を獄魔から浄化して、永遠の闇から解放しちゃおう!」
「あなたの祖父は囲碁と将棋のプロと聞きました。あなたの戦略、お手並み拝見します。」
「任せて!こういうのは得意なんだから!まずは…」
「ニンゲン…ホロベ!」
「ほら、向こうから襲ってきた!これでどうかなっ!」
「ウグゥ…!」
私は相手が我慢できない性格なのを知り、槍を下に構えてあえて先制攻撃を仕掛けるのを待った。
そして私の気配を見つけるとすぐに飛びかかり、包丁を私に向けて走り出した。
その瞬間に待ってましたと槍を下から振りかぶり、さらに足払いをするように薙いだ。
獄魔はその戦略に引っかかり、片足を打撲してバランスを崩し転倒した。
「ひまわりさん、私の能力を利用して相手から襲ってくるのを待ったのですね…。さすが戦略のプロです。」
「えへへ、こう見えて私、おじいちゃん以外の人とは囲碁と将棋だけでなく、オセロでも負けたことないんだよ?」
「今度は私とも勝負をしてくださいね。あなたの心を読んで勝ちに行きますよ。」
「心ノ介さんの能力を利用して返り討ちにしてあげるね!でもその前に…」
「敵が先程のカウンターで激昂しましたね。ここからが正念場です。」
「オノレ…オノレ!モウユルサナイ!アノヨヘオクッテヤル!」
「そろそろ王手をかけるよ!はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ウグッ…グフッ…カハァッ…!」
「ここで白黒ハッキリつけるよ!電光石火雷神突き!」
「ウギャアアアアアアアアアアアッ!」
殺人鬼の心に染まった大獄魔は浄化されて魂となり、元の男性の胸元に還っていった。
するとさっきまで獄魔として転生して倒れていた人々は次々と目を覚まし、意識を取り戻した。
そして大獄魔になっていた男性は、ふと我に返りリュックから何かをあさっていた。
私はこの人に罪を着せるわけにはいかないとすぐに飛び出し、リュックを蹴って男性を止めた。
「おい…俺のリュックを蹴るとはいい度胸だな…!おかげで俺の計画が台無しだ!人間という悪がいるから…いつまでも地球は平和にならないんだぞ!」
パチン!
私の絶対に暴力は振るわないという気持ちとは裏腹に、この人に痛みを教えるために無意識に頬を強く叩いた。
男性は突然の出来事に固まってしまい、憑依している心ノ介さんも戸惑っていた。
他の人々も頬を叩いた音と、先ほどリュックを蹴った時に包丁が飛び出した音でざわつき始める。
私はそんな事はお構いなしの状態で男性を強く説得する。
「それであなたが人を殺したらさ…その殺された遺族のみんなはどんな気持ちになると思う…?」
「何が言いたいんだ…?」
「ここであなたが人を殺して、被害者やその家族や友人があなたに恨みと憎しみを抱いて…たとえ死刑になってもその被害者は帰ってこない…。そして永遠に恨みや憎しみが残り、結局他の誰かまであなたと同じ事を繰り返す…。一体その負の連鎖をいつ終わらせるの…?」
「それは…」
「あなたが過去に何があったかはわからないけど…確かに人間は醜い心を持っていて自分さえよければそれでいいって思う事もあるよ?でもそれってあなたのやろうとしていることも地球のためになると思う…?」
「うっ…!」
「そりゃあ…人はすぐに悪い事をするし、いなくなれば動物たちや植物たちが理不尽に命を奪われなくて済むし、戦争や犯罪もなくなって自然も美しくなる。でも…私たちは家族を持って、仲間も持って、自然と共存して命を繋いでる。もしあなたがまた人間を殺そうとするなら…私は何度もあなたを止めてみせるよ。あなたが罪を被って憎しみを増やさないためにもね。」
「っ…!うう…ぐすっ…!アンタには負けたよ…!うう…ああ…!」
「今まで人間関係で辛かったんだよね?ずっと我慢して溜めこんでたんだよね?今は思いきり出しきっていいから、思いきり泣いてもいいよ?」
「うああああああああああああ…!」
男性が泣き止んだ後、私は警察に通報してすぐに彼の話を聞いた。
彼は親に完璧な子になるために道具として扱われ、それが原因で友達が出来ずに学校でいじめられ、助けを求めるも教師はおろか、施設にですら見捨てられ、娯楽も何も与えられずにずっと勉強ばかりで道徳心を失ってしまった。
そして自分は生まれたことが不幸だと思い込み、こうなったのは人類がいるからこんな理不尽な問題が起こったんだと歯車が狂い、一流会社に就職も上手くいかずに退社したことをきっかけにこの行動を起こそうとした。
その話を聞いて親の教育や学校や友達、地域によるその人への理解、そして何か娯楽がある事で心を癒す事が大切って改めて気が付いた。
ようやく警察が到着し、彼は現行犯逮捕された。
「アンタ…名前は…?」
「月光花の日向ひまわりです。アイドルをやっています。」
「そうか…。もし罪を償い、死刑にならなかったら…アンタのライブに行かせてくれよ…。俺の心も晴れるかもしれない…。」
「わかった…約束だよ?それから刑事さん、彼はまだ殺人を犯してないし、親の教育がそもそもの原因だから、彼の刑罰を軽くするようにしてください。あなたも厳しい人生だったけど、ちゃんと反省して生まれ変わってね。」
「はい…!」
「さぁ行くぞ。女の子をこれ以上悲しませるんじゃあないぞ。」
「はい…。」
「人間がいるから問題は解決しないか…。何か悩まされたね。」
「西暦の終わりの時にアクドーの奴が同じ事を言ってましたね。だが奴と違ったのは…あなたのような理解者がいてくれたこと、それだけで彼は救われましたよ。」
「私はそんな大した人間じゃあないよ?」
「いいえ、戦略だけでなく、器も王将そのものでした。それより…先程から不審な気配がするのですが…?」
「え…?」
「うふふふ、やっぱりあなたは人間に甘ちゃんなのね。まだまだあなたはお子ちゃまね。」
「何…?この禍々しくも艶々しい魔性の女のオーラは…!」
「あなたは…ザイマ一族のサトリーヌ!」
「え…?」
「あら、妖怪の間でも有名なのね。同じさとり族なのに人間の醜い心が見えないのかしら?だとしたら残念ね。まぁいいわ、あなたたちの妖魔の力を知ることが出来たしこの辺でお別れしましょう。」
そう言ってサトリーヌは美しく去って行った。
心が読めるから人間の闇の部分がよく見える…私にはわからないけど、そういう部分を見過ぎると心が失われていくんだと痛感した。
全員がそうじゃないとわかっていても、醜い部分を見てしまうと人間はネガティブな生き物だからそうインプットされてしまう。
私は人間の闇を感じ恐怖を抱いてしまったと同時に、優しくて心が美しい仲間を持ってよかったって思った。
スタジオに戻り、私はおじいちゃんたちに無事を報告し収録を再開した。
聞き手役として申し分ないと陽二郎おじいちゃんに頭を撫でられ、光太郎おじいちゃんはスタジオの屋台で買ったかき氷を私に差し入れしてくれた。
こんな温かい人情に包まれた私は、まだ幸せ者なんだろうな。
つづく!




