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第107話 夏休み

~紺野るりside~


7月に入った私たち月光花は夏に向けた仕事をこなすのですが、私は花柳先生から長い仕事と戦の疲れを癒せと言われ家族で海に行きます。


水着は持ってはいませんが、京都の京丹後市にある平海水浴場に参りました。


西暦時代では秩序が守られておらず花火は禁止されていましたが、新暦に入ってから秩序は見直されザイマ一族との戦い以降はより守られるようになってから監視の下で個人による花火大会は許されています。


私は紺野流日舞家元の皆さんと共に海をこれから満喫します。


「さぁ皆さん、せっかくのオフですから海をいっぱい楽しみましょう。家元である私も…新しい水着を買ってきたの。そして…水鉄砲や子どもから大人まで楽しめる浮き輪も持ってきたわ。ボートみたいに乗って遊ぶのもいいわ。さぁ、遊びましょう。」


「はい!」


「いぃやっほぉぉぉい!」


「子どもたちは元気そうだな。」


「俺たちも楽しもうぜ!」


「おっと、紺野流の名に懸けてナンパはするなよ?」


「わかってるって。俺だって妻子いるからさ。」


「夫婦で紺野流を受け継ぎ、そしてお子さんまで紺野流の一員で嬉しいでございます。」


「るりちゃんももう大学生なのねぇ。時の流れは早いのねぇ。」


紺野流の会員になるにはまず厳しい日舞の基礎稽古に励み、そこで家元に認められた者が正会員となります。


認められなかった者は代わりに他の家元を紹介し、その人の全てを否定するのではなくその人に合う日舞の先生と巡り合わせるやり方をしています。


お母さまはせっかく日舞を好きになった者を追い払うのはもったいないといつも仰り、不合格になった者でさえ面談で個性を見て全国の家元や日舞教室に紹介書を送っては移動の資金を援助するなどとても評判がいいところです。


私ももしかしたら紺野流の直系でも別のところで教えをいただいたことでしょう。


そんな皆さまと共に一日を海で過ごすという貴重なオフを過ごします。


私は仕事が忙しく水着を買う時間がなく、運動着に着替えて砂浜でビーチバレーを楽しみます。


「るりさん!いきますよ!」


「はいマイケルさん!お願いします!」


「そーれっ!」


「ほっ!」


「はいっ!」


「やあっ!」


「Oh!」


「やりますね!」


「えへへ…。」


ホロビノミコを制してから紺野流日舞を習いたいという人が増え、あの時の番組で共演したキム・ハンスさんも紺野流の会員になり、日々日舞に励んでいます。


着物をオーダーで韓服風にアレンジし、扇で華やかに舞う姿は日舞としては型破りで高評価を得て外国人限定の日舞コンクールで入賞するなど優秀な成績を収めるなど外国人会員も活躍していました。


サーブを打ったマイケルさんもカナダから仕事で日本を訪れ、紺野流の日舞に憧れて日本にいる間は習っているそうです。


お母さまはオーダーで着物風にアレンジした水着でパラソルの下で座り私たちを見守りました。


そして紺野流最年長の長嶋繁さんは自らかき氷を買い出しに行き、私たちにそれぞれ好みに合ったシロップで渡しました。


「さぁ皆よ、かき氷でも食べて暑さを乗り切ろうじゃないか。」


「シゲさんゴチになります!」


「やっぱりシゲさんは古参の余裕があるわねぇ。」


「家元の私でも彼に見習うところがあるわ。彼は私のおばあちゃんの代から通う大先輩なのよ。彼が4歳の頃に私のおばあちゃんが教え、そして私のお母さまが教えて今では最年長紺野流会員として皆さんを指導しているのよ。」


「シゲじーちゃん!それっ!」


「うおっ!?」


「へへへっ!水鉄砲に当たったぜ!」


「ははっ!やったなぁ!ほれっ!」


「キャッキャッ!」


「こら!シゲさんにいたずらしないの!」


「よきよき。子どもは無邪気なくらいがちょうどいいんだ。ワシも若い頃を思い出すなぁ。そら!ワシの水鉄砲をくらうんだ!」


「きゃっ!シゲさんやったわねー!」


最年少の6歳の男の子のいたずらから始まった水鉄砲のサバイバルゲームが開戦し、家元であるお母さまも面白そうだということでチーム分けするなど日舞の世界ではありえないリラックスした状態でした。


