第14話 一番
「ナニヨ…アナタ…!」
「通りすがりの日舞の踊り子、そしてアイドル候補生として月光花のメンバーの…紺野るりでございます!」
「紺野先輩…!」
「これで全員揃ったんだ…!」
「紺野先輩なら心強いね…!」
「オトコヲ…フクジュウ…!ワタシニ…ヒザマズケ!」
「させません!はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ウッ…!」
「凄まじい風起こし…!」
「それにあの動き…何だか見惚れてしまいますね…!」
「オノレ…ウットウシイマネヲ…!」
「何故そんなに殿方をそこまでお嫌いになられるのでございますか?過去に何かあるのでしたら、私が元に戻してから話を聞くでございます!」
「ウルサイウルサイ!」
女性の獄魔は理性をすでに失い、炎を力任せに投げつけたりしました。
私は日舞で培ってきたフットワークで変幻自在にかわしつつ、炎の流れ弾が街に当たらないように扇で受け流し、次第に妖魔の水風で消滅させました。
その心理状態ではもう私に当てるどころか、かすり傷を負わせることも出来ず、ただただ体力を消耗し、ついに魔力が尽きたのでしょうか、膝をガクリと地に着き始めました。
ヒメギクさんは少しばかり唖然としていましたが、深呼吸をして私にこう叫びました。
「るりさん!妖魔を最大にして必殺技を!」
「はい!心は川の流れのように清くあれ!水龍天翔大渦!」
「ワタシハ…イッタイ…!」
扇を横に広げて回転し、獄魔を大きな渦に巻き込んで魂に戻り、女性の胸元へ還っていきました。
女性は何が起こったのかを把握しておらず、少しだけ気持ちの整理が出来ませんでした。
私は女性の元に歩み寄り、何故殿方を雑に扱うのか聞きに行きます。
「あの…何故殿方をそのように見るでございますか?」
「ええ…とくに男に何かあったわけじゃないけれど…。私はこの美貌で男どもを魅了し、チョロい男どもを従える事でずっと過ごしてきたわ。でもみんな私の事を悪女だって言って避け、どうして尽くしてくれないのかわからなかったわ…。お金があって私の事を最優先で何でも言う事聞いてくれて…じゃないと私は不安なの…。この美貌がいつまで続くかわからないし、何よりそうしないと私の存在価値がわからないの…。」
「そうでございますか…。あなた様は確かに姿や形は美しいかもしれませんが、どうやらもっと美しくあるべきものが醜かったみたいでございますね…。」
「何が言いたいの…?あなたはあの姿も頭も汚い男どもの味方するの…?」
「いいえ、殿方も婦人も姿や形が美しければ最初は皆も寄ってくるでしょう。しかし見た目の美しさだけでは、人間を魅了するには限界がございます。本当に美しくあるべきなのは…目に見えるものだけではなく、目に見えないものの感じることが出来る心そのものです。心が美しくなければ、いずれ魂まで穢れ…先程のような醜い姿へと変貌させるでしょう。」
「ああ…だから認められなかったのね…。」
「心の美しさは、人に対しどれだけ尽くすかではございません。人が喜ぶことと同時に、自分も喜べるかどうかを知る事、自分自身の悪い心に負けない事、そしてあらゆる困難にも立ち向かい、真っ直ぐ信じる道を進むことでございます。確かに殿方は欲望に忠実な性質かもしれませんが、それは自分の子孫を残すことがそもそもの目的でございます。あなた様は自分自身の美しさに酔いすぎたのでございましょう。」
「それもそうかも…。自分の美しさに酔いすぎたかもしれないわね…。」
「人間は欲望の生き物でございます。だからその欲に溺れ、悪い道を歩むことは多々あります。ですが…その欲に溺れないために、心を強く正しく美しくいてください。あなたのような美しい方なら、きっと出来ると信じているでございます。」
「あなた…澄んだ川のように美しいわね…。姿も…心もね…。私が間違っていたわね…。心を入れ替えて、心も美しくなるように頑張るわ。」
「人は選択を間違えて後悔し、そしてそうならないために経験として活かし、成長していくのでございます。それでは私は日舞のコンクールがございますので、またお会いしましょう。」
「カッコいい…!」
「まさに大和撫子のお姉さんだ…!」
「私も心の美しさを見習わないといけないね…!」
「さすが紺野先輩ね…!」
「こんな先輩とご一緒できて感激です…!」
「私たちも清き心を持たねばな…!」
「さて、皆さま…。そろそろ演舞場に戻りましょう。私の舞を是非ご覧ください。」
「はい!」
こうして私は事件を解決し、女性は強く優しく美しい心を得るために磨かれると思います。
一方の皆さんは、客席に戻られてからは警備員の方に少しだけ咎められましたが、花柳先生とヒメギクさんが事情を説明してこの場を収めました。
そして私は…
「では今回の優勝を発表します。優勝は…鎌倉八幡学園3年、黒川つばめさんです。」
「ああ…紺野先輩が負けた…!」
「あんなに美しくてカッコよかったのに…!」
「残念だけど、今は黒川さんの健闘を称えようではないか。」
「そうですね。紺野先輩はやれる事はやりました。」
「私の舞はまだまだ成長段階でございましたね…。月光花を通じ、日舞の新しい道筋を辿り、紺野流はまだまだ進化していくでございます。黒川つばめさん、おめでとうございます。」
「まさか紺野流の家元の子に勝てるなんて思いませんでした。またあなたの舞を魅せてくださいね。紺野流のご健闘を祈ります。」
コンクールは3位入賞に終わりましたが、私の日舞人生はまだ始まったばかりでございます。
アイドルを通じてどこまで表現力が磨かれるか、私の心はもっと美しくなれるのか、アイドルがきっかけでファンの皆様が日舞に興味を抱かれるのかを試してみたくなりました。
事務所に戻ると、ヒメギクさんは私たち全員を呼び出して、重大な発表があるのでしょうか緊迫した空気が流れました。
「みんな、集まってくれてありがとう。妖魔大王の娘としてみんなにお願いがあるの。」
「ヒメギクさん、私たちに出来る事があれば…。」
「えっとね…私は一方的にみんなの事を友達と思ってて…。その…妖怪のみんなは姫様って呼んでくれるんだけど…。友達として…呼んでくれると嬉しいなって…。」
「なーんだ、そんな事だったんだ!じゃあ…この人間界だと妖怪にも人間と同じような名前を名乗れる制度があってね、通名制度ってやつなんだけど。これから友達として、平安館女学校に通おうよ!」
「平安館女学校…?」
「ええ、確かヒメギクさんはまだ身寄りがないのよね?どこに住むか決まったかしら?」
「えっと…まだです…。」
「それなら春日家の支社に一緒に住む?平安館には寮があるけど、そこは今リフォーム中で住めないから、私の家に住もうよ。」
「いいの…?ご迷惑だと思うけど…。」
「迷惑だなんてとんでもないさ。君がいなければザイマ一族の襲来を予知できなかったからね。
「それに通名制度をご利用なさるなら…ヒメギクという名にちなみ、焔間姫菊と名乗るのはどうでしょうか?」
「もみじさん…!その漢字、気に入りました!」
「じゃあこれからはヒメギクって呼ぶね!」
「これからよろしくお願い致します、ヒメギクさん。」
「はい…よろしくお願いします!」
こうしてヒメギクさんとも友情が深まり、新たに再スタートを切りました。
ザイマ一族との戦いはまだ始まったばかりです。
今後もまた獄魔も強くなるでしょう。
月光花プロジェクトも始まったばかりで、これから知名度を上げなければなりませんね。
つづく!