回想
私はトレンに跨って村に向かう途中、王との会話を思い出していた。
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「アリイ様、魔王様がお呼びです」
セフィーさんが部屋に来るとそう言って両手を前に組んで頭を下げた。
「あっ、はい。わかりました」
私はベットからスルリと体を落して甲冑へと歩み、装備を整える。着替えが終わって「お待たせしました」と彼女に伝えると、ゆっくりとした歩調で、歩き出した。私は、その後に付いて行く。
今日は何時もの謁見の間ではない事を進む方向で気がつく。いつもは廊下を左、今は右に曲がった。この方向に行くのは初めてだ。なにせあまり城内をうろつくなと言われていたので、必用な場所以外は何があるのかさえ分かっていない。と、突然。日の光がさす廊下にでた。廊下の左側は柱だけが一定間隔で存在するが壁がなく、外の様子が見ることが出来た。
「花・・・」
私の呟きに彼女が足を止めて振り返る。
「中庭には季節ごとに、花が咲く様に各種の花を咲かせるものが植えられているんですよ」
「・・・きれい」
薄紅色のその花は、私は元の世界で見た事が無い花だった。私が知らないだけで、もしかすると世界には同じものがあるかもしれないけど。
「はい。そうですね・・・では、そろそろ」
彼女は中庭が見る、この廊下を再び歩き始めた。
さっきよりゆっくりとした歩調で進むので、私はそけに合わせて歩きながら庭の花を見つつ歩く。そこへ小型のトレンが走り寄って来た。
「トレン。どこ行ってたの?」
トレンはまるで指定席だと言わんばかりに、私の背に倒した逆さの兜に飛びついて乗る。
『朝の散歩』
「起きたら居ないのでびっくりしたんだから」
ふと、謁見の事を思い出した私は、セフィーさんに聞いた。
「すみません。この子を連れてても平気ですか?」
「問題ありません」
にこやかに彼女は笑っていた。
途中再び、壁だけの廊下になり、暫らく歩く。こうしてみると私の部屋は城のだいぶ外側にあると言う事がわかった。部屋から街に行くより、歩く廊下が長い気がする。そっか謁見の間は、誰か尋ねて来た時のものだから城としては一番外側に近い位置にあって当然よね。
そう私が納得して頷くと、セフィーさんに笑われた。
「先ほどからの百面相は、何かお考え中かしら」
「えっ、そんな顔してました」
「ええ、楽しげに・・・」
恥ずかしいな。ヘヘヘと照れ笑いして頭を掻きながら、別の話題と考える。
「目的地はまだですか」
「もう、目の前ですよ」
そうして開けたドアの中は書斎の様だった。
「おお、アリイ呼び出して悪かったな。ちょっと手が離せなのでな」
王はそう言って、空いている席を指さしてから、再び目の前の山済みの書類から1つ取り目を通すとサインをして、また別の山済みの上に乗せた。それから、私へと視線を向け立ち上がる。
「アリイ。お前には少し経験と視野を広めてほしいと思ってな」
「はあ・・・あっ、はい」
「意見をするにも、此方の事も分からなくては上手く行かないだろう。どの道、あと半年は聞く事もないのだ」
それって早く呼び過ぎたって事じゃ・・・。
「元々その為に試練を受けてもらったのだしな」
ああ、あれ
「我が領内と言う括りはさせてもらうが、自由に見聞きして理解を深めるとよい」
まあ、言われてみると、なっとくだよね。確かに突然訳も分からず呼び出されて意見を聞かせろって言われてもね。
「わかりました」
「何か、必用なものを買うのに必要だろう」
そう言って王は黒いカードを渡してきた。薔薇のマークがそこに在る、それを受け取ってから、クレジットカードみたいなものかなと考えた。
「支払はそれで出来ると思うが、現金が欲しい時は銀行に行ってほしい金額を提示しろ。では下がれ」
王は再び机に向かい書類に目を通していく。私はお辞儀してからカードを持って町へと向かっていった。
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『主』
「あのさ、その主っての辞めない?」
『ならば何と』
「アリイで良いよアリイで、ところで何?」
『何か気配がついてくるのだが・・・』
「いつから?」
『帝都を離れてからだ』
私は「ううぅぅ」と考える。帝都からって事は監視かな?
「多分、それはいいや。問題ないと思うから」
『分かった』
今回の監視役はドーンじゃないんだ。彼だったらトレンが分からない筈ないし『何か』とは言わないだろうから。私達は、いえ私は後方からついて来ると言う何かには気にせず進む事にしだ。
「どうせ監視でしょ。気にしても仕方がないし行きましょ」
テッタの村は帝国領の北部、鬼族との境界に近い位置に存在するが、それでも何とか生活できていたのはさらに北に位置する帝国の軍事拠点である城塞都市バランの存在があったからこそだった。バランには魔族最強と謳われた帝都騎士マキュアを筆頭とした黒騎士の中でも遠距離攻撃を得意とする黒ユリ隊25名が赴任されていた。彼女等は、そう黒ユリ隊は女性のみで構成された部隊で隊長であるマキュアも例外なく女性である。彼女の愛刀セラススは近接武器でありながら多くの魔人共を刈り取り、いつしか魔剣へと変貌した。この世に存在した時より人外の力を有する剣を聖剣と称するなら、多くの魔力を吸い続けやがて魔力の核を持ち人外の力を有する様になった剣を魔剣と呼ぶ。それに対して聖剣は彼等人族に伝わる伝承によれば神々が作ったとされ、どこかの迷宮に姿を現すと言う事になっている。また、聖剣や魔剣に並ぶ邪剣と呼ばれるものがある。それらは伝説級の魔物や亜神の体の一部から取り出されたもので、その1つにヒュドラの鋭い刃のような形であった尻尾の先を切り取り、後に柄と鞘を付けた等が知られている。