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第17話 初ライブ

私たちは東京の秋葉原のライブハウスで行われる小さなライブに参加する。


楽屋ではまだ水面下で活動している地下アイドルや、駆け出したばかりのバンドチーム、結成して間もないお笑いコンビなど多種多様な出演者揃いだった。


前座と間のMCを挟むお笑いコンビは4人、ライブをして盛り上げるアーティストは14組となっていて、私たちは地方から来たので共演者から注目される。


「なぁなぁ、アンタら京都から来たん?」


「え…はい…。」


「すごい食いつきっぷりですね…。」


「ウチらもな、お笑いコンビの夢見て大阪から上京して来たんねん!ウチはオクトパスの桧山のり子や!そして相方の…」


「オクトパスの船橋のぶえです。のり子がすまんなー。同じ関西の子がいると聞くとすぐ食いつくんねん。」


「なるほど、それで嬉しさのあまりに声をかけたのね。」


「それに私たちは上京ではなく、京都のローカルアイドルでございます。花柳先生の人脈でここに来ましたでございます。」


「なんや…えらい美人さんや…!」


「そう言えばこの関東に新生アイドルグループがデビューしてな。確か…アルコバレーノ言うたかな?」


「アルコバレーノですか…?」


「せや、同時にモノクロ団っちゅうワケのわからん悪の組織が現れてな。どうやら謎の魔法少女に救われた男の子がおるらしいねん。東京に来たんなら気を付けや。」


「わかりました。ですが私たちはこのライブが終われば、また京都に戻ります。」


「京都…!?」


「ああ、あの人妖神社の…!」


「あの巫女さんの生存情報がないけどどうなったのかしら…?」


「あ…。」


「はな…。」


私はあまり人妖神社が大炎上したという噂を聞くのが好きではなく、本当は人間と妖怪が交流を深める聖地として有名であってほしかった。


ところがザイマ一族が地獄から神社まで侵入し、一方的に破壊と炎上をして私の居場所を奪っていった。


その悔しさと悲しさが頭をよぎり、私は泣きそうになった。


するとひまわりちゃんはムッとした表情でみんなを睨み、すみれちゃんは肩をポンっと叩いて励ましに来た。


「気にすることはないさ。君が実家の事を気にかけているのは、その仕事や家に誇りを感じている証拠さ。一緒にザイマ一族から君の実家を取り戻そう。」


「うん…!すみれちゃん…ありがとう…!」


「はいはい!辛気臭い話はそこまでや!せっかくのライブなんやし、もっと盛り上がる話題にしようやないかい!それにあの花柳小次郎がプロデュースするアイドルグループがここにおんねんから、滅多にないチャンスやで!」


「あ…。」


「どうやら察してもらったみたいだね。のり子さんいい人でよかったね、はな。」


「うん…。」


「さてと、そろそろ準備といきましょう。リハーサルで確認し、本番に備えましょう。」


「う、うむ!(紅葉が燃えている…?昨日の従姉妹の電話以降に何があったのだろうか…?)」


リハーサルでライブの動きの確認をし、音響さんと証明さんによる念入りの機材チェックが入って私たちは客席で待機する。


大取りである私たちは焦って衣装に着替えずに済む。


そして開場時間になり、先頭の前座を務めるオクトパスの二人は、気合いを込めたウォーミングアップをする。


私たちは少しだけ彼女たちのネタを見学し、面白かったところを述べたりする。


花柳先生は有名人なので、あまり姿を出さないようにしているものの、私服が和服で扇子をいつも手に持っていて、迂闊(うかつ)にトイレなどで顔を出すと一気にお客さんが近づこうとする。


それに顔も整っていて、どこか女性を魅了しそうな雰囲気も出しているので、よく逆ナンパに会ったりするらしい。


開演時間になり、オクトパスの二人が前座としてネタを披露する。


「はいどーもー!オクトパスの桧山のり子と!」


「船橋のぶえでーす!」


「最近ちょっとスランプ気味やねん。」


「あの紙芝居が?」


「うーん…絵が上手くいかないというか…何かいっつも不評を買うねん。ちょっと見てもらってええ?桃太郎なんやけど。」


「ああ、ええよ。ほな見せて。」


「桃太郎の始まり始まり~。」


「言い方が腹立つわ…。」


「ほい。」


「待てい!何で桃太郎の絵が剛腕アトラスの絵柄やねん!パクリ言われるやん!」


「え、ウチこの絵が好きで真似たんやけど…?」


「それがパクリ言うんや!」


「あははははは!」


「前座だって言ってたけどすごく盛り上がっているね。」


「他のみんなも気合い十分だよ。」


「うむ、皆も気合い入っているな。」


「花柳先生!」


「参ったな…。(それがし)は芸能人ではないが、サインをねだられたりとそなたたちの面倒を見れなかった。だがこうして出番を待っている間は客席で見守れる。期待しているぞ。」


