門番と邂逅と
新しい風。異郷のにおい。帰還の祝い。旅立ちの歌。
街の門には常にいろいろな刺激がある。様々な出来事があり、そしてここからすべてが始まるのだ。
先輩たちは退屈な仕事だ、新人騎士が民衆を誘導する練習だ、とか言っていたが、ガーネットは門番の仕事が好きになっていた。まだ三日目だが、飽きる気がしない。騎士たる者、早く一人前になり戦場で指揮を取ったり国の治安維持活動を維持したりするべきだが、できれば時折でもこの門番の仕事もやりたいと、若き騎士の少女は考えていた。
「ガーネット様、そろそろ昼食の時間ですがどうしますか?」
山菜の採集に行くという猟師の記録を取り終わったところで、第一街門兵長のサリクが声をかけてきた。サリクは壮年の市民兵で、元は戦場で一小隊を任されるほどの実力者だったが、戦傷で腕の力が弱くなったので一線を退き、今は街門の一つの警備をまとめている。貴族であるガーネットにサリクは遠慮するでも遠ざけるでもなく、気さくに話しかけてくれるのが、ここの仕事が好きなことの一つでもあった。
「はい、じゃあご飯にしましょう。今日もどこか良いお店教えてもらえますか?」
「そうですね。さっき商人のスーリアが通っていたでしょう。彼女が経営する店のピザがなかなかのものなので、そこにしませんか?」
「いいですね。行きましょ……あら?」
そこで、ぱら、と水が空から落ちてきた。
太陽が隠れる。
雨だった。
「急ですな……どうしましょう、弁当屋を待ちますか?」
「いえ、傘を差していきましょう。……雨だと古傷が痛むとか、ありますか?」
「いえいえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。傘を持ってきますね」
サリクが備品置き場に傘を取りに行く。その間ガーネットは引き続き門と、雨空を見ることにした。
「……?」
空を見上げたとき、誰かが通ったような気がした。
誰も近くにいなかったから気を緩めて空なんか見ていたのだ。おかしい。
周囲を見渡す。少し離れたところまで注意深く意識を向けたところで、街に入っていくマントを被った小柄な人影を見つけた。
「……待ちなさい! 街に入るならこっちに来て通行証を見せてください!」
ガーネットは駆け出す。呼びかけた相手は、一瞬だけ足を止めて、すぐに風のように走り出した。
咄嗟にガーネットは呼び笛を吹いた。しかし他の門番を見ると、彼らは侵入者ではなくガーネットばかり見ていた。
(どういうこと?) しかし異常を分析する先に、異常そのものを追跡することをガーネットは選択した。