焦燥感と使命感と
「ああ、殿下がピンチダヨ!」
ダリアに言われ結界に穴を開けると、彼女は荷物の中から通信の魔導具のような黒っぽい平たい板を持ってなにか始めたのでしばらく待っていると、ふいにそんなことを叫び出した。
「イキシア様が!?」
「いや、ウィリアム様の方ダヨ!」
「ウィリアム様が? 城の中でってこと? イキシア様は?」
「ええっと、どうしよう……まあいいや、イキシア様だから街の方だよネ……」
テシテシとダリアが板を突いている。何かと思って覗くと、板が窓のようにどこかの光景を映し、しかも指でなぞるとなぞった方向に景色が動いていた。
「なんですかそれは?」
「ボクが作った新しい魔導具ネ。景色を見る魔導具とセットで、魔術で通信して、遠くの光景を見たり、見る方向を変えたりできるんダヨ」
「!? それって物凄く画期的では……」
「通信器自体は他の国では普及し始めてるヨ。この国が遅れているんだヨ」
話ながら流されていた光景が、街、今日式典が行われているはずの方向を映した。しかし見えたのは、混乱して激しく蠢く群衆と、散発的な爆発と煙だった。
「まさか……暴動!?」
「望遠鏡機能はついてないから拡大できなくてよくわからないネ。音も拾えないし」
ミルテは推測する。暴動の可能性を。聖堂に入ってきた正体不明の者たち。ウィリアムの危機。
「どうしよう……!」
「落ち着いてヨ。下手に外に出ても捕まるだけダヨ」
だがミルテは落ち着かず部屋を歩き回り始めた。不思議なほどの焦燥感を覚えていた。そして、床に転がったムラサメの柄、むき出しの茎に記された銘を見たとき、電撃的に一つの考えが芽生えた。
「皐月様なら……!」
「え?」
「サツキ……レインさんのところに行かなくちゃ」
「ま、待ってヨ! レインって例の人斬りだよネ!? その人がどうしてくれるの!?」
「……」
ミルテは考えた。だがわからなかった。だがそれでもそうしないといけないと自分の中に眠る何かが強く叫び、ミルテはそれに抗えなかった。
「……死ぬヨ?」
ダリアはかつて見たことのない深刻な表情でそう告げた。
「死んじゃうヨ?」
「……大丈夫です。聖堂の中なら侵入者を直ちに無力化できますし、外に出れば……裏口から出て目を盗みながらなら……」
目を盗んで進むなど荒唐無稽だったが、ミルテに芽生えた使命感がそれを肯定していた。
そんな彼女に、ダリアは呆れたように息を吐いて鞄の中からさらに別の何か、白いこぶし大の球体を出してきた。
「これ、皇国とかで偶に使われる閃光弾の改良版ネ。何かに投げつければ当たってしばらくして強い光と音が出るから、投げたら目をつむって後ろを向いて、耳を塞いでネ」
「……ありがとうございます」
「死んだら嫌だからネ! 絶対……帰ってきて」
閃光弾の受け渡しと一緒に手を握られる。希う視線に、ミルテは頷く。だが、彼女の思考の中で彼女自身の生き死には、最早なんの重みも持っていなかった。




