第106話 ファーストリーグ
~藤野すみれside~
6月に入り私にとって嬉しい情報がドラゴさんやタイガさんによって伝えられた。
今まで戦ばかりでそれどころではなかったが、去年の最終シーズンで京都パープルサンバがファーストリーグに昇格したという。
疲れ果てて応援どころじゃないだろうと気を遣ってくれたらしく、私は彼らの優しさに立壁さんと一緒に観戦しないかと誘ったところ、すぐに行きたいと返事が来た。
当日になり私はレプリカユニフォームを着てみんなと合流し、パープルサンバスタジアムへ入場する。
「おお!これがサッカー場か!」
「前は抗争で気が付かなかったけど、改めてみるとデカいッスね!」
「お前たち…観戦を楽しむといい…。」
「アンタが立壁さんッスね。姐さんが応援しているチームの昇格の情報をありがとござっす!」
「お前たちも…サッカーの楽しさを知ってもらえて…嬉しい…。」
「俺なんてこの日のためにチャント覚えてきたぜ!」
「何だと!?実は俺もだ!」
「ふふっ。二人にいい情報を教えてもらえて嬉しいですよ。」
「いえいえ、姐さんに情報伝えるの遅くなって申し訳ないッス!」
「そうだね…じゃあお詫びとしてしっかり応援してくださいね。」
「うっす!」
「さぁお待たせしました!選手入場です!」
李孝則選手を先頭にパープルサンバの選手が入場し、スタジアムは大盛り上がりを見せた。
相手はイテマエ大阪で、中村康晃選手を筆頭にする攻撃が特徴なチームだ。
とくに最近は成績不振で喘いでいたが大型補強をして今年は気合いが入っている。
いつもは青と黒のストライプだけど、今回は白ユニフォームで挑んでくる。
キックオフの時間になり、最初は白ユニフォームのイテマエ大阪の攻撃だ。
「さぁキックオフです。イテマエ大阪はまずは様子を伺いますね。」
「そうですねぇ。あまり無理矢理攻撃してもカウンターを取られますからねぇ。パープルサンバのカウンターはファーストリーグのチームで一番恐ろしいですからね。」
「あの昨年に最速リーグ優勝を果たした川崎フロンティアでさえ嫌がってましたからねぇ。」
「オー!パープルサンバー!紫の戦士たちよー!」
「やっぱり押されてきましたね…。」
「このまま勝てるんスか…?」
「ボール支配率だけがサッカーで勝つ方法じゃないよ。シュートの数が多くてもボール支配率が高くても勝てない時は勝てない。だからいかに相手のディフェンスを崩壊させ、オフェンスにチャンスを与えないかが勝利のカギなんだ。」
「そうだ…。今は相手のペースでも…いずれ崩壊する時が来る…。我だって最初はお前たちと同じだった…。長く見るほど…奥深さを知った…。」
「じゃあまだ焦る時じゃあないと…?」
「うむ…。」
「けどやっぱ緊張するなぁ~!」
「ほらそこ!もっと声出して応援する!」
「うす!すんません!」
「すまぬ…。」
「ははは…私も注意されちゃったね。」
今まではザイマ一族やホロビノミコとの戦いから解放され、じっくりサッカー観戦を堪能する事がなかったけれど、こうして平和に過ごして好きな事が出来るのは当たり前なようで実はそうじゃない事を実感した。
当たり前の事が出来る事がいかに難しく、そして恵まれているかを思い知った私は精一杯チームの応援に励んだ。
ドラゴさんもタイガさんも太鼓を鳴らしたり立壁さんもフラッグを振ったりと応援に気合いが入っていた。
ところがその応援もむなしくパープルサンバの様子がおかしくなり、ついにディフェンスが崩れてしまった。
「ああっ…!」
「決まったー!イテマエ大阪の中村選手がロングシュートでゴールだー!」
「やっぱあいつ強い…!」
「カウンターを警戒されたが故に逆に利用されたな…。」
「前半も残り2分…後半までに流れをこっちに引き寄せられるかな…?」
「うーむ…。」
「おい、あいつら確か神龍暴走族の龍ヶ崎ドラゴと白虎爆走隊の虎ノ門タイガだろ…?」
「京都一のワルが何でサッカー観戦を…?」
「あの強面のオッサンが舎弟にしているんじゃね?」
「何だあいつら…!俺たちが更生したの不満かよ…!」
「ムカつく…今すぐにぶん殴りてぇ…!俺たちならともかく立壁さんにまで…!」
「落ち着け…我はこういうの慣れている…。」
「けどよぉ…」
「みんな!ハーフタイムだからこそあえてここで言う!変装しててすまなかった、私は藤野すみれだ!」
「ええっ!?あのイケメンはすみれちゃんだったの!?」
