森とお約束
出てこい、俺のトモダチ!!←(命令口調
『南門 集合。』
正直何も買ってないが、やることが決まった以上さっさと済ませたい。
個人チャットで簡潔に集合を伝える。あいつらにはこれだけでも十分だ。
それじゃ、俺も南門へと向かうとするか。
また一番乗りのようだな、あいつらは来ていないらしい。
こんな時はスキルカスタムの時間だ。
さて、現状はファイヤボールしかカスタムしていないが、実はちゃんとした理由があるのだ。
公式では初期ジョブと、その次の上位ジョブまで簡易的だが開示している。
初級魔術士は、ジョブレベルがMAXになった状態で神殿に行くと上位ジョブに転職できるらしい。その上位ジョブというのが、属性ごとに分けられているのだ。
俺のスタイルは火力重視、俺の中で火力と言えば火属性である。故に次のジョブは【火魔術士】だ。
「別に習得したスキルが使えなくなるって訳でもねぇが、適応属性以外の威力が落ちるらしいんだよな……それなら最初から火魔法一択で練習してた方が上手くなるってもんよ」
独り言は呟きつつも手はカスタムウィンドウを弄っている。火力重視といっても時と場合によっては使い分けが必要だろう、色々作っておくに越したことはない。
「よぉ、随分早めの召集だったな、何かあったんか?」
2番目に着いたのはウォッカのようだ。
「あー、それなんだけどよ、トールも来てから説明するわな。もうちょい待っててくれや。」
「その必要はないね。俺ももう着いたよ」
こいつらほぼ同時に来るな、仲良しかよ…………
仲良しだったわ、アホじゃん。
なんて頭の中で一人ノリツッコミをしてる場合ではない。揃ったんだし説明しとかないとな。
「トールもきたか。じゃぁ簡潔に説明スッけどさ、市場行ったらプレイヤーの店主がポーション売ってたわけ。でもMPポーションが無くてな?
作ってもらう&安く売ってもらう為に材料取りに行こうってなった感じよ。」
「それで南の森、か。大丈夫なの?俺達まだレベル1だけどさ。」
「まぁまぁ、初めから簡単に行けるとは思ってないさ。でもちょうどよかったんじゃないか?他のところは狩り場の競合が激しい。今のうちなら南の森は美味しい狩り場になり得るかもしれないぞ?」
「確かに。いつ湧くかもわからないウサギとか狩りに行く位なら、危険でも行ってみる価値はあるかもね。」
「そういうこと。それじゃ事情も説明したしさっさと行こうか。今回は採集がメインだから時間がかかるかもしれん」
二人を急かし、門の外に出る。
外は、少しの草原と見渡す限りの森林で覆われていた。
「外に出ていきなり森、とかじゃなくて良かった……。」
流石にそれはやばい。門を通ってすぐモンスターと遭遇する可能性があるなんてかなり危険だ。
それをわかっているのだろう、森まではキチンと離れており、そこまでは道が作られていた。
それでもそんなに離れていない。森に入ることはすぐにできそうだ。
「さぁて、今から森の中でアイテム探しながら索敵しなきゃならん。疲れたら言ってくれ、その時はすぐに森から出よう。」
この森に詳しくない以上、無理は禁物だ。肉体的な疲れは無くとも、精神は確実に疲れる。すり減った精神で格上と思われる相手と戦うのはリスキーだろう、休憩は確実にとっておかないとな。
「オーケーだ。それじゃ俺は前方の警戒しとくからよ、トールが後ろ、ウィズが真ん中って並んで行こうぜ。森の中じゃ後ろから奇襲されるかも知れねぇし、魔術士を後ろに置いとくのは危険だと思うぞ。」
「ウォッカの言うとおりだね。俺は後ろについて歩くよ。ウィズはアイテムの捜索を重視してね、敵は俺達が警戒するから」
「了解だ。それじゃいくぞ!」
森の中は、少しだけ薄暗かった。木の隙間から木漏れ日が出ているため明かりは困らないようだ。
「しかし物陰は暗ぇな、アイテムとか見逃しちまいそうで嫌になってくるなぁ。もしかしたら敵が隠れてたりしてな。」
その心配はいらなかった。
俺も同じ事を考えていたが、暗がりを見た際その中の微かに光が見えた。もしやと思い近づいて見ると、そこには『薬草』が生えていた。
「大丈夫みたいだぞ。暗い場所にあっても採集アイテムなら微妙に光ってるんだ。ほら、ここ。薬草生えてる」
「おー本当だ。確かに少しだけ光って見えるな。これならそこまで見つからないってことにはならなさそうだな」
運営の親切設計に嬉し涙がでそうだ。
今はこのありがたいシステムに感謝して採集をしよう。
「よく見てなかったけど、意識して周り見たらけっこう光ってるね。この森採集アイテムだらけじゃないか」
トールの言うとおり、よくよく見ると周りに同じような光がけっこう見える。これは採集祭りだな。
「じゃぁ俺採集しとくから周りの警戒ヨロ。頼んだぜ」
警戒を二人に任せてアイテムを拾う。
薬草、薬草、キノコ、薬草、キノコ薬草薬草薬草薬草…………。この辺キノコと薬草しか無い……
これはもう少し奥まで行く必要があるか。
おーい二人とも、と声をかけようとすると、トールが口に指を当てて『静かに』のジェスチャーをとっている。どうやら何かいるみたいだ。
足音を極力消しながらトールに近づく。
トールが向いている先、そこには敵がいた。
緑色の肌、低い身長、人形。
ファンタジーの定番、【ゴブリン】だ。
???「ゴブリンか。」




