朝食と打診と
「すみません、いきなり転がり込んで丸一日も眠ってしまって」
「いいのよ。それよりあなた大丈夫なの? ここに来たときは本当に可哀想な感じだったのよ? ねえ、アル?」
「ああ……」
寝室を出るとちょうど朝食の時間で、しかも紗月の分の用意もされていたため、遠慮する隙もなく食卓につかされた。イドラという村長の母は快活で優しい人だった。一方で村長のアルバートは気難しい顔で紗月を見据えていて、隙がなかった。
「まったくこの子ったら、それが若い女の子に見せる顔かしら? だからいまだに男やもめなのよ?」
「二度も結婚する気はないと再三言っている」
「まあ、なんて親不孝ものかしら。あなたがそんなんじゃ村長は誰が継ぐの?」
「最近はカミュを考えている」
「ああ、あの子もいい子よね。そういえば四人目の子が……」
長い話になった。紗月は社交性のない性格ではないから適当に付き合った。
するとそのうち、話は紗月自身に向いた。
「サツキちゃんも良い子ね。ねえ、これからどうするの? しばらくはうちにいる?」
「……はい。ご迷惑かとは思いますが、しばらくこの村に置いていただけないでしょうか?」
その瞬間、厳しかったアルバートの視線がより一層険しくなったことを紗月は感じた。
「軍はどうするんだ?」
「戻りません」
「脱走兵は軍法で重罪だ。匿ったものも処罰を受ける」
「アルバート……」
「軍に捕まるつもりはありませんし、見つかるつもりもありません。……私にはこれがありますから」
言いながら、寝室に置いてきた村雨を手元に呼び寄せた。
「魔術か」
アルバートには魔術を使って刀を突然呼び寄せたように見えたのだろう。紗月にも仕組みはわからないが、呼べば来る、という感覚がある。
「まあ、その類です。でも私の力は魔術ではなく、これそのものです」
「そんな細身の剣は見たことがないが、それでは薪も切れんだろう」
「切れないものはあまりないですよ。見てみますか?」