第18話 ボードゲーム
~元・人妖神社本殿ことザイマ神殿~
「妖魔使いか…奴らは厄介な存在ですね。」
「父上を地獄に封印した忌々しい奴らめ…!」
「おう!早く京都をぶっ潰しに行こうぜ!」
「ちょっと短気過ぎよオニゴロー。もう少し人間の悪い心を利用しなきゃ。」
「え~、俺っちは早くぶっ潰して極楽浄土を創りたいッスよぉ~。」
「待て、今攻めたところで獄魔を召喚するには所詮人間一人のみの力だ。無闇に召喚したところで返り討ちに遭うのみだ。だが我々が直々に赴く必要はない。父上、いかが致しましょう。」
「心配するな我が子たちよ…。我はある時が来るまで罪魔の力を集め、元の身体を手に入れる。それまで人間共の罪魔の力を奮い起こし、獄魔として生まれ変わらせ、世界を破壊と混乱の極楽浄土にするのだ…。そして妖怪どもを支配し、心が最も醜い人間共を根絶やしにする。長男オロチマル!」
「ははっ!」
「次男アマノジャーク!」
「はい。」
「長女サトリーヌ!」
「ええ!」
「三男ダイダーラ!」
「おうよ!」
「そして四男ドクロスケ!」
「ういっすー!」
「我らの目指す極楽浄土を創るために、人間の悪しき心をより多く集める研究をするのだ!」
「御意!」
~日向ひまわりside~
私の二人の祖父が囲碁と将棋のプロをしているのをきっかけに、私はテレビで嵐山にある健康ランドで行われるオセロ大会の企画に参加する。
オセロ自体はあまりやった事がないけれど、囲碁や将棋と比べて手軽で小さな子どもにも出来るゲームなので、緊張する事はなかった。
その撮影現場には京都でも名だたる天才たちが集まり、とても厳しい戦いになりそうだなと実感した。
「ほな参りましょうか。京都一は私だ!オセロ大会!」
「いえーーーーーい!」
「ここ京都一の健康ランドであります、風の湯はんでお送りいたします。実況は京都放送アナウンサーの池田春奈です。ほな早速出場者8人に登場してもらいましょ。」
私以外には京都でもオセロで名が知られている高校生の高井陽一さん、東京から仕事で来た芸人の世界のワタナベさん、俳優の木島美優さんと美波春太郎さん、歌手をしている巣川つばめさん、人気動画配信者のいちご一恵さん、そして声優の冬野つつじさんだった。
とくに冬野つつじさんは冬野先輩のお姉さんで、会うのははじめてになる。
まさかお姉さんに会うなんて世界は少し狭いのかな。
そしてルール説明に入り、アナウンサーの池田さんは穏やかな口調でお客さんに説明をする。
「ルールはシンプルどす。まずトーナメント式で勝った人が隣の勝った人、負けた人が隣の負けた人と戦い、決勝と逆決勝で1位と8位を競うゲームです。まず最初の1回戦は…祖父が囲碁と将棋のプロで、現在は隠居ながらも道場で多くの弟子を持つ二人のお孫はんの…日向ひまわりはん!」
「囲碁って日向光太郎プロじゃん…!」
「将棋では夏目陽二郎プロ…!」
「優勝候補かもしれないな!」
「対して相手は…高校オセロ大会新人戦で見事優勝に輝いた強豪、高井陽一さんです!」
「相手にとって不足なしだね!」
「オセロの恐ろしさを教えてあげるよ。」
「ではレディ…ファイト!」
高井さんは京都市立洛北工業高校でボードゲーム部のオセロの部の新人エースで、いきなり先輩たち全員に勝利した強豪だった。
戦術的には最初は追いやられていくものの、徐々にそっちのペースになり一気に逆転する魔術師とも呼ばれている。
一方の私は先手必勝がスタイルだけど、そんな彼のペースにならないように普段のスタイルをやめ、少しずつ取る地道な戦術に変更する。
もちろん彼も私の経歴を知っているのでかなり警戒している様子で、なかなかこっちのペースにさせてくれなかった。
