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始まりの迷宮

私は偶然助けた少年テッタと手を繋いで歩く、兜は後ろに倒して顔を出したままである。


「・・・そうなんだ。あそこには薬草を取りに行ってたのね」


「うん、森の薬草がとうちゃんの病気に良く効くんだ」


「そっか、そっか」


謎の鎧とは言え皇帝のマーク黒薔薇が敵だとは思ってはいなかったが相手が若いお姉さんと分かって気を許していた。程なく村に到着して歩いて近づくと声をかけられた。


「止まれ」


警戒しているのだろう声をかけて来た男は、少年に声をかける事で対応を判断しようとしている。


「あんちゃん」


少年テッタは彼を見ると手を振って駆け出した。何か走り寄って言葉を交わしていたところへ二人は到着すると挨拶をした。


「はじめましてアリイです。此方がドーンさん」


「ども」


指を2本立てて軽く挨拶してくる彼に、「あんちゃん」と呼ばれた男は頭を下げた。


「噂はかねがね伺っております」


顔を上げた男はは目の前の二人に「あちらは何ですか?」と聞いて来た。それまで全く気がついてなかったドーンは何故自分の索敵能力でも感知できずにいたのか驚き、それを見た。そこに小鬼が立っていた。いや普通の小鬼と雰囲気が違う。それが何なのか直ぐに分かった。そう殺気がまったく感じられない。角も通常より短く、石斧は持ってはいるもののブランと握った手毎下げている。そして何より身動きもせずただ黙って立っていた。その視線には常にアリイを捉えている事ぐらいだ。


「何でしょうね?」


聞かれた筈のアリイは、見つめてくる小鬼に歩いて近づく。


「何か用?」


敵対的でないので異界からきた彼女は問答無用で小鬼は敵と見なす事もなく話しかけた。


『おら。負けた。お前。御主人』


「分かるのか?」


「え」


「こいつの言葉が分かるのか?」


小首をかしげた私にドーンが言い直した。えっ!、小鬼(カレ)の言葉が分かるの私だけなのと疑問に思っていた時指輪を思い出す。そう言えばの言葉も最初、指輪を着けるまでわからなかった事を思い出す。


「私の事を御主人って言ってる」


無抵抗の小鬼を攻撃する気がないので私は「あなたの家に帰りなさい」というと、小鬼はペコリと頭を下げて森の中へと消えて行った。振り返ると溜息混じりにドーンは注意して来た。


「俺はお嬢が異界人だと知っている。だから小鬼を逃がしても他意が無いと見れるが今後は止めておけ」


私は、その意味が分からず困惑した。顔にも出ていたのだろう。


「あれに殺された者は多い。その人にとって大切な誰かの仇を、逃がす者を許せると思うか?」


そこまで言われて私は、もしも少年の救出が間に合わなかっとしたら、そしてその親の目の前で手に掛けた同族、いや親にとっては小鬼の個別判断なんて出来る出来ないに関わらず仇になりうる。逃がした私を含めて。


「わかった。気を付ける」


「まっ、俺としちゃ嫌いじゃないがな」


しょぼくれた彼女を見てドーンは思った。たった今、自分を殺そうとした敵に戦いが終わり優位に立った時、情けをかける。それは絶対強者のみが許される行為だ。憧れる。しかし、力無いものが、それを行えば仇となって帰って来る。恨まれるのもその1つだろうし、敵陣内なら仲間を呼ばれて包囲されるかもしれない。つまり仲間を完全に守り切り、どの様な襲撃にもビクともしない絶対強者・・・俺の理想ではある。現実は難しい例外なく完全に守る事も勝ち続ける事も、故に否定的、いや保身的になる。


「お嬢ちょっといいか」


「ん?」


ドーンさんが何か試したいと言って私を乗せて今は知っている。この馬はドーンさんが口笛を吹いた後に何処からともなく現れた。ひょいと持たれて馬の上に乗せられると私の後ろに乗って来た彼は手綱を引き走り出した。


「どこに行くんですか?」


「ダンジョンだ」


えーと、この世界は魔法があって鬼がいてのでダンジョンと言う事はアレですよね。


「魔物とか居たりする奴ですか?」


「勿論、居ないダンジョンはダンジョンとは言わないな」


で、ですよねぇー。ああ、なんで冒険なんて言ってしまったのでしょうか。そんな事を思案している内に目的地に着いたのかドーンは馬を止めて一人降りると手を差し出した。何と無しにそれを掴むとグイっと引かれ私の体は彼に向かって落ちる。抱かれる様に受け止められてから地面に降ろされた。振り向くと何時の間にか馬は消え失せて、数メートル先に大きな扉が立ちはだかっている事に気がつく。


「行くぞ」


彼の後に付いてく。彼は一人、扉の前で何か唱えた後、重い石が引き摺る音と共に扉が左右に開きその中に青白い炎が自動的につき始めて中の様子が見て取れた。ヅカヅカとまるで勝手知ったる何とやらの様に進む後を遅れないように追った。


