追憶と邂逅と
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「のう、まだかえ? もう足しびれたんじゃが」
「これは異なことを。皐月様は瞑想なら半日でも正座していらっしゃるでしょう。まだです。せっかくのお客様なんですからお綺麗なことを見ていただかなければ」
「そんなのどうでもいいじゃろう……」
皐月が仁夜に捕まり髪の手入れを始められてから二刻ほど過ぎていた。巫女とは言え、普段からあまりにも身だしなみに気を使わない皐月に、年上だが世話係である仁夜は小言は言いつつも実力行使はしなかったが、今日は事情があって捕まえていた。
異国の客人が来るのだ。領主からの依頼で接待を請け負った神社は、主演目として剣巫女である皐月に神楽をさせることにした。神楽ぐらいは別に良いが、客を前にするとなると色々飾りが付きそうで嫌だなあと皐月は思い、早朝に起きて時間まで姿を眩まそうとしたが、あえなく捕まった。
(私は……皐月……紗月でもない……罪穢れのない遥かなる時の中でのこと)
僅かな灯火以外の光を遮断した社殿の内に、最後の鈴の音が響いた時、皐月も舞を終えた。
霊刀を鞘に納める。ちりん、と鞘に付いた鈴の音が響き消えると共に、灯火も消され、刀の返す光も消える。
すべてが無音と無明に沈む。
時が止まるような瞬間。十分に残心をしてから、皐月は自ら社殿の戸を開け、外の明かりを入れた。
「素晴らしい……本当に素晴らしい祈祷でしたわ、巫女様」
異国の姫が腰掛けから立ち上がり、喝采をしてくる。お付きの者たちも姫に続いて手を打ち始める。異国の者たちらしい振る舞いだと思った。
「まだ至らぬ身じゃが、お気に召したのなら恐悦至極」
皐月はそう言って一礼して、社殿を出た。皐月はこの霊刀「■」(? 認識できない?)を担い祈祷する当代の剣巫女であり、それ以外の催事の役目から解放されている。あとのことは他の巫女や神主、この地の領主たちに任せておけばいいのだ。
水垢離にでも行こうかと境内を歩いていると、外側に強い呪いの気配を感じた。
「おう、車に乗せとるのはなんじゃ?」
「……あなたは?」
鳥居の階段の下、参道には牛車が停められており、一人の異国の武者姿の少女がそれを守るように立っていた。
「妾は皐月じゃ。この社にいる剣巫女じゃ」
「巫女……あなたが」
少女は敬意を示すように跪き首を垂れた。
「そう畏まらずとよい。堅苦しいのは苦手じゃ。じゃからこうして逃げてきておる。それより、その車の中にあるものについて教えてくれんか?」
「……」
少女は迷う素振りを見せた。だが、しばらくして彼女は車に手を突っ込み、柱のように巨大な鋼の塊を取り出した。
「ほう。これは……!」
皐月はその剣に目を輝かせた。
「わかるのですか?」
「おうとも。わからぬがわかるよ。神器というわけではなさそうじゃが、人の技の粋を祈りのように凝らして作られておるの。単に権力を示すための献上品ではあらぬ。これは……誓約じゃな」
「これは……王族のために作られ、神と民に正義を示し続けると誓う証です。本来なら国にあるべきものですが、諸般の事情で私が早くに継いでしまい、姫殿下が外遊するなら王族と共にあるという名目で持ち出しているものです」
「なるほどのう」
言いながら、皐月は刀を抜いた。少女が呆気に取られているうちに、自然な動作で切っ先を、少女が持つ大剣の平に当てた。大剣の平には名の知らぬ、宝石を抱く霊獣の紋様が描かれているのが見えた。
斌、斌と刀と剣が高く鳴いた。
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(運命が動き出す)
(すべてはここから始まり、巡り、そして――)