そしてターニングポイントが訪れた。
「やるね…君…!」
「高井さんこそさすがです…!」
「これはギリギリの接戦なるか?日向はんが追い込まれているように見えますなぁ。」
「決めた!そこだ!」
「うっ…!参りました…!」
「ここで一気に日向はんが6枚抜きしました。逆転勝利を収めました。」
「強いなぁ、君。さすが日向プロや夏目プロのお孫さんだね。」
「高井さんも強いですよ。また勝負しましょう。」
「お互いに健闘を称える握手をしました。次は木島さんと美波さんです。」
次々と対局を終え、私は準決勝の美波さんと対局をする。
美波さんは最初から一気に逃げ切る戦術で、私のやり方と似ているけれどいきなり大差を開こうとする。
それでもカドを取ったり真ん中に追いやったりとするので、私はいつかガタが来るのを待った。
作戦が上手くいき、ついに置き場を失った彼は一気に崩れ落ち、私はまた逆転勝利を収めた。
そして決勝には冬野つつじさんが相手になった。
「あなたがつばきのお友達ね。はじめまして、冬野つつじです。」
「あなたは確か…囲碁アニメのノゾミの碁や将棋アニメの名将ヒカリに出演した…!」
「どっちもヒロイン役とはいえ、きちんと戦術を勉強したのよ。オセロでも負けないわ。」
「これは京都でローカルアイドルをやっている妹である冬野つばきさんのお姉さんやね。日向はんはどう出るんかな?」
つつじさんは囲碁と将棋自体はアニメを通じておじいちゃんたちに取材をして学んできた。
そしてオセロ自体ははじめてやるものの、おじいちゃんたち直伝の戦術で強豪の人たちを破り、私と対局する。
私も小さい頃からいつも対局しては負けての繰り返しで、それが悔しくて何度も研究して、去年ようやく二人に囲碁や将棋で1勝することが出来た。
それ以降はまだ負けてばかりだけど、あの時の勝利は嬉しかったな。
つつじさんとはここまで五分五分の勝負で、私の最後の二択で勝敗が決まる。
「うーん…。」
「日向はん、そろそろお時間ですよ?」
「決めた!ここにする!」
「えっ…?」
「何と、この一手で冬野はんの選択肢が消えてしまいました。声優冬野つつじ危うしです。」
「もう置く場所がない…!」
「あ…私もだ…!」
「参りました。」
「残りを控えながら終了しました。空きがあるものの日向ひまわりはんの優勝です!」
「やったー!」
「さすが日向プロと夏目プロのお孫さんね。勝負を諦めない精神と、道を切り開くための勘、そして相手の戦術によって戦局を変える頭脳…おじいさん譲りなのね。」
「そんな事ないですよ。つつじさんも凄い人です。つばき先輩とこれからも仲良くします。アイドルに誘っていただいてありがとうございました。」
「あら、つばきったら仲間にもそんな話しをしてたのね。」
「つつじさんがケガで悩んでたつばき先輩をオーディションに誘ったって聞きました。おかげでかけがえのない仲間が出来ました。」
「それじゃあつばきの事をよろしくね。それと…オセロアニメが7月から始まるの。ホワイトorブラックもよろしくね。」
「はい!」
「それじゃあ主催者はんから優勝トロフィーを授与、そして京都の下鴨喫茶の商品券を差し上げます。」
「あそこ和菓子の高級ブランドじゃん!やったー!メンバーのみんなと一緒に行こう!」
こうして生まれてはじめて対局したオセロで初優勝し、ボードゲームでまた自信がついた。
普段は空気が読めないとかトラブルメーカーになったりするけれど、いざという時に戦局を変えられる一番槍になって、とにかくザイマ一族の魔の手から守らなきゃ!
つづく!