疑念と探究と
物事は順調に運んでいるようだった。
騎士団長を決闘で殺し、そのまま騎士団長の座に納まったガーネットは騎士団の掌握と改革を進めた。ヴェスパを失ったときに自分の中にあった熱狂的なものが消えたのは感じた。今は基本的には穏当に、味方を増やしながら騎士団内での地位を確固たるものにしようとしている。副団長はガーネットに従順な態度を取ったし、ホルンをはじめとする各隊長もほとんどがガーネットを団長として認めた。だが必要があれば非情にもなった。決闘を挑まれれば容赦なく相手を打ち負かし、数人は斬り捨てた。
王城の中も状況の大きな変化に合わせて様々な対立や思惑が目に見えて蠢くようになった。権謀術数に暴力、暗殺。王城の中とて油断ならない日々が続いた。しかしレインを捕らえたことで少なくとも彼女を装うことができなくなったし、ガーネットが騎士団を直接指揮・監督できるようになったため、騎士団の隙を突いた暴虐の可能性は極めて低くなった。さらにはウィリアムの構想のとおり、軍に騎士団が協力して強化したため、戦争の主導権も王国が握るようになっていた。
そのようにしてイキシアの和平路線もかなり進んだ。戦争が優位に進んでいるからこのまま帝国に降伏させるべきだと言う声もあったが、イキシアはそれを認めずあくまでも和平を目指し、第一段階となる休戦の近くまで来ていた。王城、王国の内部だけではなく外部との動きも目まぐるしく進められていた。
そんな多忙な日々であるため、ガーネットはヴェスパのことをあまり考えないようにしていた。だがイキシアは折に触れてはそれを考えているようで、時折聖堂の魔術師、ミルテの報告書を読んで、ガーネットに問いかけることもあった。
あの剣は何なのか?
どこから来たのか?
誰によって、何のために作られたのか?
ある日、いつぞや騎士を唆してイキシアを殺そうと企てた貴族の処刑が行われた。斬首刑だった。王国の慣例では、貴族は毒殺が多かったが、ヴェスパを持っていたときにガーネットが斬首刑にしようと提案していたのがそのまま継続されたらしい。
騎士団長になった自分がわざわざやることでもないので、執行は刑吏に任せた。道具は斧だった。斧はそれなりに鋭く研がれていたが、重く、慣れなかったのか、刑吏は一撃で首を斬ることができなかった。罪人が首を半分斬られて暴れはじめたので、結局ガーネットが出て後始末をした。
エクセキューショナーソード、執行の剣というだけあって、あれは首を切るのに適していたのだとガーネットは改めて思った。大きく鈍重なようだったが、素材は銀のように美麗な金属だったし、微細な魔術回路は彫金のようで、象嵌の宝石まであった。まるで宝剣だった。いや、実際に宝剣だったのかもしれない。
ガーネットはその夜、夢を見た。
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黄昏が金色に彩る広場の舞台の上に、姫と騎士がいた。
姫は縛られ舞台の上に直接座らされたまま、沈む太陽を見ていた。騎士はその傍らに立ち、巨大な宝剣を構えていた。
騎士は姫の目をもう一度見たかった。自分と同じ柘榴色の瞳。同じ血を引きながら、少しの歯車の噛み違いが二人の運命を大きく引き裂いた。
周囲の群衆はなにも知らず、二人が自らもたらす死によって互いを別つことを待ち望んでいる。
わかっている。これしか姫を呪われた運命から解き放つ術はない。これが姫に与えられる最後の献身であり、姫がこちらを見ないのも、彼女が最後に与えてくれる寵愛であることを。
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夢から覚めたとき、ガーネットはまだ暗い部屋のベッドで跳ね起きた。
それはヴェスパと契約したときに見た光景だと思った。
あの時はヴェスパが持つ記憶のようなものがガーネットに流れてきたのかと思ったが、今の夢は自分の記憶のように感じた。
仕える主の首を断つ騎士。我が身のように考えると、心臓が狂ったように高鳴った。耐えられない。そう。だから言い聞かせたのだ。これは殺すための刃ではなく、正義の刃であると。




