表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/68

女と少女と

掃き溜めには大義も思想もなく、戦争など関係ないように見えて影響は受けている。戦争がない時期は毎日のようにやっていた闇試合も、今は4日に一度とかだ。

そうなると暇だからと、サツキという娘がしつこく言うからゾーイは働かせてやることにした。まあ、宿で働かせるにあたって特筆することはなかったが、体力はあるし目端のきく娘ではあった。それと用心棒としても役に立ち、この宿を仕事に使う娼婦の娘たちをチンピラから守っていた。そのせいか娼婦たちの人気者となりつつある。ゾーイとしても、そのように娼婦たちの信頼を集めてもらうと助かる。ゾーイの宿は売春宿ではないが、そういう目的にも使わせているし、そうして客が増えれば当然儲かる。

愛嬌がある。きっと人を好きにならざるをえず、また人から好かれずにいられない、そういう娘だ。そしておそらく、そうすることで自分を守り、精神のバランスを保っているのだろう。この宿に来てまだ二日目のとき、何もしていなかったサツキは、野ざらしの刃のように目をぎらぎらと光らせていた。


「ねえねえ、見てこのバレッタ。可愛いでしょ」


ゾーイの宿をよく使う娼婦の一人、ニムが宿に隣接するサロンにサツキを連れ込んで話しかけていた。ここ数日でサツキが休憩に入るとよく見られるようになった光景だ。


「へー、かわいい。どこで買ってきたの?」

「ちょっと表の方まで出て買ってきたの。お客さんに教えてもらって」

「へえ」

「でねでね、このリボン。つけてみて?」

「え、あ、ちょっと……」


ニムが抱きつくようにしてサツキの髪に手を伸ばす。素早い手つきで黒い髪を薄紅色のリボンで飾り付けた。この娘はそうことが得意なのだ。


「ほら、どう? ちゃんと動きやすいようにしたわ。はい、鏡」

「え、うん……どうなのかな」

「みんなー! どう? このサツキちゃん」


鏡を片手に髪と自分を見るサツキ。その周囲に女たちが集まり、口々にほめたりもっとこうしたりとか囀り始める。


「……ありがとう」

「お礼を言われることじゃないわ。でも、今度は二人でそのお店に行きましょう。かわいいお店で感じもよかったんだったんだから」


その申し出に、サツキは曖昧に頷いた。きっとその日が来る前にいなくなるか、単に他人との距離をこれ以上近づけたくないとか考えているのだろう。

ありふれたことだとゾーイは思う。この掃き溜めでは、まっとうな人間性や関係など邪魔になることばかりだ。だが殻に閉じこもった彼女の無垢さを垣間見ると、どうかそのままの彼女でここを離れられるようにと、ゾーイもまた余計な人情を持たずにいられなかった。

だがお約束のように、その希望は踏みにじられるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