レインと出征と
レインの生まれた村は貧しかった。
元は豊かな恵みをもたらす大地を持つ村だったが、重税を課され酷使するうちに地は痩せた。
川は近く水もあったが、灌漑工事ができるほどの男手は徴兵され、保守することもできず荒れ果てた。
王国は長く他国との小競り合いを続けているようだった。武と富を競いあう貴族たちの下で、民の多くは貧しさに喘いでいる。レインの住む村のようなところも、レインのような娘も、ありふれていた。
だから、ということもないが、レインは絶望していなかった。世界がどんなに厳しかろうと、生きようと、彼女は希望を持っていた。そうして、彼女は自分にできることとして、軍に志願することにした。春を売るほどの器用はなかったし、身のこなしは同年代の子供たちに比べて抜きん出ていたことが理由だった。
心配しないで。みんな元気でね。仕送り待っててね。
そう言い残して出征し、赴いた戦場は、朴訥とした村娘の心を砕くには十分すぎた。レインは幾度となく泣き、叫び、嘔吐し、気絶するように眠っても悪夢に苛まれた。
それでも彼女は軍務に忠実で、何より死ぬことはなかった。目立つことはなくとも着実に戦果を出すレインは、密かに評価されていた。
そんなレインと彼女が所属する部隊に与えられた奇襲作戦。道無き山を進み、敵の背後を突くという作戦は……
(敵も馬鹿じゃない。その程度は警戒して、待っていたに決まってるよね)
その諦念を抱いたまま、爆撃により彼女の意識は途絶えた。