第100話 負けたくない
ホロビノミコの刀に直撃したもみじちゃんはそのまま倒れ込み、私たちはあまりの力の差に恐怖を感じた。
それでもすみれちゃんは怯まずにもみじちゃんをこちらへ運び、仰向けにして怒りを押さえつつホロビノミコを睨みつけた。
さすがのひまわりちゃんも青ざめ、ヒメギクちゃんは金砕棒を強く握りしめつつも震えていた。
ホロビノミコは冷めつつも余裕の表情で私たちに切っ先を向けてこう言った。
「真っ先に私に立ち向かった事は褒めて差し上げましょう。ですが…妖魔の力を持ってしてもなお、私の罪魔の力の方が大きかったようですね。弱いはずなのに罪を認めず私に勝とうだなんて…相変わらず人間は愚かな生き物です。あなた方は何故そこまでして罪を背負おうというのでしょうか。その罪は私にとってはエネルギーになるのに…。そしてそのエネルギーが罪魔の力となった時、私が自らの手で人間を制裁し、本当の極楽浄土を生み出すのです。」
「君にとっての極楽浄土は…一体どんな世界なんだい?」
「簡単な事です。一切罪のない動物や自然のためだけの世界を創り、もう二度と罪を背負わない人間を生み出さぬよう罪魔の力で進化を封じ込めるのです。もっとも罪魔の力がなくなれば私も消滅するのですが、人間がいるよりも遥かにいい地上界になると思いませんか?そして消滅した私は地獄界を束ね、人間が二度と転生しないように永遠の苦しみと罪の裁きを下すのです。」
「なるほど…返答に感謝する。ならば尚更貴様の好き放題にさせるわけにはいかないな!」
「もみじちゃん…ここで休んでてね…。ホロビノミコ…私は人妖神社の巫女として、あなたを許さない!あなたが人間を裁くというのなら…私たちがあなたをその使命から解放し、浄化してあげる!」
「そうですか…やはり妖魔使いとは気が合わないようですね。とても残念です…ならばここで生きるよりも苦しい罪を背負い、ここで断罪してあげましょう。」
「借りるわ…もみじの刀を…。」
「私も借りるね…。」
「ホロビノミコの懐に入ればあの妖刀で一刀両断されると思う。もみじは幸い妖魔の力でギリギリ切り傷程度で済ませたけど、私たちみたいに護身術をまともにやってないと本当に斬られるかも。」
「ひまわりさんの作戦と考察はよく当たるでございますからね…。集中して警戒しなければ…。」
「それなら遠距離の私とはなで何とかするわ。恐らく懐に入らずに中距離で私の弾丸を撃ち込めばきっと勝算はあるわ。」
「それならはなは矢で牽制だね。近距離のすみれは今回はサポートをお願い。私とつばきはリーチがあるから物理で援護しよう。」
「わかった。」
「るりは扇という変則武器だから風起こしだけでなく舞踊で私たちの補助をお願い。」
「承知しましたでございます。」
「待ってください…。私もまだ…戦えます…。」
「もみじ!無茶はするな!」
「大丈夫です…。これでも紅葉流忍術は…戦国時代から続く負けず嫌いの家系なのですよ…。こんなところで負けていては…紅葉流にとって最大の汚点です…。それに…私は皆さんと出会わなければ…たった一人で無理をして空回りしていたことでしょう…。」
「もみじ…。あなたの意志はわかったよ。私もあなたと同じクラスで過ごし、そして切磋琢磨してきた。学業も部活も…アイドルも妖魔使いもずっと頑張ってきたよね。るり、回復術は使える?」
「はい。お任せください。湧水のせせらぎ…。」
「ああ…傷が塞がっていく…。」
「うん。脈も呼吸も安定してきたぞ。」
「よかった…。」
「皆さん、ご迷惑をおかけしました。ここからは月光花のターンです。さぁホロビノミコ!人間の底力をあなたに見せましょう!」
「いいでしょう…あなたが生きれば生きるほど罪は重なるのです。先程は腕試しでしたが、今度は本気で裁きを下しましょう。」
「作戦は聞いていたね!もみじ!」
