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炎と雨と

王都は燃えていた。


「殿下をお守りせよー!」

「売国の王女を捕らえよー!」


事態は国軍の一部を動員した明らかなクーデターへと発展していた。イキシアは帝国から金をもらい不利な休戦条約を結んだということになっているらしい。実際には国境線を引き直す以外は特に取引もない状態であるのだが。そうしてイキシアを捕らえると息巻く者たちには近衛魔術団も多数加わっていた。王城に勤める近衛魔術団は伯爵家や侯爵家も多く、日ごろからイキシアやウィリアムに不満を持っていた者たちであることが推測された。対するイキシア側はガーネットと麾下の騎士たちのみ。騎士は戦略魔術は使わないが魔術攻撃に弱いというわけでもなく、形勢は保っていた。だが敵性勢力を押し返す見込みもなく、魔術による火災の中で泥沼のような戦闘を続けるしかなかった。


『そろそろ引き際ではないかな、イキシア』


ただ祈るように戦いを見守っていたイキシアが持つ通信器が、ふいにその声を届けた。幾度呼びかけても応じなかったジョージがここに来て一方的に繋げてきたのだ。


「叔父様! ああよかった。そちらは、城はどうなっているのですか?」

『ウィリアムを捕まえようとしていたのだけれど、ついさっきバルコニーから身を投げて自害したよ』

「……え?」


息子のことだというのに、酷薄に彼は言った。

イキシアは自分が聞いたことが信じられなかった。


「叔父様? あの、なんて、仰いました?」

『ウィリアムが死んだよ』

「う……嘘、ですわ。そんな、どうして」

『どうして、とはウィリアムが飛び降りた理由かね? 彼は自分の進退を悟ったのではないのかな。往生際悪く何人も騎士を殺してくれたが、最後の最後では潔かった』

「……」

『そして、我が姪はどうかね、イキシア。まだそこでお気に入りの騎士を戦わせるかね。都を燃やし続けるかね』

「…………」

『おや、声もないかね』


イキシアの「どうして」は、ジョージがなぜウィリアムを追いつめたのか、ということだった。

だが聞かずともイキシアは理解していた。王の弟は兄の王位を認めるふりをして、ずっと玉座を狙い続けてきたのだ。もしかするとウィリアムが王になるのならそれでよしとしたのかもしれないが、イキシアが第一王位継承者として確固たる功績を作り始めたことに反応し、イキシアを落とし、ウィリアムもイキシアに追従するなら斬り捨て、自らか別の継承者に王位を齎すことにしたのではないか。


「……ありえませんわ」

『ん? なんだい?』

「私がここで引くなど、ありえませんわ! 私はこの争いを止めると決めたのです! たとえ城下を、いえ、この身を火に焼べられ脅されようと、私は私の剣に誓って屈することなどありません!」


イキシアは通信器を投げ捨て馬車の外に出た。

熱風が彼女の髪を攫う。

自分の騎士と騎士たちはこの中で戦っているのかと、空を仰いだとき、雨粒が彼女の額を叩いた。



風が声なき歌を歌い始める。

叢雲がさやさやと光を奏でる。

雨。光の雨。清廉なる白き水が、地の緑を目覚めさせるために降りたつ。


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