拾ったペットは勇者パーティから追放された男
父親から勘当されて早数百年。
勘当されこそすれ、父親から受け継いだ力は奪われるなかった。
こんな形でも父親としての愛情があるのだろうか。あまり話した記憶がないから分からないけれど。
きっと僕がオイタをすれば、罰されるんだろうけど、そうじゃない今はただ父の跡を継げないというだけ。
全然継ぎたいと思ってなかったから、むしろラッキーなくらい。
そんな僕の父親は神様。この世界を作って管理している、らしい。
母親は元人間。父に見初められ、母も同意の元神のような存在になった。人間界が恋しくて降りては、女神と崇められてるらしい。
そんな2人の間に生まれて、僕も神になり得たんだけど、僕は世界の為じゃなくて、僕だけの為に生きたい。
だから自由に生きてたら勘当された。
今思えば、そのまま、自由に生きてればいい、っていう気持ちの表れなのかもしれない。
勘当されてから実家に帰ってないからわかんないけど。
そして絶賛自由な生活を謳歌する僕は遺跡探索に出かけていた。
現世の人間にとっては危険ながらも貴重な品の得られるダンジョン、といわれる場所らしい。前時代の文明で作られた、といわれてもいる。
その真実は人間が魔族達に支配されていた時代に魔族が建てた建物だ。
今や魔族はこの大地におらず、辺境に追いやられている。
そして人間たちは魔族に支配されていた過去を隠すように、このダンジョンは世界が一度滅びる前の前時代の物だと言っている。
まあ、もう魔族も真新しいダンジョンは作れないから強ち間違いでもない。
そんなダンジョンの中でも特に、ダンジョンマスターが消えたダンジョンを書き換えるのが最近の趣味。
配置された魔物は強いものも、更新されないから前時代的。人為的に生み出された魔物は進化することもないから。さらに変化しないダンジョンは攻略方法が確立されている。
それはつまらない、という理由で僕は書き換えを続けている。
ついでにフロアの作りも書き換えたりして、たくさんの冒険者が迷う様子を見るのが最高に楽しい。
このダンジョンは元から他のダンジョンよりも強い魔物が配置され、作りも複雑。
それを書き換えたから、沢山の冒険者が挑戦しては諦めている。
特に最下層は1階層から見えはするものたどり着いた者はいない。ボス部屋もしかり。
だから最下層に人の反応を感じて、すぐさまやって来たというのに。
「くっそ…!!!」
いたのは1人。息も絶え絶えで、今にも死にそうな男。体の至る所に傷があり、血まみれだ。
もう視覚も聴覚も弱まっているのか僕には気づいていない。
荷物も武器も持っていない。
そしてかすかに、本当に少しだけ感じる神の力。
少し、記憶を覗いてみるか。
ーその痣は勇者の印。一緒に世界を救いましょう。
ー勇者? 俺が…?
ーははっ、またレベルアップだ! もう、オークも一撃で倒せる!
ー私も中級魔法を唱えられるようになったわ! 一緒にがんばりましょう!
ーわたくしもサポートしますわ。
ー…俺も勇者なのに、俺は剣も、強い魔法も使えない…。
ーおい、役立たず! 一緒に旅してやってるんだから、荷物持ちぐらいまともに持てよ!
ー本当ノロマ。蛆虫の方がまだマシね。
ー神の信託がなければ、あなたなんて生きている価値もありませんのに。
ー…。
ーお前はここで、魔物に倒され、死体を貪られ死ぬ。そういう運命なんだよ!
ー貴方の装備は有効活用するわ。
ー早く死んで、勇者の証を別の方に譲ってくださいね。貴方の犠牲で世界は救われるのですよ?
ー…っく、…。
断片的に読み取った記憶。
それは勇者の証を携えて生まれた男が、勇者パーティに入りつつも、常人並の力しか扱えず、そして仲間に馬鹿にされ、そして裏切られ見捨てられた話。
この傷も魔物ではなく勇者パーティに付けられたキズと、落下の時の傷が大半だ。
しかもその状態で、誰も足の踏み入れた事のない最下層へ落とされた。
…勇者、ね。
確かに力の根源はこの勇者の証といわれる痣。
そして僕にとっては微かな力でも、人にとっては大きな力となるはず。なのに常人並の力しか扱えない。
…なるほど。
僕は基本的に面白いことが好きだ。
死んだはずの最弱の勇者が、最強の勇者となって蘇るのは最高に面白いんじゃないか…??
『さあ、勇者よ。第2の人生を楽しみなさい。』
聴覚の衰えた男にも聞こえるように、頭に直接語りかける。
そして傷を直していく。極簡単な治癒魔法だ。本当ならこの男にも使えるはずの魔法。
だが、使えない。この呪いのせいで。
呪いを可視化すると、生かさず殺さず締め付ける蛇のような呪いが男に巻きついていた。
それを解呪すると、さらに男に語りかける。
『勇者あなたは何を望む?』
「お、れ…は。」
掠れた声は栄養失調だろうか。簡単な治癒魔法では怪我は治せても、体調を全開にすることはできない。
「力、だ…っ! 俺をバカにした勇者を、見返すっ、チカラを…!!!!!」
復讐の意思もあるかもしれない。けれど、それを遥かに上回る力への渇望。
それもそのはず。この男は誰よりも努力を重ねて来た。血反吐を吐くような努力を。
だが、その努力は実らない。その理由は男自身ではない。呪いもあるけれど、一番の理由は世界の理。
なら、世界の理を壊せばいいだけ。世界全体ではなく、男だけの理を変えるのなら僕にもできる。
『ならば力を与えよう。…ただ、僕は神ではない。力には代償が必要だ。』
本当は代償なんて要らない。ただ、僕の享楽。それだけのため。
「ああ!! どんな代償でも払うっ!!!!」
間髪入れずに答えると男。