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三 特別処理班①

「これから先の平穏な日常を保つためにも、やはりまずは特別処理班に私達へ干渉しないよう働きかける必要があると思います。そのためにも、ご主人様にはとりあえずいつも通りに行動して頂きます。そして、彼等が接触してきたら叩きのめ……ではなくて、話し合いましょう」


 末那の騒動から二日後。

 一日は学校を休んだが、連示は阿頼耶の提案を受け入れ、普段通りの時間に家を出て普通に登校していた。当然、阿頼耶は特別処理班を警戒してすぐ近くで連示の視覚を共有しながら隠れている。末那も阿頼耶と一緒だ。

 末那は危険だからすぐ傍で守ると主張していたが、結局は阿頼耶と一緒に連示を見守るということで落ち着いた。

 一応、連示の役目は餌なのだから、同じ餌としての価値こそあるもののファントムであるが故に警戒されかねない末那を同行させるのは正直不安要素の方が大きい。

 それは彼女も理解しているようだったが、最後まで不満そうにはしていた。

 一日学校を休んだのは、どこからともなく、またもやCEカンパニーの名で配達されてきた追加武装を確認したり、阿頼耶が末那の体の寸法を測ったりしていたためだ。

 何でも末那のためのアップグレードパーツも新たに発注するつもりらしい。


「ね、ねえ、世良君。ユウカちゃんが転校って本当なの?」


 教室に入ってすぐ鈴音が血相を変えて駆け寄ってきて、挨拶もそこそこに尋ねてきた。


「え、っと、何の話?」

「昨日、先生が言ってたんだけど……」

「ああ。成程」


 それは恐らく特別処理班による処置の一つなのだろう。

 と言うことは、もう二度と遊香本人と会うことはないかもしれない。

 そう考えると、僅かながら寂しい気持ちも生じる。


「多分、本当のことなんじゃないかな」

「そんな、世良君はそれでいいの!?」

「い、いや、いいも悪いもそれは俺にはどうすることもできないし」

「それは、そうかもしれないけど……折角、友達になれたのに、こんな突然に」


 納得できないというような表情で呟く鈴音に、さすがに罪悪感を抱く。

 しかし、それと同時に彼女がアミクスであるユウカ、つまり末那を友人だと思ってくれていることが連示は嬉しかった。


「何で、世良君はそんなに冷静でいられるの? 私なんかよりずっと長い時間ユウカちゃんと一緒にいたはずなのに。仲が、よかったのに」


 そんな風に自分の淡白な反応に真剣な怒りを示してくれる鈴音に感謝すると同時に、連示は本当に申し訳なく思った。

 まだ状況が状況なので全てを話して巻き込んでしまう訳にはいかないが、どうにかして少しでも彼女を安心させたかった。


「その内、あいつは戻ってくるよ。必ず。だから、俺は気にしてないんだ」

「どうして、そんなことが言えるの?」

「それは、俺があいつの幼馴染だから、かな。何より友達に何も言わずにいなくなるような奴じゃない」

「それはそうだろうけど、でも――」

「ちゃんと確証はあるんだ。まあ、少し事情があって今は話せないんだけど、いずれ風守さんには絶対に言うから」


 連示はそう言いながら鈴音の目を真っ直ぐに見詰めた。

 彼女は事情という言葉にしばらく訝るような表情を見せていたが、軽く嘆息して頷いた。


「……分かった。世良君がそこまで言うなら、信じる。また、会えるんだよね?」

「ああ、勿論」

「なら、うん、私は待つよ。でも、なるべく早く話してね。その事情って奴。私も気が長い方じゃないし、何だか寂しいから、ね?」

「ありがとう。風守さん」


 鈴音は首を小さく左右に振って、自分の席へと戻っていった。

 連示はそんな彼女の背を少しの間見詰めてから、教室全体を見渡した。

 クラスの雰囲気は一人が欠けていようともほとんど変わっていない。

 独立した人格を持たないアミクスはただ目の前にある偽りの世界に合わせて、ひたすらに空しい関係を作っていくだけなのだから。

 やはり、この世界はどうにも薄気味悪い。

 連示は改めてそう思いつつ、再度視線を席に座っている鈴音の背中に向けた。

 阿頼耶に言わせれば、鈴音もまたLORの計画の失敗例だと言えるだろう。

 彼女がそうなった切っかけは、連示には皆目見当がつかなかった。それでも自分以外にも現状に疑問を持つ者がいることに、連示は今更ながらに心強さを感じていた。

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