王子とウィリアムと
残り数名というところまで敵を減らしたが、味方も全員倒れ、これまでと悟ったウィリアムはバルコニーから身を擲った。
空を見上げ、落ちる。命を落とす。
地についた時、自分の肉体が決定的に破壊されるのがわかったがまだ死ねなかった。バルコニーは10メートルほどの高さだが、地面は芝生に覆われているのだからそんなものだろう。苦しみの中で笑いながら、ウィリアムは空を見続けることにした。虚栄を張りあう醜い争いが起きている日にしては、澄んだ青と白光に満ちた良い空だった。
「ああ……迎えに、来てくれたのかい」
そして死神も訪れた。黒い髪に紫紺の瞳の、いつか雨の中で自分に命運と向かい合わせた少女だった。
「もう、終わりですか?」
少女――レインは、ウィリアムの傍らに座り込んで問いかけた。
「ああ、私の出番は、これぐらいで良いだろう。彼女は、彼女たちは、私がいなくても十分に、やっていける。いや、はじめから、私など、いらなかったのだ。私は彼女たちが舞台に上がるまでの、場繋ぎでよかった……」
「そんなことは……そういうのは、よくないです」
どうやらあの雨の日の死神から、少女は少し変わったようだった。そういえば取調の調書を読んでいなかったなとウィリアムは思い出した。丁寧で、窘めるような口調に、ウィリアムは天使という言葉を思いついた。
「いやなに、卑下しているわけ、ではないさ。ただ、私は私の役を演じきりたいだけだよ。だから……ああ、でも、未練があるとするなら、彼女たちを愛し続けたかった。愛したかった、ただのウィリアムとして」
「……」
ウィリアムの言葉を聞いて、少女は少し考えるように黙ったあと、決然と立ち上がった。剣を抜き、かざした。白く輝く刃は、死の刃というにはそぐわない、神々しさを放っていた。
「つまり、王子さまはもう終わり、だね」
「……そうだね」
「最後に言っておくことはある?」
「愛していると、イキシアとガーネットの二人に、伝えてくれ」
「そう。……さようなら、王子さま」
刃が振り下ろされる。斬られる感覚はわずかで、王子の意識はそこで終了した。
<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<
「はあ、また荷物が増えた」
『主は慈悲深いのう』
「別に、誰も恨んでないよ。恨んでもしかたない。……でも、落とし前をつけてもらう人は別にいるかもね」
そう刀と話しながら、レインは新たに増えた荷物を背負って城の外へと走り出した。




