第108話 盆踊り
~日向ひまわりside~
夏の新・祇園祭も終え、はなによる流鏑馬が成功に収まった記念に盆踊りを開催する。
そこで私はリフレッシュのために盆踊りに浴衣で参戦するのだけど…太鼓を叩くはずの人が1か月前に仕事で手首の疲労骨折を起こしてしまった。
なので私はせっかくの盆踊りを中止にしたくないあまりに1か月間ずっと太鼓の練習をしてきて、その本番の日がやってきた。
「日向さん、今日はよろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!」
「すまない…君のせっかくのオフを無駄にして…。」
「気にしないで。仕事が本業だから仕方ない事だよ。それに…一度盆踊りの和太鼓を叩いてみたかったんだ。小学校の頃にもチャンスはあったけど、オーディションで落ちちゃったから叩けなかったんだ。ようやく小さな夢が叶ったって思うといいリフレッシュにもなると思うんだ。」
「そうか。君はポジティブなんだね。そのポジティブさで何度も妖魔使いの戦況を変えてきたんだろう。」
「それにあの日向プロや夏目プロのお孫さんとなれば相当な軍師だろうしね。今日の本番期待しているよ。」
「任せてください!」
「そうそう、日向さんににとってはもう馴染み深い曲だけど、今年からみんなも驚くあの音頭を収録してあるよ。」
「あれですね!きっとみんな喜ぶと思うよ!」
「君にはあの曲でメインをやってもらうからね。頼んだよ。」
「はーい!」
あの曲といえば月光花の音頭ソングである京都通り名の歌を盆踊り風にアレンジした曲で、京都の人にとっては馴染みのあるわらべ歌である。
それを花柳先生によって歌詞がアレンジされている。
その曲で私は太鼓だけでなく叩きながら歌うことになっているけれど、月光花のみんなはこの盆踊りに来るのかな?
本番の時間前になり、私は屋台のおじさんたちのお手伝いをして準備を進めた。
おかげで大事な商品の試食も出来たし、ゲームのお試しでメンテナンスがてら遊ぶことも出来た。
そして本番の時間になり、すぐに家族連れや友達同士のグループが来た。
もちろん…月光花のみんなもね。
「ひまわりちゃんが小さい頃からやりたかった盆踊りの太鼓をこれからやるんだ。みんな間に合ってよかった。」
「当然じゃないか。せっかくのクラスメイトが太鼓をやるんだ。彼女の勇姿をこの目で見てみたいさ。」
「ああ。おかげでひまわりの夢も叶い、そして私たちの歌が収録されていて彼女がそれをメインで叩くのだからな。」
「そうね。私たちにとってはありがたいことね。京都のみんなも驚くこと間違いないわね。」
「それに私たちは浴衣姿で変装してますから、そう簡単に本人たちがここにいるだなんて思わないでしょう。」
「うふふ、早く盆踊りの時間が訪れないか待ち遠しいでございます♪」
「うん。こんなに平和な時間を過ごすことなんて今までならなかったからね。いい思い出をいっぱい作ろう。」
「じゃあまずは屋台めぐりね。みんなで食べたいものを決めて一緒に食べましょう。」
「それがいいな。各自食べたいものを買って盆踊りしているあそこの前に集合だ。」
「それじゃあ…行って参ります。」
「早速お仲間が来たじゃないか。いいところ見せてやろうぜ。」
「はい!よろしくお願いします!」
盆踊り開始時間になった私は小さい頃からの夢だった和太鼓で拍子を取る夢が叶い、一生懸命に楽しんで拍子を取って叩いた。
下では盆踊りに慣れている女性のみんなが浴衣を着て躍り、子どもたちは走り回って楽しそうにはしゃいでいた。
老夫婦もベンチで座って若い頃の青春を思い出しているのかとても楽しそうに会話をしていた。
一方の月光花のみんなは私が太鼓を叩いているのを見たいのか下で屋台の食べ物を食べながら私の方を見ていた。
つばきやわかばはうんうんと頷き、はなとすみれは私を誇らしそうに見つめ、もみじとるりは目を輝かせてこちらを見ていた。
そしてついにあの曲が流れる。
「さぁ皆さんお待たせしました!京都の英雄で妖魔使いのアイドル、月光花の新曲が発表されます!この盆踊りのためにプロデューサーの花柳小次郎が作詞され、そしてあの京都通り名の歌をアレンジして生まれ変わらせた京都市公認のあの曲です!それではいきましょう!京都通り名数え音頭!」