「はい!私は先程の反省を活かし、援護に回ります!紅葉流忍法…木の葉のつむじ風!」
「ええっ!?もみじちゃんって忍法使いだったの!?」
「いいえ…あれは妖魔の力で作られた魔術でございます!もみじさんは私たちに秘密で妖魔の力の修行をしていたのでございます!」
「それなら私もだよ!」
「ヒメギクもなのね!」
「ちょっと皆さんにも付き合ってもらいますが…今からこの金砕棒で地面を殴ります。いざ!大地の唸り!」
「くっ…!」
ホロビノミコはもみじちゃんの放ったつむじ風とヒメギクちゃんの地響きでバランスを崩し、すみれちゃんとつばき先輩、そしてひまわりちゃんが特攻を仕掛けた。
「槍は突くものではなく叩くものだ!螺旋焔!」
「これで貴様も終わりだ!氷山の吹雪!」
「ここで一気に決めてみんなと共に還るんだ!台風の目!」
「ううっ…!」
ひまわりちゃんは螺旋を描きながら穂先を発火させて上から叩き、つばき先輩は背中から猛吹雪を発して薙刀で斬り、すみれちゃんは杖をクルクル回して台風を生み出してホロビノミコへ放った。
そして私は矢を三本持って構え、ホロビノミコに矢を向けた。
同時にわかば先輩はメガネをクイっと調整していつでも発射する準備が出来るわという合図を送った。
「私だって…みんなの役に立つもん!桜木の接吻!」
「うぐっ…!」
「今だよ!わかば先輩!」
「お待たせ!この火縄銃で…一気に決着をつけるわ!山彦共鳴弾!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「はぁ…はぁ…!」
私の放った3本の矢は桜の花びらをバックに加速して一点集中で刺さり、最後のわかば先輩の放った弾丸はたった一発なのに山彦のように何度もこだまして弾が幾多に分裂した。
しかしその分裂した弾はホロビノミコには見えていなくて、たった一個の弾丸に見えるという幻で錯覚を起こしている。
ホロビノミコは一発目を刀で弾こうとしている間に見えなかった弾丸で貫通して倒れ込み、その最後の一発も胸元に被弾した。
そしてボロボロの状態で刀で体を杖のように支え、震えながら立ち上がった。
「なるほど…。合戦のやり方とは程遠いですが…あなた方をなめていた私の失敗のようですね…。私の完敗です…今のこの姿としてはね…。」
「今のこの姿…!?」
「やはりアクドーと同じ真の姿があるようでございますね…!」
「やっぱり一筋縄ではいかないかぁ…。」
「お察しの通り…この私の今の姿は…仮の様子見の姿です…。この刀は…っ!?そうですか…私が作りだしたこの妖刀・神切でさえ耐えることが出来ないほどの妖魔の力…。ならば本当の姿で裁きを下す必要がありますね…!」
「マズい…みんな!早く城から出よう!」
「う、うん!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ホロビノミコは全ての力を使い果たすように叫び出し、城が一気に崩れそうになった。
体力が回復したサクラオーたちは出口まで迎えに来てくれて、予定よりも早く城の外へ出ることが出来た。
すると大坂城サイズまで巨大化したホロビノミコは喉元から刀を取り出し、その姿は美しい巫女から黒い甲冑姿で悪魔の翼と鬼のツノ、さらには瞳は血の池のように赤く、近づくと地獄の寒暖の差を感じられた。
真の姿となったホロビノミコは口調も変わらなかったけれど低くて荘厳な声で私たちを威圧した。
「この姿になるのはあまり好きではありませんが…私と台頭するほどの妖魔の力を感じた以上、人間を裁き滅ぼすためにやむを得ませんでした…。私をここまで追い込んだことは褒めて差し上げましょう…。ですが…この姿にしたことをあなた方は後悔するのです…。今更懺悔をしてももう遅いのですよ…。ここで私によって裁かれ…人間と共に死と永遠の断罪を味わうといい…!」
つづく!