第12話 受け入れる勇気
私の武器は火縄銃で、残念ながらこの武器では主力というよりも援護に回りざるを得なくなる。
火縄銃は海外ではマッチロック式マスケット銃といって、弾丸を銃口から入れて火薬を装填し、火縄の火で発火させる単発前装式銃である。
このままでは私はあの化け物を倒すのは難しいと判断し、みんなの様子を伺った。
「みんな!大丈夫?」
「ええ…なんとか…!」
「それより常盤先輩…変化をしたのですね…!」
「それなら心強いや…!銃だったら…私が先に一番槍として上から思い切り叩き、冬野先輩がリーチを活かして斬り込みます。そこから紅葉さんと藤野さんで一気に攻め落とし、はなが矢を放って動きを止めて!そこで常盤先輩が…」
「とどめを刺す…でいいのね?」
「はい!物分かり早くて助かります!それじゃあ…いくよ!」
「うん!」 「ええ!」 「はい!」
「デテイケ…!」
「そうはいかないよ!はぁぁぁぁぁぁっ!」
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「クッ…グハッ…!」
「一気に参りましょう!」
「私も負けてられないね!」
「ウッ…クゥ…!」
「今だっ!当たれっ!」
「グ…ハ…!」
「今です!常盤先輩!」
「ええ!任せて!あなたの排他的古い価値観を…ここで矯正してあげるわ!神風旋陣弾!」
「ウア…ア…!」
私の渾身の一発が化け物の胸を貫通し、その後に魂となって男性の胸の中へ戻っていった。
しばらくすると息を吹き返し、さっきまでの出来事の記憶が曖昧なのか少し戸惑ってもいた。
私は事情を全て説明し、男性は今まで外国人に何があったのかを私に話し始めた。
「私は…元々は外資系で働いていて、様々な外国人と交流をして異文化を育んでいたんだ。日本人としておもてなしをし、彼らにいい思いをさせてあげたかったんだ。ところが…日本人特有の建前と本音をいい事に、あいつらは日本人に好き放題言ったり、外国人だからもっと優遇しろ、勤勉な日本人の仕事だからお前らでやれって…いい様にコキ使われたさ。だから私はその会社に辞表を出し、外国人が日本に来るのを反対し、軽蔑したのだ。」
「なるほど…それであんなに毛嫌いしていたんですね。辛い経験だったんですね。」
「だから日本人と価値観が合わず、日本のルールに従えない外国人などいらない、さっさと出て行ってくれと叫ぼうとしたら…突然胸が苦しくなって、意識がなくなって…気が付けば君たちがここにいた。あれは…一体…?」
「確かに外国と日本では民族性も宗教も育ちも言語も気質も何もかも違います。とくに島国の日本ではとくにそうですね。でも…西暦時代の江戸時代末期、鎖国してから開国し、たくさんの文化と国の在り方を学び、最初はやっぱり追い出そうとしたけれど、明治維新の成功と文明の革命的成長が出来ました。古いものを守っていく事も大事ですが、新しい事を取り入れつつも古い伝統を守る、それが一番未来へ進む方法だと私は思っています。もちろんなんでも受け入れればいいってものでもないけれどね。いいところは自分なりに吸収してもいいかもしれないですね。」
「そうか…。」
「それに…私たちは今はアイドル研究生で、ローカルアイドルをやっています。みんなそれぞれアイドルになった理由は違いますが、私は日本文化の衰退を危惧し、その伝統的文化の人口を増やすためにアイドルになろうと決めたんです。外国人の全員が日本の事を全部理解するのはもちろん無理です。だからって排除したりすると、新しく始めたい方々も入りづらくなると思います。」
「そうだな…。会社でも未経験お断りだと、高卒大卒を雇えないしな…。」
「馴染めないのならまた別の馴染めるところへ移ればきっと、あなたの未来も明るいと思います。私たちは月光花、京都のローカルアイドルです。」
「京都…?確か人妖神社大炎上の…!?」
「ええ、そうです。私たちは京都のためにアイドルを続け、みんなの希望になります。だから…応援よろしくお願いします。」
「わかった…。君たちが私を助けたこと、感謝します。そうと決まれば、またやり直してみせるよ。それに…受け入れるのと何でもイエスと答えるのでは違う、そうだね?」
「ええ。もう何でもイエスなんて言っちゃダメですよ?そうなると人は調子に乗ってしまいますから。」
「そうだね。君、名前は…?」
「平安館女学校高等部1年、月光花のリーダーを務めます、常盤わかばです。」
「常盤わかば…あの全国模試の日本史の昨年3位の…!君の事をよく覚えておくよ。本当にありがとう、では…また会いましょう。」
こうして男性は外国人への排他的な態度を改めさせ、月光花の名前を覚えてもらい、そのまま去って行った。
事件解決後は警察やマスコミが現場に駆けつけ、私たちは稽古に影響が及ばないようお忍びで稽古場に戻り、就寝時間までに間に合った。
2日目は朝食でポテトサラダを作る事になり、ジャガイモを茹でる時間を間違えて硬かったり、今度は茹ですぎてグチャグチャになったりと、つばきの付き添いでもう一度作り直す。
昼食もおにぎりで大きさや形を間違え、具を入れるときにこぼしたりはみ出たりと苦戦を強いられる。
夕食でも和製洋食のオムライスでタマゴを焦がし、チキンライスもお米が水分摂りすぎて潰れたりと散々だった。
料理をするとどうしても苦手意識が出て、味見しながらだから味の方は少し改善したものの結局みんなの舌を困らせてしまった。
そして3日目、最後の稽古の時間が訪れた。
「最後は基礎体力のために、このトレーニング室で走り込みをしてもらいます。やはりアイドルは基礎体力がなければ、笑顔は維持できませんから。各自にマスクを配りますので装着してください。」
「はい!」
「走り込み…うう…!」
「常盤さん?何だか顔色が悪いでございますが?」
「実は私…体力テストで…いつも学校でも最下位なの…!」
「意外ですね!あの完璧な常盤先輩が料理だけでなく運動も苦手なんて!」
「確かに意外ですね。ですがあまり無理してケガしないようにしてくださいね。」
「私も運動が苦手なので少し安心しました。」
「ふむ、そう言えば常盤は武道の授業でもいつも見学していたな。」
「もう冬野さん!そこ暴露しないで!」
「ははは…。さぁ、そろそろ始めましょう。お千代先生が早くしなさいと、般若のような顔で見つめています。」
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
春日さんは運動が苦手だと言っていたけれど、神社の神事で馬に乗りながら弓で今年の運勢を占う人妖流鏑馬を毎年やっていて、体幹と柔軟性は一番だった。
日向さんと紅葉さんはアクロバットな動きも可能で、紺野先輩は無駄のない綺麗なフォームで、冬野さんと藤野さんは完璧な運動神経だった。
私はまず400m地点のランニングで息が上がり、メガネも曇ったこともあり派手に転んだり、ダンスではステップを踏み外して滑らせたり、柔軟でも身体の硬さが目立った。
お千代先生は少し表情が引きつっていたけれど、運動と舞踊以外は完璧にこなしたので目を瞑るわ…と呆れつつも合格を与えてくれた。
こうして憂鬱な料理と運動を含めた合宿を終え、今まで隠していた完璧とは程遠いキャラが定着し、日向さんから隠れファンがポンコツキャラとしていじりそうとからかったりされるようになる。
こうなったら…アイドルのステージで汚名返上してやるわ!
つづく!