第113話 見えない敵
ワールドアイドルオリンピックのHブロック予選をトップで通過した月光花は優勝者として決勝ブロックへと駒を進める。
あの西日本で最も売れているUMD48を越えてインターネットでも話題を呼んでいた。
この事は妖魔界でも大きな話題になり新たな七人将さまが人間界で快挙を成し遂げたと持ちきりだ。
そんないいムードの中で私と花柳さんは信じられない光景を目にする。
「焔間さんのサポートのおかげで人間や外国人だけでなく妖怪からのファンを獲得できた。本当にそなたの働きには礼を言うぞ。」
「みんなが頑張っている姿を見ると、私も妖魔大王としてもっと頑張らないとって思えるんです。みんながいたから私はザイマ一族以前から続いていた因縁に終止符を打ち、そして大元となったホロビノミコを倒せました。これはみんながいなければ成し遂げられなかった事だと思います。だから私はみんなにこんな形ですが恩返しをしないといけませんから。」
「やはり大王の器であるな。焔間さんはきっとよい大王になるであろう。さてと、月光花の話題をSNSで拝見しようではないか。」
「はい。」
「むむっ…これは…!」
「どうしましたか?」
「いや…これは皆には見せられぬものだ…。某もさすがにショックだ…。」
「一体どんなものなんですか!?見せてください!」
「うむ…。」
「そんな…!どうして…!?」
「焔間さん、どうか月光花の皆には内密に頼むぞ。」
「わかりました…。」
私と花柳さんは月光花の評価を調べ、ファンから見てどんなものなのかを確かめたかった。
ところがそこに書いてあったのはまとめサイトなる掲示板で信じられないコメントが多数寄せられていた。
そんな酷い書き込みがみんなに知られてしまう事を知らずに私はみんなのレッスンに姿を出す。
「今日はこの辺ね。お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
「今日もひまわりは調子がいいんじゃないか?」
「やっぱり?私だってやっとアイドルとして踏み出せたから調子上げないとね!」
「うふふ、ひまわりさんはいつも通り元気でございますね。」
「そうでなくてはムードメーカーとして困りますよ。」
「えへへ。」
「でもトラブルメーカーはやめてね?」
「はなは相変わらず私には辛辣だなぁ…。」
「まぁいいじゃないか。長い付き合いだからそういうのが見えるんだろう。」
「ちょっとすみれ!?」
「厳しいが最もな意見だな。」
「つばきまでひどーい!」
「うふふふ。」
「さて、私たちはネットではどんな声が出ているのかな?」
「あ、それ私も気になってたんだ。」
「となると早速SNSを見なきゃね。」
「だ、ダメっ!絶対見ないで!」
「むっ?ヒメギクどうしたんだ?そんなに厳しい顔をして。」
「絶対にネットは見ないで…。お願いだから…。」
「何か私たちに隠し事ですか?あれだけ戦で共に戦ったじゃないですか。今更秘密にするなんてあんまりですよ?」
「こうなったらやるしかないわね…ひまわり!アレを使って!」
「もちろん!覚の能力発動!」
「あっ…!」
ひまわりが覚の能力の保持者だということを忘れ閉心術が間に合わなかった私はすぐに心を読まれてしまった。
ネットを見ると月光花の評価が最悪で誹謗中傷にさらされて炎上していることをみんなに言えるわけがなく、もしもみんなが知ってしまえば何のためにアイドルとして頑張ったのか、誰のために世界を救って頑張ってきたのか、どうしてみんなが悪く言われなければならないのかわからなくなる。
ひまわりは私の心を読んでから次第に暗い顔になり、言いづらそうにスマホを手に取って調べ始めた。
「嘘…!どうして…!?」
「どうしたの?ひまわりちゃん?」
「そんな険しいお顔してたら可愛らしいお顔が台無しでございますよ?」
「だって…こんなの…あんまりだよ…!」
「ひまわりまで仕方ないわね…。じゃあいいわ、私自ら月光花と調べるわ。」
「私も調べてみるよ。そんなにショッキングな記事があったのかい?」
「えっ…これって私たちの…!」
「えっと…私がコメントを読んでみるわね…。」
UMD48に勝ったとかまぐれにもほどがあるだろ
どうせ勝てたのは八百長なんだろ
八百長乙
何が人間のためだよ、正義感に溺れた偽善者の妖魔使い(笑)
好き放題生きて何が悪いんだよ、あいつらバカじゃないの?
