第三話・ギルド
ギルドは町の中心部からやや離れた場所にある。
そもそも冒険者とはこの世界にとってだいたい変わり者扱いである。理由は明白、職業ならこの王都に来れば困ることはまずないからだ。お金が欲しいなら商売をしている店に雇ってもらえばいいだけの話だし、モンスターを狩りたいなら衛兵にでも志願すればいい。事実、あの勇者姫とお近づきになるために若者たちがこぞって志願するのも珍しくない。
冒険者をなりわいとして生きる者はそこまで多くない。トウマが衛兵にならないのは自身の圧倒的攻撃力の低さでそもそも門前払いされる可能性のほうが高いからである。
トウマはどう見ても酒場と思わしき建物を仰ぎ見る。看板に「ギルド」となければ誰もが勘違いするだろう。
シズと顔を見合わせ、ふたりは肯き合う。
「――色々あったけど、ここからが俺たちの第一歩だ」
扉を開ける。
屈強な男たちが裸で踊っていた。
扉を閉める。
トウマは彼女の目を見て「なんだ今の」とアイコンタクトだけで会話した。シズは「見間違いだと思う」と目線だけで返した。
扉を開ける。
「俺たちの――」
ハゲた全裸の男と目が合う。閉める。
開ける。
「最強への第一歩――」
腕を組んだ全裸の男集団が手を振っていた。
「テメェらふざけてんじゃねぇよ! いい歳した大人が酒に溺れて裸で踊ってんじゃねぇ!」
トウマは思わず怒鳴った。
「まあまあ少年少女、言いたい気持ちもわかる。が、落ち着け」
「だから服を着ろっつってんだろ!」
男たちはやれやれとため息を吐きながら靴下を履きだす。
「パンツ穿けよ! なんでまず靴下を履くんだよ! 女の子だけなんだよそれで許されるのはなぁ!」
「トウマ……?」
隣からやや冷たい視線を感じる。
ハゲた男がトウマの肩をがっしりとつかむ。
「おまえ……話がわかるみたいだな。おーいみんな! この少年に酒を! なに、ここは俺の奢りだ」
トウマはシズに伝える。
「シズ、外で少し待ってろ。この俺がちょっとダメな大人たちに一発説教かましてやっから」
シズは素直に肯き、外に出た。
三十分後、訝しんだシズは彼を心配してギルドの中へ入った。もしや男たちから反感を買って酷い目にあっているかもしれない。
彼はすぐ見つかった。
「うぇーーーーい! エントリーナンバー1番! トウマ様が二十杯目に挑戦しまーす!」
全裸の少年が椅子の上に立って高らかに宣言していた。
周りの連中も彼を囃し立てるように盛り上がっている。
シズは周りを見渡し、未開封の瓶を見つけてそれを手に取る。人差し指を立て、瓶の先端部分を横薙ぎに払って斬り落とした。
しんと周りが静まり返る。
我に返ったのか、トウマが顔面蒼白になって冷や汗を流し始める。
「ねぇトウマ、」
「はい」
「まだお酒飲みたい?」
「いえ、結構です……」
「そっ。せっかくお酒開けたけど、要らないんだ」
その後、シズが許すまでひたすらトウマは平謝りをした。