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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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少女の傷跡

 キリガリアの遺臣の血族。

 それが意味する事はただ一つ。世界各地に散らばる故郷を持たぬ民達のを纏めることの出来る力を有しているということだ。

 彼女がその姿を現し、アル・べサニア奪還を旗印に声を上げればすぐさま数千の民が集うだろう。

 

 ……だからこそ、彼女は身とその名をひた隠しにしていたのであろう。

 そんな事をすれば戦争になりかねないし、いくら兵を集めてもアル・べサニアを支配する異人と亜人の軍には敵うはずもない。

 士気高く、信仰心に燃え、大陸諸国とは隔絶した技術を持っていたキリガリアの兵達ですら相手にもならなかったのだ。にわか仕立ての兵を集めた所でどうにかなるわけがあるまい。


 だが、国と国同士の戦争であるとするのなら話は別だ。

 数千の軍、そして大陸全土に張り巡らされたネットワーク。それに豊富な資金と技術。それが手に入るとするならば……


「だから、エゼリア公は『黒の王冠』と手を組んだのか」

「……はい。そして、それが故に彼らに殺されました。彼らが求めたのは、資金と表の世界に干渉する為の隠れ蓑。祖父が求めたのは彼らの有する技術だけであり、彼らの思想……大陸諸国に対する復讐心は共有していませんでした。あくまで彼が成し遂げたかった事は、王の復活。それによる復讐ではなかったのです」

「コントロールできないと判断した事により、殺されたか」


 シルヴィアは頷く。


「エゼリア公が『黒の王冠』を始めとする〝闇の世界〟の存在と関わるという事がどれだけ重大であるのか、それを理解していたとはとても思えませんね。彼らを利用しようなどと、大それた事を……」

「アザリアさん、流石にそれは……」


 キルシュが戸惑うほどに厳しい口調で、吐き捨てるように言うアザリア。彼女としても思う所があるのだろう。

 だが、彼女の目から怒りの色は消えていた。シルヴィアの喉元に突きつけていた刃を下ろし、警戒しつつも諦めたように俺に判断を仰ぐ表情を見せる。

 それに頷いて見せると、更に数歩下がった。 


「そう。そのとおりです。お祖父様は、彼らの事など何一つとして知らなかった。知っていたように思わされていただけ……」


 シルヴィアは、己の腹部を指さしながら、言う。

 二人に分かる様に彼女は腹部の傷を晒して見せるシルヴィア。痛々しい傷跡は今もなお完治していないかのように赤く腫れ上がっている。

 それを見た瞬間にキルシュの目には驚きの色が浮かぶ。これほどの傷跡を残すほどの強力な魔法が使われたという事が、この小さな少女にはわかったのだ。


「この不滅の炎(イモータル・ファイア)によって付けられた傷を見る度に私はあの日の事を思い出します。全てが奪われた、あの日の事を」

「それは……」

「小さな魔術師さんは知っているでしょう? キリガリアの秘術の一つであり、大陸諸国……この大陸の国々では禁術とされている魔術。それを使われた者の末路がこれという事」


 その炎は体の表層を焼くに留まらない。水の魔術でも簡単に消すことが出来ず、焼かれた者の体の内に熱を残し、生き延びる事が出来たとしても長い間苦しめ続ける。

 だからこそ、不滅の名が与えられた。

 敵を苦しめる事だけに特化した魔術であり、禁術とされたのも頷ける。


「この傷は、お祖父様とお祖母様の屋敷を襲った時に付けられた物です。彼らはお祖父様の前で私を苦しめた挙げ句に殺し、屋敷に火を放ちました。私はお祖母様の最後の力――あの方は、実に優秀な魔術師でした――により、私はこの場所へと転送されてきたのです。」

「敵は直接手を下しに来たという事なのですか? 彼らが? エゼリア公ほどの要人であったなら、警護も十分だった筈ですが……」

「見せしめだろう。自分たちに逆らえばどうなるかを内外に示す。奴らがやりそうな事だよ」


 小貴族であるベルンハルト家ですら今は数人の警護兵が付くようになったし、メルの実家では魔術師まで含めた小隊が常に輪番を組んで巡回している。彼らの目的は敵を倒す事ではなく、主人が逃げるまでの時間を稼ぐ事だ。

 彼らが数秒敵を足止めすれば、主人達が危機を感づく事が出来る。彼らが一分足止めできれば、主人達が逃げる事が出来る。数分戦ったならば、主人達は屋敷の外へと逃れる事が出来るであろう。

 その役目すら果たせずに、主人を含めた一家が捕縛されてしまう。それは彼らが相応の実力を有しているかという事の証左である。


 それをベルンハルト家で行うのは、アザリアの役目だ。窮地となれば文字通り彼女は命を科してでも敵を食い止め、父上達を逃がそうとするだろう。

 エゼリア公達の警護の者達にそれほどの忠誠心が無くとも、数が揃っていれば危機を知らせる事はそう難しくもない。

 話を聞けばエゼリア公の妻、シルヴィアの祖母は魔術師であったという。という事は応戦する事も可能であったはずだ。


 それが、破れた。

 つまりは、『黒の王冠』の中でも上位に属する者が直接手を下したに違いない。


「はい。それだけ必死だったのでしょう。金色の眼をした男と、不気味なまでに存在感の無い白銀の髪の少女。その二人が妙に印象に残っています」


 一瞬、それを語る時に口元を歪めるシルヴィア。

 普段の彼女からは想像もつかない、怒り。


「優しかったお祖父様。父と母を失った私を実子同然に育ててくださったお祖母様。彼らを『黒の王冠』は拷問の末に殺したのです。最大限の苦痛を与え、警告としてその亡骸をも侮辱し貶めたのです。奴らは二人の亡骸を切り裂き、縫い合わせ……」


 シルヴィアはそれ以上を語ろうとはしない。語ることが出来ない。


 エゼリア公シュペンハイム。キリガリア遺臣としてこの国に流れ着いた彼は、前王の相談役としてキリガリアの人脈を活かす事により商業ネットワークの形成に尽力。

 河川を利用した水運業を生業とするこの国の豊かさは彼の力による所が大きい。


 前王が彼を深く信頼していた事はこの地下施設を見れば明らかだ。

 何か怪しげな事を行っていて彼らの耳に入らぬ訳が無い。それを黙認していたという事なのだろう。

 ……つまりは、彼の『黒の王冠』との繋がりも受け入れたという事である。


 が、『黒の王冠』は彼を殺した。


 エゼリア公が利用しようとして失敗した、俺は今そう考えていた。

 だが、違うのでは無いか?

 彼らは既に根を張り終えた。だからこそ不必要になったエゼリア公を切り捨てた。そう理解するのが正しいんじゃないだろうか。

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