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閃光と柘榴と

「閃光」。それが彼の二つ名だった。


「……なぜ」


ガーネットは剣を構え、敵として現れた彼をにらみつけた。


「なぜ、私にその槍を向けるのですか! ホルン殿!」


騎士ホルン。称はローレル。槍と騎馬を誰よりも得意とする彼を騎士に任じたのはジョージだったかとガーネットは思い出した。


「別に大した理由じゃねえさ」


ホルンは槍を振り回しながら答える。今のホルンは馬から降りており、手に持つのはいつものランスではなく白銀に輝くパルチザンだった。それは王国に伝わる魔術武器の一つ、聖槍「ブリューナク」。王族が普段は管理し、近衛の騎士でもおいそれと使用できないものだった。


「おまえと戦いたかった。親分に戦えと言われた。こいつを使っていいと言われた。それだけさ」

「そんな……騎士の、戦士の誇りはどうしたのですか! あなたは何のために戦っていた!」

「そんなものは決まってるぜ」


ホルンは槍を突き出した。


「戦うためだ」


魔力で強化した盾で聖槍を弾き、ガーネットは斬りかかる。だが槍の一撃は重く、ガーネットの刃は相手に届きそうになかった。

周囲の建物を焼く炎の熱が、ガーネットの意識に燻る焦燥感と重なる。


「――イヤー!」

「お!?」


地面も砕けるほどの踏み込みでガーネットが飛び出す。ようやくホルンを彼女の間合いに捕らえる。だが、たった一合の打ち合いで再び逃げられ、閃光としか言いようのない速く鋭いいくつもの刺突がガーネットに襲い掛かった。


「あー、でもこんなものか」


重い槍で何度も恐ろしい速さで突きを放ったとは思えない、軽々しい様子で彼は言う。


「やっぱりこの武器は反則だよなあ。お前さんのエクセキューショナーソードがあれば面白かったんだが、今日も壊れたままみたいだったし、勝負になってねえ」

「……っ」


それは耐え難い侮辱であり、抗し難い現実だった。はじめて紗月と刃を交えたときと同じような無力感をガーネットは覚えた。たとえ死力を振り絞った一撃を放とうと、彼を切り伏せるには及ばず、紗月と違ってホルンはガーネットを殺すだろう。

それでも。――ガーネットは魔力を練り上げはじめた。


「いいぜその覚悟。やろうぜ。最高の戦いにしようぜ!」


ホルンを無力化する。ガーネットはそのことに意識を傾けた。今すべきは彼に一矢報いることではない。イキシアの生存確率を少しでもあげることだ。それがガーネットの正義。理想の騎士の先輩、頼れる部下だと思っていた、目の前の敵の戦闘能力を破壊する、それがガーネットの正義の刃と決めた。



ちりん、とその時、鈴の音が聴こえた。



「――さつきあめ」



混乱と敵意が混ざり合い淀んだ戦場において、鮮やかなほどに清らかな白衣と緋袴の少女がホルンの斜め後ろから現れた。

刀の鞘の鯉口に結わえ付けられている鈴が振られると、微かなはずの音色は不思議なほぼ響き渡りその場にいるすべてのものの注目を彼女に集めた。



「かむざよりあふれしひかり、あめ、これこそかんだからととおとみうやまい、はらいたまえきよめたまえと、かしこみかしこみももうす」



注目の中で刀を祭具のように片手で掲げ、もう片方の手で鞘を持ち上げる。



「ひと」鞘についた鈴を鳴らす。「ふた」鳴らす。「み」ちりん。「よ」ちりん。

「いつ」ちりん。「むつ」ちりん。「なな」ちりん。「やつ」ちりん。「ここの」ちりん。

「たりや」



最後に刀を納め、その勢いで鈴を鳴らした。その時、戦場にいた騎士という騎士、兵士という兵士、魔術師という魔術師のすべての魔力が霧散して消えた。

雨が降り始めた。癒すように。清めるように。

炎の暴力もまた、彼女の手によって鎮められた。



「――紗月」


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