暗躍と対峙と
(俺があいつらの口車に乗ったからだ)
逃げ惑う人たちの怒号と足音の中で、マリオはそう思った。可能性としてではなく、確信的に彼はそう思った。
ニムが殺され、サツキが帰ってこなくなったとき、マリオたちも一時は捕らえられたが簡単な取り調べの後すぐに釈放された。釈放は僥倖のように思ったが、サツキのことを聞いても取り合ってもらえず、そのまま引っ込むことのできなくなったマリオはしつこく城を訪ね続けた。
その大人たちは数度目の門前払いの時に現れた。ある下級貴族の召使だと名乗った彼らは、遠からぬうちに休戦を祝ってパレードがあり、そのときにサツキ逮捕に近い第一王位継承者イキシアに請願する機会があると提案してきた。
なぜマリオたちにそれをさせるのか。大人たちはマリオの健気な姿に感銘を打たれたからと言ったが、マリオはそれを信用しなかった。だが、少しパレードの邪魔をするぐらいなら特に問題もないかと思った。人込みという危険はあるが、自分一人なら何とかなると思った。
だが前日になって、大人たちがいつの間にか孤児院の子供複数人に接触していたことを知った。子供たちもばらばらにサツキを訪ねて城に行ったりしていたらしく、それで目をつけられたのだ。マリオは幼い子らが人込みに不用意に入ればどんなに危険かと反対したが、我々が守るからと押し切られた。話を聞いたアーシェが、私も手伝うからというので、ついマリオも納得してしまった。
だが、そうして流された結果がこれだった。マリオたちをサポートすると言った者たちが、いつの間にかサツキを批判し、騒ぎを大きくしようとした。それに驚いているうちに、路地で爆発音が鳴り、煙が発生して群衆はパニック状態になった。
騎士たちがマリオたちを守ってくれていた。まだ誰も怪我はしていない。しかし騎士たちの顔に焦りがあり、混乱は収まる気配がなく、子供たちの誰かが怪我をするのも時間の問題に思えた。
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そのころウィリアムは、城のバルコニーから街のパレードと、それが混乱と暴動に変わっていく様子を見ていた。
「計画は順調ですか? 父上」
聞こえた足音に、ウィリアムは振り替える前からそう呼び掛けていた。
「ああ、順調だとも。怖いくらいにね」
ウィリアムが父と呼んだとおり、そこにはジョージがいた。
「だが父上といえど、彼女たちをあそこで弑逆するほどのことはできないはずですよね? 彼女たちがあれを切り抜ければ、むしろ父上の影にいい加減気づくはずだ。何が目的ですか?」
「王族といえど世論には抗えない。ウィリアム、王になる気は戻らないか?」
「はあ、それだけですか」
呆れ、嘲るような息子の様子にジョージの顔がわずかに歪むのを、ウィリアムは見逃さなかった。
「それこそ、そのようなことは民が決めることです。私は私が先頭に立たずとも彼女たちがこの国を引っ張っていけると思った。だからこうして見える景色も、父上と私ではまるで違う。……無駄、ですよ」
「そうか。残念だ」
おそらくウィリアムがどう答えるか予測していたのだろう父は、特に残念がる様子もなく踵を返してさっていく。入れ替わりに数名の騎士たちが抜剣した状態でやってきた。
「何人寝返ったんだい?」
ウィリアムは平静な様子で彼らに問いかけた。
「寝返ったのではありません……寝返ったのは殿下の方でしょう。敵と内通し、イキシア殿下を誑かした容疑が出ています。大人しく我々と共に来てください」
「行かなければ……斬るかね?」
すでに刃を晒している彼らに緊張が走る。殺気も放たれるが、ウィリアムが愛する騎士のそれに比べれば果物ナイフにも劣る稚拙さであった。
「笑止千万。私が引導を渡してあげよう……やれ!」
「イヤー!」「イヤー!」
「アバー!」「アバー!」
バルコニーの隅に控えていたウィリアムの護衛の騎士たちが、ウィリアムに刃向かった騎士たちに斬りかかった。初手はウィリアム側が制した。だが、残りの反逆の騎士たちが剣を振りかざし、さらに廊下の方から応援の剣士たちが入ってきた。
「やれやれ。病み上がりの身でもやらないとだめそうだな」
ウィリアム自身も剣を抜き、反逆者たちへと刃を向けた。