私はシゲさんやハンスさんとお母さまと同じチームになり、海の中で波に打たれながら撃ち合いをしました。


皆さん日々の稽古で疲れた心をたくさん癒し、会員の皆さんといいコミュニケーションを取りました。


時が流れて夕方になり、私たち会員はいつも通り浴衣に着替えて砂浜で花火大会を行います。


すると私が浴衣姿になると一般の方々がたくさん集まり、まるで何かのイベントを行うかのような盛り上がりを見せました。


「さすがるりさんだね。アイドルやっているから人気者だよ。」


「そんなたいそうな事ではないでございますよ。皆さんと花火大会を楽しめるだなんて滅多にない事でございます。」


「るりおねーちゃん美人だもんね!」


「うふふ、ありがとうございます。では皆さん、花火大会を始めましょう。」


缶の中に入れたろうそくに火をつけ、そこから着火させて綺麗な花火で遊びました。


子どもたちは楽しそうにはしゃぎ、大人たちも子どもの頃を懐かしんで笑顔で花火を見つめていました。


一般の方々も私たち紺野流の娯楽を見て花火をやりたくなったのでしょうか、買い出しに行って花火を買い知らない人同士で私たちと同じようなことをしました。


最後は小さな打ち上げ花火で紺野流の今後の健闘を祈って打ち上げ、盛り上がった後に切なくも美しい線香花火で締めくくりました。


帰りのバスに乗ると皆さんお疲れなのでしょうか眠りにつき、紺野流日舞の道場まで送られます。


私もうとうとしていると最年長のシゲさんと友人のハンスさんが声をかけました。


「るりちゃん、アイドルの調子はどうかね?」


「はい。あれから絶好調でございます。ホロビノミコを倒して以降、京都府知事や京都市長、総理大臣などから表彰されてはテレビやラジオなどで大忙しでございます。」


「大学の生活にはもう慣れたかい?」


「はい。最初は慣れないセーラー服で戸惑いましたが、いざ来てみると袴制服とは違った日本らしさがあって着心地がよかったでございます。」


「それならよかった。ワシが若い頃から平安館は変わらず伝統を守っているようだね。それよりハンスくんが気になる事を言っていてね。ほれ、君から言いなさい。」


「はい。るりさんはすっかり大学生であと1年で成人になられるのですが…アイドルを引退した後はどうするか考えた事はありますか?」


「それは…」


「アイドルは男性では長いのですが、女性アイドルの寿命はとても短いと聞きました。西暦の頃から今でも続くアイドルの宿命というべきなのでしょうか…るりさんももう女子大生であるわけでして、アイドルを卒業したら月光花はどうなるのかなって…。」


「やはりいずれは訪れるのでございますね。わかりました、今の私の答えを言うでございます。今のところアイドルの引退は考えていませんが、引退後は紺野流の家元の子としての自覚と責任を持ち、紺野流日舞家元の跡を継ぐことになるでございます。ただアイドル以外の芸能界の道があるのでございましたら二刀流を貫き、更なる日舞の開拓を進めていきたいと思います。日舞は長い歴史を誇る伝統的日本文化でございます。だからこそ新たに道を切り開き、日々進化を遂げて私なりの日舞を極めていこうと思うのでございます。私がアイドル引退すれば…月光花は痛い打撃を受けますが、解散したとしてもまた皆さんと集まる機会があると信じているのでございます。別れは何も悲しみだけではございません、未来へ進むためのチャンスだと思います。」


「なるほど…じゃあ僕たちファンも不安になる事はないんですね。気持ちがスッキリしました。新たな道を進んでもるりさんを応援し続けます。そして紺野流の会員としてあなたを支えますよ。」


「おいおい、それじゃあプロポーズみたいじゃないか。」


「えっ…そんなんじゃないですよシゲさん!僕には彼女ともう婚約してますから!」


「ほう、日本人の彼女さんとかい。やっぱり青春だねぇ。」


「うふふ、あんまりからかったらダメでございますよ?」


「いやぁ、若いって羨ましいなぁ。お互いに頑張るんだぞ。」


「はい!」


こうして私にとってのリフレッシュをしたオフの一日を終え、翌日からは今まで通り仕事をこなします。


紺野流日舞の跡継ぎ候補としても責務を果たし、月光花は今後も進化を続けて参ります。


つづく!

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