04 アポ取りは強引に
そうして連れてこられたのは、街の正門だった。
この街は高い城壁で囲まれているので、門を通らないと出入りができない。
そして、扉が開け放たれている正門には、たくさんの人影があった。
しかし街の住民は少ない。――というか、人間が少ない。
街の人は数人だけで、荷馬車に大量の食物を運び込んでいる。
それを監視するように待ち構えているのは、屈強な男たちだった。
けれど、その男たちが人間でないことは一目見てすぐにわかる。
なぜなら彼らの首から上は、オオカミの頭なのだから。
「あれがワーウルフかぁ……」
ゲームなんかでは見たことあるが、実際にこの目で見ると迫力がすごい。
「で、あいつらは何してるわけ?」
「徴収だ。ああやって食料を収めている限り、我々のことは襲わないらしい」
「意外と理知的だな」
「あぁ、奴らは魔物のなかでも知能が高い。ただ略奪するのではなく、搾取し続けたほうが効率がいいとわかっているのだろう」
「で、この街はあいつらに従うしかない、と」
「当たり前だ。奴らは我々人間よりはるかに強い。その気になれば、この街は半日と持たずに全滅させられるだろう」
それだけの戦力差があるなら、言いなりになるしかないな。
「門を閉じておけばいいんじゃないか? そのための城壁だろ」
「奴ら脚力をもってすれば、この程度の壁は軽々と超えられてしまう」
打つ手なしだ。
だから勇者召喚という手段に出た、と。
ひとり納得していると、ふと正門のほうからドスの聞いた声が響いた。
「おい、どうなってんだ? 今回はやけに食料が少ねぇぞ」
「す、すみません……! でも、これ以上は備蓄もなくて……」
「あ? オレたちに逆らおうってのか?」
ワーウルフたちのなかで、リーダー格と思われる一人が脅すように爪を見せつける。
返答次第では命はない、ということだろう。
この事態にフォゼッタが俺の背中を力強く叩いた。
「ほら、勇者の出番だ。さっさとあいつらを倒してこい」
「んな無茶な……」
とはいえ、ここで頑張らないと勇者としての永久休暇がなくなってしまう。
休みをもらうためにも、ここはやるしかない。
俺は脅されている住民とワーウルフの間に素早く入り込んで、最敬礼で頭を下げた。
「大変失礼いたしましたっ!」
「な、なんだ……お前?」
わずかに困惑した様子のワーウルフに、即座に名刺を差し出す。
「株式会社テンセイの多田利一と申します。よろしくお願いいたします」
「タダ・リーチ?」
またしても発音が違っていた。
けれど、今はそんなことどうでもいい。
「あなたがワーウルフのリーダーということで、よろしいでしょうか?」
リーダー格と思われる一人に尋ねるが、そいつは戸惑いながらも首を横に振った。
「いや、お頭は根城にいる。オレたちゃ、ただの回収係だ」
「なるほど……」
そういうことなら、こいつらに用はない。
商品を売り込むときは、より上にレイヤーと話すのがベストだ。
「お頭と直接お話させていただく機会をいただけませんか?」
「あ? ふざけるな。お頭は人間と話すほどヒマじゃねぇんだよ」
「なにかご予定が?」
「それは……」
「ご予定に空きがあるのでしたら、ぜひお時間をいただければっ!」
「いや、待て! 隣山の魔物といざこざがあってな。そっちで忙しいんだよ」
「ワーウルフさんたちが苦戦するほどの相手なんですか?」
「バカにすんじゃねぇ。あんな連中、一日もありゃ黙らせられるっ!」
「では、明後日であればおヒマですね? 午後などいかがでしょうか?」
「し、しつけぇ奴だな……わかったよ、お頭に伝えといてやる」
「ありがとうございます! では、明後日の午後一番にお伺いいたします!」
頭を下げながら、心の中でガッツポーズをした。
それからすぐに、ワーウルフたちは食料を積んだ荷馬車を引いて街を後にしていった。
再び頭を下げて見送った俺に、フォゼッタがイラ立った様子で詰め寄ってくる。
「お前、何を考えているんだ!? 戦わないどころか、敵に頭を下げるとは!」
「心配はいらないって。アポさえ取れればこっちのもんだ」
「あ、あぽ……? お頭との話し合いのことか?」
そこで、フォゼッタが納得するように手を打った。
「なるほど、何か戦略があるのだな!」
「え? そんなもの、今から考えるけど?」
「無策だと!? お前、本当に何を考えている!?」
「あのな、営業戦略を考えてるヒマがあったら、まずはアポ取りをするべきだろ? どんなにすぐれた戦略があってもアポが取れなきゃ、受注はゼロなんだ」
「エイギョーセンリャク? ジュチュー? な、なんの話だ……?」
「とにかくアポ取りさえ終わったら、あとは営業の腕の見せ所だ! まぁ任せておけって」
「よ、よくわからないが、すごい自信だな……。本当に大丈夫なのか?」