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乱戦と追跡と

「ガーネット!」


雨の中で帝国軍兵士を斬っているとホルンがやってきた。騎乗し、まだ闘志が槍から滲み出ているようだった。だがやや困惑した表情を浮かべている。


「なんかひでえことになってないか? これが噂の死神の雨か?」

「わかりません。でも……気配、いえ、予感はあります」


驟雨の死神、グリム・レインのことは帝国にも知れわたっているようで、敵味方ともに浮き足立っている。ガーネットは全体を鼓舞してなんとか押さえているが、いつまで続くかはわからない。


「狙いは誰だ? 奴さんは偉いやつしか殺してないらしいな? すると次は俺らか?」

「どうでしょう。もしかしたらそうかもしれませんが、それより……」


ガーネットは敵陣を奥まで見やる。どうも兵がまともや指揮もなく前に押し出されているようで、肝心の将が出てこない。あるいは……逃げようとしている。


「おい、無茶はすんなよ。お前が死んだら姫殿下に恨まれる。俺もお家お取り潰しは嫌だぜ」

「大丈夫です。この程度なら。それに、魔力は全快してまだまだ残ってます」

「……残ってるっていうか増えてねえか? お前、いくらなんでも魔力がそこまではなかった気がするぞ。あー、やだやだ。育ち盛りか。胸は相変わらずだが」

「む、胸って! 殿下に言いますよ!」

「うわやだ怖い」


軽口を叩きつつ、ホルンは近くにきた味方の騎兵を呼び寄せる。彼に下馬させた。


「乗るぐらいはできるだろ。乗ってけ。ツケといてやる」

「……わかりました。すみませんが私の中隊も」

「ああ、面倒だが面倒見てやるさ。その代わり絶対帰ってこいよ? ツケの踏み倒しは許さんからな」


ガーネットはしっかりと頷いた。


「はい。行ってきます」




無事、敵陣の奥の小屋まで来たが雑兵が残っている程度だった。ガーネットは馬車の轍を追った。

暗殺者の気配はつかめない。だが、勘、あるいは予感がガーネットを導いていた。

何へ? 敵へ? それとも運命?

早駆けで走り続けると、森の傍の街道を走る馬車と護衛の一団を見つけた。どうしたものかと魔術で強化した視力で見ていると、明らかに要人を乗せていると思わしき重厚な馬車のドアが開いて、小柄な人影が森の中に飛び込んでいった。護衛たちはその人影に気付かなかったようで、急に開いたドアに動揺しはじめた。ガーネットはその様子を見るのは即座にやめ、馬を降り森の中に飛び込んだ。

森の中は雨と光と音が氾濫して、暗殺者の僅かな気配など掴みようがなかった。だが二回も逃げられてガーネットもその傾向はなんとなく掴み、対策も考えてきた。

ガーネットは最大出力で感覚の強化と索敵の魔術を行使する。元々身体能力の強化は得意だ。感覚の強化にはさらに木々の揺らぎを使った乱数を取り込む。

人間の感覚には死角がある。相手はそれを突き潜りこむ術を持っている。ガーネットの仮説はそれだった。なぜそんなことがわかるのか、相変わらず不明である。だが――「そこ!」

全力の踏み込みと振りかぶった切り降ろしによる一撃は、山を切り裂くほどの威力を見せた。暗殺者は――いない。まだ逃げ続けている。自分の感覚に自分以外のものの周期を取り込んだことで、目眩のような感覚に襲われるがそれも抑え込んでガーネットは暗殺者を追う。

飛来物。

木漏れ日の光のように自然と飛んできたそれを、ガーネットはかわした。まったく、背筋が凍るほどに気配がない。気配を凍らせているようだ。だが所詮は相手も人間だ。魔物の類ではない。追えると確信したとき、暗殺者はそれを悟ったかのように木々の開けた場所で立ち止まった。


「これで会うのは3回目だね」


祭司のような裾の長い黒い服と黒いスカート。(キモノにハカマ)(知っている)。

(まるでジダイゲキです)。

ガーネットは未知の既知を覚えながらもその暗殺者――少女――紗月と対峙した。

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