女と少女と
掃き溜めには大義も思想もなく、戦争など関係ないように見えて影響は受けている。戦争がない時期は毎日のようにやっていた闇試合も、今は4日に一度とかだ。
そうなると暇だからと、サツキという娘がしつこく言うからゾーイは働かせてやることにした。まあ、宿で働かせるにあたって特筆することはなかったが、体力はあるし目端のきく娘ではあった。それと用心棒としても役に立ち、この宿を仕事に使う娼婦の娘たちをチンピラから守っていた。そのせいか娼婦たちの人気者となりつつある。ゾーイとしても、そのように娼婦たちの信頼を集めてもらうと助かる。ゾーイの宿は売春宿ではないが、そういう目的にも使わせているし、そうして客が増えれば当然儲かる。
愛嬌がある。きっと人を好きにならざるをえず、また人から好かれずにいられない、そういう娘だ。そしておそらく、そうすることで自分を守り、精神のバランスを保っているのだろう。この宿に来てまだ二日目のとき、何もしていなかったサツキは、野ざらしの刃のように目をぎらぎらと光らせていた。
「ねえねえ、見てこのバレッタ。可愛いでしょ」
ゾーイの宿をよく使う娼婦の一人、ニムが宿に隣接するサロンにサツキを連れ込んで話しかけていた。ここ数日でサツキが休憩に入るとよく見られるようになった光景だ。
「へー、かわいい。どこで買ってきたの?」
「ちょっと表の方まで出て買ってきたの。お客さんに教えてもらって」
「へえ」
「でねでね、このリボン。つけてみて?」
「え、あ、ちょっと……」
ニムが抱きつくようにしてサツキの髪に手を伸ばす。素早い手つきで黒い髪を薄紅色のリボンで飾り付けた。この娘はそうことが得意なのだ。
「ほら、どう? ちゃんと動きやすいようにしたわ。はい、鏡」
「え、うん……どうなのかな」
「みんなー! どう? このサツキちゃん」
鏡を片手に髪と自分を見るサツキ。その周囲に女たちが集まり、口々にほめたりもっとこうしたりとか囀り始める。
「……ありがとう」
「お礼を言われることじゃないわ。でも、今度は二人でそのお店に行きましょう。かわいいお店で感じもよかったんだったんだから」
その申し出に、サツキは曖昧に頷いた。きっとその日が来る前にいなくなるか、単に他人との距離をこれ以上近づけたくないとか考えているのだろう。
ありふれたことだとゾーイは思う。この掃き溜めでは、まっとうな人間性や関係など邪魔になることばかりだ。だが殻に閉じこもった彼女の無垢さを垣間見ると、どうかそのままの彼女でここを離れられるようにと、ゾーイもまた余計な人情を持たずにいられなかった。
だがお約束のように、その希望は踏みにじられるのであった。