「随分と明るいんですね」


「おお、ここは俺達騎士が試練を受ける「始まりの迷宮」だからな色々と手が加えられている」


「ダンジョンに手を加えたって事ですか?」


「まっ、そんな所だ」


只管一本道を真っすぐ歩き続けると少し広い場所とは言っても、謁見の間ほど広くない精々10畳歩かないか。すると手前の方に魔法陣が5つ程、床に発生するとスケルトンが競り上がって来た。盾と剣を持ちズルズルと剣を引き摺る様に向かってくる。「ドーンさん」と声をかけようとすると彼はすかさず目の前の4体をあっという間に斬り捨て、スケルトンは盾と剣だけを残して砕け散って行った。そして1体は私の目の前に立ちはだかっていた。


ちょっ、ちょっと1体残ってますよ。もしもし・・・あっ、ダメだ。彼の目はサドーンの時と同じ目立った。


「ま、まさか私1人で?」


「お嬢、感が良いな」


「いえいえ、ひぇっ」


引き摺っていた剣が持ち上げられ、振りかぶると私目掛けて振り下ろされる。ガキッと咄嗟に盾で受け止める。ズシッとした感触と金属同士が跳ねて互いの武器と防具を弾く。


「よく見ろ、此奴らは動作が遅い」


私は諦め半分、怖さ半分で半ばやけっぱちに自分の剣を振り下ろした。スケルトンの頭めがけて振り下ろされた剣のタングステンで出来た刃は頭蓋骨を陥没させ割る事に成功する。引き戻して相手の攻撃に備えて盾を上げる。いつまでも衝撃が来ないので恐る恐る顔を出してみるとスケルトンの体が崩壊を始めていた。やがて光となって、それは私の胸のルビーへと吸い込まれた。


「まあ、武器の性能に助けられた感はあるが良いだろ」


「あのぉ・・・」


「何だい」


「今、吸い込んだような」


私は胸の薔薇の紋様の中心の大きなルビーを指さした。


「魔力を持つ相手を打ち滅ぼすと、相手の魔力を吸収して蓄積して使えるようになる」


説明を聞く限り蓄えられた魔力は防具の場合、腕力、脚力、素早さ、硬さ等に使う事が出来る。腕力、脚力、素早さは肉体強化に分類されるため素の能力に左右される。元々の筋力100と筋力50に魔力による補助1.5倍が掛かった場合150と75になる。その点硬さは基準が鎧となる。彼女の鎧は軽く硬い鋼の過多さが1.5倍になれば大抵の攻撃にも耐えるだろう。ドーンは魔力をどう分配するか悩んでいた。それは単純に彼女の腕力は非力すぎて補強が必要であり、その点鎧の硬さは足りていた。利点を生かすか?それとも並み程度には戦える様にすべきか?

魔力ポイントを10とするなら、4、2、3、1。腕力、脚力、素早さ、硬さに振れば、現状彼女の能力が、1.4、1.2、1.3、1.1に上昇するだろう。硬さにおいては彼女の不思議な鎧は、それで十分。それで並みの魔族平民程度にはなる筈だ。それでも新米騎士には及ばない。今の彼女の走る早さは、その鎧の軽さからだ。実際同じ程度の軽さの荷物を持たせた新米騎士が鎧を脱げば軽く追い抜く。


「少し待て」


ドーンは彼女の胸の赤い石に手を翳し呪文を唱えて設定を施す。暫らくは様子見だな。この始まりの迷宮は、そもそも5体のスケルトンしか現れない。新米騎士の登竜門的な試練として熟す為に人工的に作られたダンジョンだからだ。その後、試した結果彼女は2体までのスケルトンには勝つものの3体では押し負ける結果となった。村人以上騎士以下という所という評価で終わる。


「そろそろ戻るぞ」


「あっ、はい」


やっと城に帰れると思い彼女は、疲労が溜まった手足を引き摺る様に地上へと向かった。時間にして2時間弱、たったそれだけで、地上が懐かしいと思った。なんか空気も美味しく感じる。兜を後ろに倒して顔を出すと深呼吸。「ぷふぁ~」生き返るぜと思っていると笑われた。彼も兜を背に倒して顔を出している。まあ、こうして黙っていれば様になる奴ではある。


「さてと次は足だな」


えっ、城に戻るんじゃ・・・。ねぇ、さっき言ったよね。と此方の意図を察したのか彼はニヤニヤしながら


「歩いて帰るには、遠いだろ」


ちょっと待って馬はどうした。あんたの馬は!


「お嬢。俺の馬で帰ればいいって顔してるぜ、でも駄目だ呼び出すには今日は制限回数を超えている」


なっ、なんですとぉ~。ん?制限回数って何?あれってもしかして魔法の類な訳。


「丁度、近くに魔獣もいるし」


「あの、魔獣って友好的なんですか」


「いや、どちらかと言えば視界に入り次第攻撃してくるね」


それって敵対してるって事じゃないですか


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