「月光花の藤野すみれはパープルサンバのファンだと言ってたけどマジだったのか!」
「じゃあなんであんな強面と京都一のワルと一緒に…?」
「確かにタイガさんとドラゴさんは過去にたくさん破壊しては人を傷つけてきた。その過去はもう消せはしないさ。だがザイマ一族にそういったものを利用されて獄魔になってしまった。そんな時に妖魔使いである私が彼らの生い立ちを知り、そして受け入れたことで彼らは愛を覚え、そして更生していった。彼らだって好きで不良になったわけではなく、ただ認めてほしかったんだ。だからこそ私は受け入れる事が出来た。そして私が好きなパープルサンバの魅力を教え、ついに一緒に応援に行くことが叶ったんだ。そこで彼らだけでなく、古い付き合いでサッカーの魅力を教えてくれたこの立壁さんの協力で応援を手伝ってもらっている。もし彼らを非難するくらいなら私を非難してほしい。だがもし彼らの熱意をゴミのように扱ったなら…私はアイドルをやめると宣言しよう。」
「姐さん…。」
「俺たちのためにそこまで…。」
「その通りだ…。過去は消せなくても未来は創る事は出来る…。我は確かに顔は怖いが…彼らもまた愛を覚える事が出来た…。お前たちもパープルサンバサポーターの誇りがあるなら…彼らに負けない熱い応援をするがいい…。彼らはまだサポーター歴は浅いが…熱意なら我のようなベテランにも負けない…。すみれ…お前は小さい時から真っ直ぐな子だった…。今となってはより真っ直ぐで包容力のある子になった…。姪っ子や娘を持ったような気持ちだ…。彼女をこれ以上…困らせないでほしい…。」
「そうだ…俺たち京都人は月光花に助けられ、彼らも助けられたんだ…!」
「私たちってまだまだ人間として甘かったわ…!」
「ドラゴくん、タイガくん…今まで不良だからって偏見してすまなかった…!これからは我々と肩を組んで応援しよう!」
「押忍!」
「もちろんッス!」
「よかった…。みんなも彼らを受け入れてくれたんだね…。」
「すみれ…お前のやったこと…無駄にはしない…。」
「さぁ、ここには人間も妖怪も関係ない!全力で逆転を信じて応援しよう!」
「おー!」
「どうやらすみれちゃん、京都一のワルをも引き込んでくれたみたいだね。」
「だね。俺たち選手がここで弱気になったら、せっかく罪魔の力から守ってくれたすみれちゃんに申し訳がないな。」
「よしみんな!ここから逆転するぞ!」
「おー!」
ドラゴさんとタイガさんを受け入れたサポーターたちはより一層声を大きくし、選手たちもそれに感化されてプレーにキレが増した。
円陣を組んでからフィールドに立った後半、最初はそのままの流れでイテマエ大阪のペースだったけれど、李選手が相手の弱点を突き、中村選手を思い通りにさせないように封じた。
後半終了間際ついにエースストライカーのレアンドロ・ライアン選手のゴールが決まる。
後半のアディショナルタイムに入り、両選手たちは点が欲しいと焦りを魅せていた。
そんな中でパープルサンバの李選手だけこういう時だからこそ落ち着いていた。
するとここで勝負のときが来た…レアンドロ・ライアン選手がイテマエ大阪の中村選手にファウルされ、PKのチャンスが回った。
そこで李選手が選ばれ、みんな祈るように見守った。
そしてついに…
「決まったー!ここで試合終了のホイッスルだー!パープルサンバ本拠地で今のところ全勝だ!」
「やったー!」
「ばんざーい!ばんざーい!」
「すみれちゃんが来ると必ず勝つね!」
「ドラゴくんもタイガくんもありがとう!」
「俺たちも嬉しいッス!」
「勝ったな。」
「ああ。今回の試合もまた藤野さんに助けられたね。」
「ほら孝則、サポーターのところに礼をしようぜ。」
「うん。彼女だけじゃなくみんなにお礼を言わないとね。さぁ行くぞ!応援ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
こうしてリフレッシュの時間は終わり、明日から私はアイドルの仕事をしなくてはならない。
ワールドアイドルオリンピックが控えている中で私たち月光花は世界に京都にはこんなアイドルもいるんだとアピールしなければならない。
プレッシャーを乗り越えていいパフォーマンスをするからこそ一流のアイドルといえる。
私たちはそれに備えて今後も仕事に励む。
ちなみにこれは未来の話だが、京都パープルサンバは今シーズンの優勝は逃したもののベスト4に入り、優勝は川崎フロンティアになった。
つづく!