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対峙と脅迫と

二人の兵士に気付かれないよう十分に距離をおいて追跡した紗月が小屋についたとき、二人は何もない小屋に落胆したのか、早々に捜索を諦めていた。戸は入ったときに開けたままだったか、煙草に火をつけようとしているのが見えた。


「ここらへん、数日おきに狼が出てからドアは閉めておいた方がいいと思うよ」

「――おい」


戸口から紗月が顔を見せると、二人の兵士はそろって煙草を取り落とした。二人の一人、軍曹の階級章をつけた男は素早く立ち上がり、紗月に歩み寄ってくる。触れられたくないので紗月はさっさと外に出た。


「ッチ、どうしてこんなときに雨が降るんだよ。気配がしなかったぞてめえ、レイン」

「気配を感じることができるの?」

「はあ? 俺を誰だとおもってやがる? この俺のことを知らねえのか?」

「……ああ、思い出しました。ギョーム軍曹ですか」


軍規取り締まりを担当する兵なのでそこそこ有名だった。その立場を笠に着て、横柄で乱暴でもあると。そういった人間は数多いのだが。


「ああそうだ。何のつもりだてめえ、のこのこ出てきやがって。……くそ」

「一応、お願いしてみようと思って。――私がここにいたこと、黙っててもらえませんか? あの村にはいなかったって、言ってもらえませんか?」

「あ? ……ふざけてんのか! おいこら、とっと出てきてあの女捕まえろ!」


ギョームが叫んだ瞬間、檻に閉じ込められていた猟犬が放たれたように、付き添いの兵が小屋を飛び出してきた。何となく気弱そうだと思ったが、どうして中々訓練されているようだ。だが、紗月は彼の進路から飛び退きざまに首筋を鞘で打ち付け、容易く無力化した。


「はー、やろうってか。面白いぞコラアアアア!」


ギョームが剣を抜き突っ込んでくる。彼は体格もよく筋も悪くないようだった。さきほどと同じように飛び退いても剣で薙いで追ってくるので、紗月はまず抜き打ちの一閃でその腕を断った。


「アバッ……」


そして返す刀で深く袈裟がけに斬った。肺を深く切られ喘ぐように口を開いたり閉じたりしながら彼が倒れる間に、勢いよく血が噴き出し、紗月に少しかかった。


「ウワ、ウワアアアアア!!」


付き添いの兵がその様を見て絶望の叫びをあげる。彼の目に自分はどう映っているのだろうかと、その視線を見ながら思った。


「黙っててくれるなら見逃してあげる」


紗月は刀を下げた状態で持ちながら彼に言った。


「ここじゃない、もうちょっと違う場所で襲われたって言うの。村にも立ち寄ったことにしてほしくないけど、無理なら村から離れたときに襲われたって言って。……もしうまく言えなかったら、殺しに行くから」

「イイマス、イイマスカラァァ……」


彼は失禁していた。かわいそうだったが、もう最後まで言うまでは気迫で逃がさないようにするしかなかった。


「うん、お願い。というわけで、この人の死体は適当な場所までは持って行ってね」

「アリガトウゴザイマスゥゥゥ!」


そこで紗月が一歩下がると、彼は転げるように走り出し、必死に上官の死体をつかんで引きずり、山の中を走っていった。


「……ちゃんと帰れるのかな」


その足音が雨音に紛れて聴こえなくなるまで、紗月はその場に佇んでいた。

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