「みんなー!ひまわりちゃんが太鼓を叩いて拍子を取るからみんなも踊ろうねー!」
「皆さんと共に踊れる事を誇りに思います!」
「ひまわりの小さい頃からの夢を私たちの曲で叶えに来たよ!」
「せっかくの盆踊りなのでいい思い出にしましょう!」
「京都に住む者もそうでない者も最高の瞬間になるぞ!」
「では参りましょう!京都通り名数え音頭!」
「いよぉ~~~~~~~っ!」
「あー!さっきのお姉ちゃんたちだ!」
「マジ!?あの子たちは月光花の変装だったの!?」
「それに妖魔大王さままでいるわ!」
「ワシらも年甲斐なく踊るとするかの!」
「はぁ~京都はいいとこ寄っといで!そーれ!」
私の音頭でみんなは浴衣姿で躍り、周りの人や通りすがりの人をも巻き込んで新曲を楽しんだ。
盆踊りは2日間行われるけど、私はアイドルの仕事を考慮されて1日目のみとなる。
1日目も終わりに近づいたとき、一人の小さな女の子がポツンと一人で立ち止まっていた。
太鼓の出番を終えた私は舞台からあがり、フリータイムになった頃合いで女の子に近づく。
「どうしたの?迷子になったの?」
「ひっく…ひっく…うえ~~~~~~~ん…!」
「うーん困ったなぁ…泣いてばかりだと何があったのかわからないや…。そうだ、ねぇ君のお名前は何ていうの?」
「ひっく…真奈…。稲田真奈…。」
「真奈ちゃんっていうんだ。私はひまわりお姉ちゃんだよ。もしかして誰かとはぐれちゃった?」
「お兄ちゃんが…いないのぉ…!」
「お兄さんとはぐれちゃったんだ…。これからお姉ちゃんと探しに行こうね。」
「うん…。」
お兄さんとはぐれた真奈ちゃんという子の手を繋いでお兄さんを探すけれど、どんな人なのかわからないので名前をひたすら叫んで探した。
しかしこの終わりの時間にいくら探しても見当たらなくて諦めかけたところ、どこかで聞き慣れた男の声がした。
「真奈ー!どこにいるんだー!お兄ちゃんはここにいるぞー!」
「この声…どこかで…?」
「真奈…やっとみつけた!」
「お兄ちゃーーーーん!」
「怖かったな…あんなに人がいたのに手が離れちゃったな…ごめんな…。」
「えっ…稲田くんって…真奈ちゃんのお兄ちゃんだったの…!?」
「春日さんの幼なじみの…日向さんだっけ。ウチの妹を見つけてくれてありがとう。」
「お兄ちゃんに会えてよかったね。もうはぐれないようにしっかり手を繋いでね?」
「うん!ひまわりお姉ちゃん…ありがとう!チュッ♪」
「ふえぇっ!?」
「すまないね、この子は自分より背が高い年上の人にお世話されると頬にキスするクセがあるんだ。直そうとしても感謝を伝えるためだって直らないんだ。」
「ううん、ビックリしたけど嬉しいよ。じゃあまたね。」
「うん!」
「あ、待って!日向さんは俺が春日さんと結婚してアイドルを引退しても受け入れられるの?」
「えっ…?」
「ああ、まだ先の話だし親が勝手に決めた事だから戸惑うのも無理はないか…。今の質問は忘れてくれ。」
「ううん、ちゃんと答えるね。はなは多分だけど結婚してアイドルは引退しても月光花は活動を続けると思う。子どもが出来ても子どもの手本となるためにママもちゃんとやるし、神社の御利益として活動していくと思うんだ。でもこれははなの問題だから私は想像するしか出来ないしわからない。私は続けてほしいなって思う。」
「そっか…俺との婚約のせいで春日さんの人生の邪魔してないか不安だったけど…日向さんの言葉のおかげで吹っ切れたよ!ありがとう!それと…甲子園に出場したからまた応援よろしく!」
「うん!甲子園頑張ってね!」
はなの婚約者である稲田くんははなの人生や芸能活動の邪魔をするんじゃないかと不安だったのか、別れ際に私に質問をして答えを聞き安心したのか真奈ちゃんを連れて帰った。
真奈ちゃんはあれからすっかり私のファンになり、和太鼓も叩けて囲碁と将棋が出来るアイドルとして憧れてもらった。
きっと婚約問題ははなも気にしていると思うし、私も幼なじみとして余計なお世話かもしれないけれど解決するために一肌脱ごうかな。
つづく!