オールラウンダー
「やあ。気分はどうだい?」
力を注ぎ込んだ反動で気を失った男を介抱する。場所はダンジョンの中でも生活に使われていた部屋。
魔物が配置されないそこは、冒険者にとっては休憩スペースとなる。そしてまだ人の踏み入れない最下層は、実質僕の部屋だ。
といっても簡素な石造りのベッドや机に椅子、申し訳程度に噴水があるだけ。お世辞にも住み心地は良いとは言えないけど。
「ここ、は。俺、は…。」
石造りのベッドに敷かれた毛布の上で体を起こした男は現状を確認し、口を噤む。
感じられる感情は、悲しみ、憎しみ、悔しさ、そして、少しの希望。
体力の回復もさせたし、もう体調はほぼ万全だろう。
「さて…何から話そうか。まず君に与えた力かな。君には、天職を複数付与した。」
天職、それはヒト型の生き物なら必ず、そして一つだけ有するもの。ただそれを知る手段は限られていて、殆どの人間は天職を知らない。
しかし、天職と同じ職業につけば他とは一線を画する力を身につけられる。
「元々の君の天職は僧侶。ただ呪いの力で回復魔法は使えなかったみたいだけれど。」
「呪い…。っ、誰が…!!」
「…教会だね。大方、聖女を送り込みたいがために僧侶の天職を有する君は邪魔だったんだろう。」
「…!!!?!?」
僧侶向きのステータスの伸びで回復魔法が使えない、ならば魔法使いが天職だとも思ったんだろう。
「そして、君は僧侶以外とはとことん相性が悪かった。正直それなりに戦えてるのも奇跡だね。」
たぶん相性の悪さと勇者の補正が相殺し、一般人レベルになったんだろう。
「ただ勿論解呪したし、今の君には天職なんて関係ない。ユニークスキル、【オールラウンダー】を付与した。どの職業に属するスキルも、努力は必要だけれど天職として職を有する人と同様の成果が出る。…一度、ステータスを覗いてみるといい。」
「…ステータス。…!!!!?」
「それが今までの君の努力だ。」
そう言いながら、こちらでも確認した男のステータスを眺める。
[名前]ノマ [性別]男 [年齢]19
[Lv]18 [職業]勇者(+僧侶)
[HP]237+500 [MP]568+500
[攻撃]18 [防御]76
[魔法攻撃]193 [魔法抵抗]94
[きようさ]35 [素早さ]84 [運]3
ースキルー
武術+
防具+
属性魔法+
上級魔法+
隠密+
テイム+
ーユニークスキルー
勇者の加護
オールラウンダー
神秘の守り
急成長
レベルやステータスの値は変わっていない。
変わったのはまず、職業。今まではただの勇者、だったけど他の勇者同様、付加職業もきちんとつけておいた。
これがあると無いとではステータスの上がり方も異なってくる。
そして一番変わったのはスキル。
スキルの"+"をタップすれば、そのカテゴリのありとあらゆるスキルがLv.1という表記で現れる。
スキルを持っていなくても扱うことはできるが、スキルがあると補正がつく。スキルの有無でも、そのレベルの違いでも天と地の差がある。
今まで彼は僧侶が封じられていたせいで槌術しかスキルがなかった。しかし今はほぼ全てのスキルをノマはLv.1で保持している。
そしてユニークスキル。
【勇者の加護】はノマがもともと持っていたもので、HPとMPに固定値の追加。
それ以外の3つは僕がつけた。
【オールラウンダー】は今回の目玉。何の職業でもなれる…、つまり全てのスキルを扱える、というスキル。
【神秘の加護】は死を防ぐスキル。ノマには詳細が分からないようにしているけど。僕の目の離した隙に死なれちゃ困るからね。生き返らせれないわけじゃないけど、こっちのが楽。
【急成長】はレベルと、スキルレベルのランクアップに必要な経験値を通常の10倍得られるというもの。これは今までの経験値には反映されないが、オールラウンダーとの組み合わせで、これから信じられないくらい成長してくれることだろう。
「ああ、あと職業は一応僧侶にしておいたよ。天職の方がステータスも伸びやすいからね。前衛職との差はレベルかスキルで補えるから。」
僧侶は本来は攻撃魔法は使えない。だけれど魔法攻撃は十分上がり、魔法使いほど打たれ弱くないし、MPも潤沢にある。
オールラウンダー持ちで、魔法を使いながら戦うのあれば僧侶の方がいいだろう。