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消失と諦めと

意識は冷たい牢の中に戻っていた。


(また、レインに戻った)


それは二度目の感覚。

一度目はここではじめて目覚めた時。

紗月は――レインになっていた。戻ったというべきか。

前世である紗月の記憶が失われたわけではなかったが、あの夜の山中で炎を前に蘇った紗月の意志と呼ぶべきものは、今のレインにはなかった。

村雨を持っていた彼女が紗月と名乗っていたように、村雨が折れ失われたことで、紗月としてのアイデンティティも失われた、そのようにレインは思っていた。

而して、レインに残されたのは紗月として為した罪と咎であった。

牢に入れられ、幸いなるものとは隔てられてしまった。だが、その記憶はある。貧しい農民として生まれ、出征して、惨めに死ぬだけだった人生に望外の思い出ができた。レインはそれで満足し、紗月として犯した過ちを悔いる気はなかった。そして。


(私は、ここで死ぬ)


取り調べには素直に応じ、すでにその段階は終えているだろう。しかし裁判は始まらないし、処刑も行われない。姫様が来た日を境に、魔術師が日々現れては話す日々。それは……苦痛と、悲しみをだらだらと与える辛い日々だった。


(あの人は、あの人たちは、似ている)


今の夢に見た仁夜という女性。首を刎ねられて死んだニムと、魔術師のミルテ。

彼女たちは似ている。

自分が転生している以上、ニムかミルテが仁夜の転生であっても不思議ではない。確率的には不思議だが。ニムは孤児だと言っていたが、もしかしたらミルテの姉妹かもしれない。二人の関係を聞いてみたい気持ちはあったが、それは亡くしてしまったニムの存在を思い出すことにつながる。今のレインに、失ったものと向き合う勇気はなかった。

こうして考えている間にも、涙が流れ始める。

ニムは紗月としての友人だ。だからレインには直接関係ない。悲しいのは紗月だ。だが、レインの中に残る紗月の残滓のようなものが、その悲しみを叫ぶ。紗月であればその心を鎮めることができたのかもしれないが、レインには無理だった。彼女は、悲しみに対して泣くことしかできない無力な少女だった。


だから、早く終わらせたかった。

しかし、終わりはまだ訪れなかった。


レインにできることは、心を殺しじっと耐え続けることだけだった。

そうして終わらせたところで、次の生でも同じように苦しむのだろうか?

皐月は非業の死を迎え、紗月もよくは思い出せないが力尽き倒れたのだろう。護りたいものを護れず、己の無力さを噛み締めて。そしてそれはレインも同じであるようだった。それを受け入れていいのか悩む思いはあるが、無力とは、力無きがゆえに無力なのだ。立ち上がる意志の力がなければ、運命をはねのける力もない。

来世では何も思い出すことなくいたいと、獄中の少女が思うことはそれだけだった。

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