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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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継承者


 俺は朦朧とした顔つきの首だけコーネリアを軽く小突く。

 ……目立った反応は無い。とろんとした目はほぼ半分白目だけになり、右目は瞼がピクピクと動いているだけだ。


 俺は問いかける。


「お前はここで何をしていた?」

「私は、生身を捨てさせられ、研究を行っていた。禁忌に触れてしまったから私は消されてしまった。惨殺されるか、それとも知識を活かし、“彼ら”の為に働くか。その二択で、私は後者を選び、この地に留まってきた」

「自らの身を封じ込めたのか?」

「そうだ……。そこの祭壇の下に、定命の者であった時の私の頭蓋骨が埋め込まれている」


 見れば、確かに小箱の中に血で紋が描かれた頭蓋骨が収まっている。

 なるほど。魔力を込めた場所に己の身を縛り付けたか。

 この部屋中に書き込まれた魔法陣は彼女の魂をこの場に縛り付ける為の物なのだろう。


 となれば、協力者が居る。この形式の降霊術は一人では行えない。


「何を研究していた?」

「命をこの世に甦らせる事だ。死した時のままの身で、それも魂も記憶も、汚されることなく」


 案の定、だ。

 あれだけの死体を産み出してる時点でおかしくは無かったが。


「どれほどの成果が得られた?」

「……数十年かけ、数百の命を糧に研究を行ってきた。これで、ようやく頂上すら見えぬ高い山の麓にたどり着いた所だ」

「キリガリアの研究成果があったろう」

「あんな物は、駄目だ。全てが足りない。それに……」


 嘆息するように、細切れの呼吸を行うコーネリアの首。

 一見……しなくてもかなり不気味な光景だ。


「言語が違う。記録は継ぎ接ぎ、肝心な所は覆い隠されている。あんな物が役に立つ筈は……。いや、奴らが力を入れていた生体縫合技術だけは役に立ったな」


 鳥の鳴き声のような詰まった音を切り落とされた喉から鳴らし、笑い顔を見せるコーネリア。

 そこに、高潔な偉人としての姿はどこにもない。

 本来死している筈の者の魂が、肉体という鎧から外れこの世に留まる事によって、その魂はエーテルやそれに媒介される魔法の影響を受けやすくなる。そして、気が触れていくのだ。


 コーネリアはもう手遅れであろう。偽りの肉の鎧に身を隠そうとも、その魂の腐敗は隠せない。

 そして、見た所彼女は既に……


「私に何を求めている、小僧。回りくどい質問は止めて、それを示せ」

「あんたの研究成果、その全てはどこに保管されている?」

「おお、おお! 私からそれを全て奪い去ろうというのか!」

「ウォルター様、何を……」


 俺はアザリアを制する。

 そして、はっきりとコーネリアに告げた。


「そうだ。それを寄越せ」

「ただで貴様ごときにくれてやるとでも? 聞いてみたらどうだ、あそこで物漁りをしているお前のお仲間にな!」


 テミスとブレヴィルが本棚やデスクを引っ掻き回している姿が、コーネリアの濁った瞳に映っている。嫌悪を隠さない表情と共に。

 しかし当の本人達はこちらで行われている事に興味が無いようで、部屋の中の物色を続けている。何か金目の物や珍しい物が無いか、特にこんな場所であればマジックアイテムが無いだろうかという事で喜んで物漁りをしている。

 特にブレヴィルは次から次へと麻袋の中に戸棚の中のガラス瓶を粗雑に詰め込んでいく。かなりのホクホク顔である。


「アレグリアスの神薬にボスキニの毒消しか。なかなかの物だな」

「この本とこの本、それにこの本は高く売れそ……うわ、呪いの書だ」


 地面に何かを叩きつける音と、何かが燃え上がる音が聞こえたが気にしない事にした。どうにかなるだろう。

 それよりも目的はこっちだ。コーネリアを片付けなければならない。


「お前は敗者だ。お前の物は全て奪い去られる。物品も、研究成果も、そして偽りの命も。何一つとして例外は無い。お前だってこの迷宮に迷い込んだ哀れな探索者達の命を奪い去ってきたのだから因果応報だ」

「私には目的があった! あんな浅ましい者達とは違う目的が! 一緒にするな!」

「そんな素晴らしい研究を誰に頼まれてやってたんだ? こんなご立派な施設まで与えられて」


 俺がそう言った途端に固まるコーネリア。俺から目を背けようと眼球を動かしたので、俺は顔を背けた方へと動かし、彼女の目を直視しながらもう一度問いかける。


「もう一度聞く。誰に命じられてこんな研究を行っていた?」

「それは、言えない……。私が、おお、それを言うわけには……」

「キルシュ、もう一本ぶち込め」

「ええ」


 再び現れた蜘蛛がより深く、牙を食い込ませる。

 牙が食い込んだ所から、紫色の泡が沸き立つ。かなりの量を入れたのが目視出来る。

 人間なら致死量ではないだろうか。人間じゃないからいいか。

 

「誰に命じられた?」

「私は、ルージェロ伯に、直接命令を、受けた」

「ルージェロ伯ね。確かに彼は王党派ではあった筈だが、彼にこんな大規模な施設を建築出来る筈が無いだろうに。それに彼はとっくの昔に死んでる」


 コーネリアはどうにも歯切れが悪い。背後に隠れているのは王家か『黒の王冠』なのはわかってるのでそこに繋がる人物を知りたいだけなのだが。

 何を隠す必要があるのだろうか。


「もう良いでしょう。後は私が全てを話し、貴方に全てを引き渡します。これ以上彼女を、哀れなコーネリアを引き留めないで下さい」

「アザリア」


 そう言いながらシルヴィアが動いた瞬間。彼女は一瞬油断した。その瞬間に、アザリアは己の刃を彼女の喉元に突きつけていた。

 流石に動揺の色を隠せないシルヴィア。頬を冷や汗が伝い、落ちる。それとは対照的に表情一つ変えずに、さらに強く銀色の刃を彼女の喉元に近づけ、背の方向へと足を向けるアザリア。 


「これは……」

「洗いざらい話して貰う、どんな手段を使ってでもな」

「おやめ下さい!」


 彼女を庇い立てする為に叫ぶコーネリア。

 だが、シルヴィアは残念そうに首を横に振るばかり。何もするな、という意思表示なのだろう。


「私こそが、キリガリア遺臣エゼリア公の孫娘にして、この地の継承者、そして禁忌の守護者、シルヴィア・ウィンドラス。もうこうなっては隠し立ては不要。全てをお話しましょう」


 そう言って、彼女は語り始める。


「この地においてコーネリアに研究を命じたのは私の祖父、エゼリア公。彼は資産を活かし、流浪の身となっていた民達と共にこの王国へと流れ付きました。彼は、その真の目的を隠しながらこの王国に深く根付き、極秘裏にこの研究所を創り上げながら己が持ち出す事が出来た研究資産を隠しました。彼の真の目的は、王を蘇らせる事……。キリガリヤの血を再び現世に呼び戻す事」

「余程夢を見ていたようだな、エゼリア公は」

「今となっては夢物語なのでしょう。ですが、彼はそれを固く信じていた。そう伝え聞いて居ます」

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