虚空に話しかけるってわりと苦痛じゃね?
汝、火力を求めよ
配信開始を翌日に控えた本日、俺は職場にいた。
「うぉぉーーー!!!働け俺!!馬車馬の如く、いやそれよりも過剰に!」
なぜこんなことになっているのか、それはOnly your storyを存分にプレイするため、配信開始当日から一週間ほど有給を取得したのだ。
急な申請であったが、以外と通ってしまった。
しかしその一週間を穴埋めするため、今日も死ぬ気で仕事をこなしているってわけだ。
「よ、ようやく終わりが見えてきた……。あと一息だ…………」
「だぁーーー!!疲れたぁ!!自分で招いた結果とはいえこれはキツい、とてもキツい!」
家に着くなり玄関先に倒れこみ、叫ぶ。
「あら、おかえり。何だかいつもより疲れてるようね。先にお風呂でも済ませてきたら?」
「あぁ母さん、俺はもう疲れたよ……何だかとても眠いんだ……」
「馬鹿なこと言ってないで、いつまでもそこにいたら外に捨てちゃうわよ?」
「…………風呂入ってくる。」
風呂を済ませた俺は、自室のベッドに飛び込み携帯端末を取り出した。
「さぁて、明日になる前にもう一度事前情報をおさらいしておこうかなぁ……」
と、oysの公式サイトを見ながらゴロゴロしていた。
しかし、とてつもなく疲れていた俺はいつの間にか意識を手放し、眠りについていた。
『ピリリリリ!!!』
バッ、っと飛び起き、携帯のアラームを止める。
「俺いつの間に寝てたんだ……怖すぎる…………アラームかけといて良かった、マジで。」
「まぁ、過ぎたことは置いといて。ようやく今日からoysをプレイ出来るってもんだ。待ちわびたぜ。」
しかし、only your storyのサービス開始は正午からである。まだ時間に余裕がある。
「さ、時間があるうちに飯でも済ませてこよっと」
「快眠!満腹!!絶好調ォ!!今なら何徹でも出来そうな気分だ!!」
食事を済ませた俺は、素晴らしく調子がよくテンションがおかしな事になっていた。
「さぁ、もう正午だ。プレイの準備はバッチリだぜぇ…………」
VRチェアーに座り今か今かと待ち続ける。
そしてその時はすぐに訪れた。
VRチェアが稼働する。正確には稼働していたが、oysのサーバーに繋がった、が正しいだろう。意識が電脳世界に融けていく感覚と共に、視界が切り替わる。
「おぉ!やっとログインできたか!して、このなにもないだだっ広い空間はどこだろうか……」
『only your storyの世界へようこそ。ここではキャラメイク、チュートリアルを実施しております。』
無機質な機械の声でアナウンスが聞こえた。
「どうでもいいんだけどさ、ガイド?のアバターとか出せない?何もないとこに会話するの割りと寂しいんだよね」
ヴォン
という効果音と共に目の前に姿を表したガイドNPC。無表情ではあるが美人といって差し支えない女性のアバターだ。
『これでよろしいですか?』
「いいね。ノリのいいAIで助かったよ。」
『満足していただけたようで何よりです。では早速キャラメイキングから開始させていただきます。』
『キャラクターは一度作成すると一部の例外を除き変更は不可です。慎重に作成してください。』
「キャラクター、そんなのデフォルトでいいんだよ。どうせ自分の姿なんて見えねぇんだ、プレイにさしたる影響はない。」
『では現実世界と同じように見た目になさいますか?』
「あぁ、それで頼む。」
ていうか今気付いた。俺のからだ透明だった……
キャラ作るまで何もない感じだったんだな、これ
ガイドが手を振るうと、俺の体?から光の粒子的なやつが溢れ出した。
「うわっまぶしっ!! って一瞬だけか……。おっ、体出来上がってるじゃん!数分振りだな、myぼでぃー!!」
『では続いてチュートリアルに移ります。プレイヤーである貴方たちは、この世界において異界からの来訪者として扱われます。』
『来訪者の共通点として、死亡しても復活することは全てのNPCが把握しています。そして来訪者は、スキルと呼ばれるものを操り、類い稀な戦闘能力を持っていることも。』
『ここで、このゲームのメイン要素であるスキルカスタムについて説明します。
スキルカスタムは、ウィンドウを開き、《スキルカスタム》という項目を選択することで開始出来ます。』
『スキルカスタムというのは、カスタムのベースとなる基本スキルを覚えていることが前提となります。』
『ではチュートリアルという事で、特別に今貴方に基本魔術スキル:ファイヤボール を使えるようにしました。カスタム画面を開いてください。』
「あぁ、実戦形式で教えてくれるのか、ありがたいなこれ」
意識内でウィンドウを呼び出す。VRゲームは大体こんな感じで共通してるもんだ。
「カスタム、カスタムっと。これだな」
ポチッと、音はしていないがそんな効果音が似合いそうな操作でカスタムの項目をタッチする。
『開けましたね?ではファイヤボールの欄を選択してください。』
『基本スキルには、大抵5つの【項目】があります。ここに、カスタムポイントが10Pずつ振られています。この状態がこのスキルの基本状態です。』
『各項目に割り振られているポイントは、他の項目に振り分けることが可能です。例えば、ファイヤボールには【威力】【速度】【消費】【範囲】【射程】の項目があります。
このうち、速度以外の項目のポイントを5Pずつ減らし、余った20Pを速度に振ります。すると、このファイヤボールは20P分速度が上昇します。
1P=10%と考えてください。』
『スキルの見た目はイメージで作り上げます。無理の無い範囲で形作る事が出来ます。そのスキルが持つ【範囲】等の項目を越える見た目は作れません。』
『スキルカスタムにおいて、重要な点があと二つあります。
1つは【種族特性】。ステータス面やカスタムの数値に影響します。
2つ目は【エレメント】です。こちらはクリスタル状のアイテムで、カスタムの際に使用することでスキルに特殊能力などを付与します。ランクが低いエレメントは大体が項目に+1P、などです。』
『以上でスキルカスタムのチュートリアルを終了します。何かご質問はございますか?』
「いや、いい。ありがとう、充分だ。」
『では、貴方の物語に、幸あれ。』
チュートリアルを終えると、初期地点であろう広場に飛ばされた。
すると目の前にはプレイヤー、そして広場の中央にでかでかと浮かぶ『only your storyへようこそ!』の文字。
『ファンタジー感台無しじゃん……』
場面は物語冒頭部分と繋がるのであった……
もじすうふえた