欲望を抑えるとか無理に決まってるだろ
英雄気取りのクズがよくアイドルやってられるな
月光花だっけ?俺のUMD48を泣かせやがって!解散して二度と芸能界に出れないようにしてやりたい!
死ね!月光花死ね!解散してしまえ!
「酷い…!どうしてみんなそんな事を…!?」
「こんなの…あんまりだね…。」
「怒りよりも悲しみが溢れるな…。」
「英雄気取りとか…偽善者だなんて私たちは…ただ…」
「うう…酷いよ…!どうして…みんな…」
「ヒメギクは私たちに遠慮して黙っていたんだね…。そうと知らずに心を読んでごめん…。」
「いいんです…元はと言えば私が世間に広げちゃったから…。私のせいで…みんなが悪いように言われて…。」
「んんっ!?ちょっとみんなこれ見て!」
「わかばさん…?」
ゴチャゴチャ言うならライブ見に来いよ!
月光花の実力は本物だったぞ!
俺はUMD48のファンで月光花のパフォーマンス見たけど、明らかに彼女たちを超えるパフォーマンスとオーラだったぞ!
月光花を悪く言うほど哀れな心と魂なのか?お前たちのアイドルへの思いはその程度なのか?
月光花ほど人間と妖怪の絆を結んだ英雄はいないってこと京都以外の人は知ってる?
アルコバレーノもそうだけど月光花だって私たちのために命をかけて危険を冒してまで世界を守ったのよ?
うちの子どもが月光花みたいな大和撫子になりたいと言うほど憧れているのに悪く言うなんて酷い!
俺は勉強は苦手だけど勉強して平安館大学を受験すると決めた!
「これって…?」
「まさか京都のみんなが…?」
「京都だけじゃないね…。日本だけでなく世界中で認められているね…。」
「やはり見ている人は見てくれているのだな…。」
「おう!どうやらお前たちにも知られたようだな!」
「その声は…鬼ヶ島社長!」
「あの書き込み見てしまってな、まだ月光花が知られてないと悔しかったからそのまとめサイトの掲示板に書き込んだんだ。ワシは鬼だけど頑張っている人は応援したい。もしも頑張った人を貶すならワシは絶対に許さん。だが暴言暴力では何も解決しないんでな、だからそんなに言うならライブに来いって言ったんだ。お前さんたち、悔しい気持ちを忘れずにワシら妖怪と…京都中の人間の希望となりな。ワシの奢りだ、かっぱ食堂で飯を食いな。河野大将からはもう話はしているからよ。」
「鬼ヶ島社長…大道具だけでなくありがとうございます…!」
「大王さま、そんな湿気った顔をすんじゃねぇぞ。ワシらは心優しくて行動力と決断力のあるアンタを選び、そしてワシらの代わりに妖魔界を代表して救ってくれたじゃねぇか。せっかく花柳先生の代わりを務めてるんだし、何より花柳先生が次期プロデューサーとして大王さまに期待を込めて育て、そしてついに実戦の時が来ただけじゃねぇか。プロデューサーがそんな顔してたら月光花のみんなが不安になっちまうぜ?」
「鬼ヶ島社長…私は少しみんなに気を使いすぎた上に世界を救った事に舞い上がってたのかもしれないね。もう一度初心に戻り見ていない人たちにアッと言わせよう!」
「それでこそヒメギクちゃんだよ!」
「私…絶対に私たちを見ていない人たちの心無い言葉なんかに負けません!」
「もみじは相当負けず嫌いだけど、こればかりは私も悔しいし負けたくないよ!本当に八百長かどうか白黒つけてもらおう!」
「よし!UMD48さんの分まで頑張ろう!」
「おー!」
「何だよ…案外みんな心がタフじゃねぇか。花柳先生、これでいいのか?」
「ふむ…これはもしかしたら某の下から卒業する日も近いかもしれぬな。」
「だが先生の事務所に所属することには変わらないんだろう?プロデューサーが大王さまに変わるだけで月光花の活動は続けてもらうんだよな?」
「それは月光花の皆が決める事だ。焔間さんは某の家に上がり込んでプロデュースのやり方を教えてくださいって頭を下げられたのだ。そこまで言われれば厳しい指導になるが焔間さんは見習いながらここ7か月間も耐え抜き某の代わりが務まるほどになった。後は月光花の皆次第だ。」
「そうか。ならワシは今まで以上に大道具として陰で支える事にするよ。最後のプロデュース、頑張れよ。」
「うむ。」
つづく!