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炎と記憶と
記憶は赫い熱に終わり、赫い熱に始まった。
(――痛い)
地に叩きつけられた身体、腕に土と石が突き刺さる。焔は迫っているが、まだ身を焼くほどではない。
敵陣に近い山中を行軍中のことだった。敵の警戒網にかかった彼女たちは追い回され、魔術による爆撃を受けた。仲間のほとんどが焔に巻かれすでに人の姿をやめていた。臆病な■■だけが、危険を一瞬早く察知し、幸運にも焔から逃れていた。少なくとも自分の回りに生きている仲間はいないと、焔を見上げて呆然と考えた。■■は一人。あとはすべて敵。(そんなことはもうわかっている。)
(――?)
違和感。意識に違和感。自分はいま何を考えてた?
何かを確かめるように、夜闇を灼く焔の光に照らされる己の手を見る。傷ついた少女の手。腕に巻かれた粗末な支給品の防具。それは途切れた認識の(いつ途絶えた?)状況とは(どんな状況だった?)些か異なっているようだった。
混乱する意識。
混迷する認識。
照らされる記憶の底の闇。
■■は考える。
自分は(私は)……誰だ?