「はい!」


花柳先生の期待もあり、私たちは不思議と力が湧いてきた。


LINE(リーネ)によると、妖怪たちも人間の姿に変身して京都からはるばると応援しにくる。


私はいつもの天狗さんこと天風(てんかぜ)ハヤテさんにその連絡を受け、少しだけ緊張がほぐれた。


他の出演者たちも自分たちのしてきたことを信じ、それぞれのパフォーマンスでライブを盛り上げた。


そしてついに…私たちの出番がやってきた。


「もう私たちの番ね。さて、いつもの掛け声をやるわよ!今日の担当は…あの掛け声の生みの親で今日のセンターを務める、春日はなさん!」


「わ、私!?」


「今日の掛け声の適任者は君だよ。」


「私たちに気合いを込めましょう。」


「春日さんなら出来るでございます。」


「ここまで来たのだから後はやるだけだ。」


「はな、大丈夫だよ!はなは私たちのセンターだから、胸を張っていこう!」


「みんな…はい!日ノ本に咲く黒き花!」


「「夜空を灯す淡い月!」」


「月光花!」


「「いざ参る!」」


「カッコええな!」


「オクトパスの皆さん!?」


「聞いていましたでございますか。」


「日ノ本に咲くって本当に和をテイストしとるんやな。それで和風衣装なワケか。」


「そうですね。私たちは京都を代表しています。だからこそ、アルコバレーノにも引けを取らないようにしないと。」


「そこの子は何か燃えとるな。ほな、ウチらは客席で見守っとるで!関西魂見せたれや!」


「はい!」


オクトパスの二人にもエールをもらい、私たちはステージに向かった。


最初の曲は私たちのテーマソングで、月の光を浴びる一輪の花が人知れず咲き誇るように、人は陰で努力をして見えない輝きを得る物語を花柳先生のお得意な和歌風にアレンジした曲を歌う。


次にもみじちゃんのセンター曲で、紅の鬼がごとくのくノ一が戦国の乱れを正すポップスを歌う。


最後の3曲目はメンバー全員がソロを歌う人妖神社にまつわる盆踊りの曲をカバーし、人妖神社の復興と奪還を願い、自ら花柳先生や両親にお願いして歌う事になった。


私にとっては歌い慣れた曲だけど、みんなにとっては私を支える曲でアレンジで7番まで作り直し、全員でセンターに立つという演出でみんなも躍り出していた。


そしてライブは終了し、お客さんが全員出た後に他の出演者の皆さんが私に頭を下げた。


「人妖神社の炎上を噂してすみませんでした!あなた方がそのご実家だって知らずに…!」


「ずっと一人で抱え込んで大変だったんだね…!何も知らなくてごめんなさい…!」


「これ、せめてもの罪滅ぼしですが…ファンの子からもらった差し入れを差し上げます。ザイマ一族に負けないでくださいね!」


「皆さん…!ありがとうございます!」


「ウチらからもお願いや。月光花の皆さん、絶対にメジャーデビューしてな!そしてアルコバレーノをアッと言わせるようなアイドルになってな!」


「はい!」


「ところで紅葉さん、ちょっとええか?」


「はい?」


「やっぱりアルコバレーノに紫吹ゆかりっちゅうモンがいるから、負けてられへんって燃えとるんか?」


「バレてしまいましたか…。」


「アルコバレーノの話をしたときに顔つきが変わったからな。同じ和のアイドルとして負けられへんな。」


「そうですね…。」


「こらのり子!あんま新人をたぶらかすなや!堪忍なー、この子すぐに後輩が出来ると絡むんねん。関西の子やととくにな。」


「大丈夫です。きっとのり子さんも嬉しいんだと思います。私たちと同じ駆け出しで頑張っているあなたたちを見ていると、もっと頑張れる気がします。いいライブでした、ありがとうございました。」


「紅葉さん!花柳先生が待っているわよ!早く来なさい!」


「はい!それでは失礼します。」


こうして初ライブは成功し、東京で少しだけ知名度を上げられた。


妖怪のみんなも変装がバレないように横断幕で「咲き誇れ!月光花!」という法被(はっぴ)と月と花のデザインのうちわをファンクラブとして販売していた。


さらに取材を受けたら有名になりやすいと噂の灰崎真奈香記者が訪問していて、花柳先生は取材を受けていた。


同時に同じ関西出身のオクトパスさんの事も言及し、私と同い年ながら夢を見る彼女たちの事も応援したくなった。


私たちは東京での旅行を終えてのぞみに乗り、京都へ帰った。


つづく!

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