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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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呪われた研究

 研究所のあちこちには、人体実験を行っていた跡と思われる器具や乾いた血の跡がこびり付いた壁など、生々しい痕跡が残っている。

 右を見れば、透明なケースの中には緑色に変色した何かの液体が充満し、人とも獣とも似つかぬ一つ目の生物がぷかぷかと揺られている。

 左を見れば、ベッドに繋がれたまま朽ち果てた白骨死体。


 キルシュの教育には宜しくないように思える。師匠、なんでこんな所に来させたんですか……

 

「大丈夫か、キルシュ?」

「はい、だ、大丈夫です。なんとか……」


 やはり元気が無い。仕方なくはあるが。

 先程姿を見せた亡霊が再び姿を見せる事は無かった。想像よりもこの研究所は奥深いらしい。

 

 そして辿り着いた巨大な両開きの扉の前。

 

「クソ、重いな」

「一二の、三!」


 俺とブレヴィルが同時に引っ張り、無理やり開けると部屋の中から凄まじい臭気が流れ出す。

 その匂いが鼻に付いた途端に、背筋が凍る。この部屋の中に満ちているのは毒の瘴気だ。


「毒だ! 息を止めろ!」


 俺は後ろを向き、叫ぶ。

 俺だけなら容易に逃れられるだろうが、それでは仲間に被害が及ぶ。幸いシルヴィアがその手の治療には長けているようなので、俺は頼ることにした。

 声を出した時に僅かばかり瘴気を吸い込んでしまい、手先に僅かな痺れを感じた所で背後に控えていたシルヴィアの声が聞こえた。

 

「この中へ!」


 シルヴィアの作り上げた結界の中に逃れ、何とか息をする事が出来た。膝を付き、一息整えた所で再び立ち上がる。

 危ない所だった。即効性の毒だ。見た所部屋の中の瘴気がかなり濃いというのもあるだろうが……


「大丈夫ですか?」

「……なんとか」


 アザリアに答え、手先を握ったり開いたりしてみる。吸い込んだのはごく微量だったおかげで何の後遺症もない。ギリギリセーフだ。

 そして、部屋の中を見通す。


 窓の無いドームが天井を覆う広い部屋の中には、山のようにうず高く死体が積み上げられていた。

 臭気の原因はこれだろう。見れば、部屋の奥には死体が詰め込まれたトロッコとレールが通路の先へと続いている。

 どうやらこの先はまた別の区画となっているようだ。


 ここは死体の集積地か何かなのだろう。これまでの研究施設で散々見受けられた器具や本棚などは一切見受けられず、殺風景で広い部屋にただ死体が積み上げられているだけだ。

 

「流石に気分が悪くなるな」

「どこからこれだけの死体を集めたのでしょうか……」


 アザリアの言葉も最もだ。100や200では済まない程の死体が積み重ねられている。しかし、そのどれもがこれまでの冒険者たちの成れの果てと言うべきスケルトンとは違い、一糸まとわぬ姿で粗雑に扱われている。

 底の方の腐敗した死体と違い、天辺の辺りは持ち込まれたばかりなのか、どこか灰色がかった皮膚を生々しく保っている。


 彼らと、この死体の違いは何だ?  

 気が進まないが、この死体をもっと詳しく調べなければならない。

 その時、爆発するように死体の山が吹き飛んだ。何かがその下に潜んでいたのだ。

 

「っく……」

「なんだ、これは」


 死体の山の中から現れたのは、巨人のゾンビだ。皮膚は継ぎ接ぎだらけで所々から肉を破って白い骨が突き出し、巨腕のあちこちからは小さな腕が小枝のように垂れ下がっている。

 白く濁った瞳が俺たちを見据え、毒々しい吐息を吐き出して敵意を示している。どうやらこのゾンビは番人とでもいうべき存在のようだ。


「!?」


 俺はその姿に思わずのけぞる。

 これがコーネリアの研究成果である事は明らかだ。

 歓迎している様子は全く見受けられないので、応戦するしか無い。


「死霊魔術に死体の冒涜。教会の連中が泡を吹いて倒れそうな光景ですね」

「はん、もっと酷い光景を見たことがあるさ。世間ってのは案外醜悪な光景に満ちてるもんさ」

「同感です。奇怪な虫や歪められた獣に比べれば、素性が判る分まだ可愛げがあります」


 手練れであるテミスとブレヴィルは意気揚々と武器を構える。

 彼らの言う通り、モンスターというのは奇怪な見た目をした物が大量に存在している。確かに元が何であるのかを察することが出来る分、このゾンビはマシなのかもしれない。

 

「結界の範囲を広げます! 少し匂いがするでしょうが、我慢を!」


 シルヴィアの言葉の後だった。巨人ゾンビは腕を振り回し、死体を撒き散らしながら俺たちの元へと突進してくる。

 一撃の元に勝負を決めるつもりなのだろう。


「テミス、足を止めるぞ!」

「! 了解!」


 俺は腕を避けながら足元へと潜り込みつつ、素早く二度足を切りつける。背後ではテミスが飛び上がり、ゾンビの喉元に向けて一撃を与えていた。

 足を傷つけられ、喉に一撃を与えられたゾンビは足を止める。


「行きます! パルヴァネ!」


 キルシュがスタッフを地面に叩きつけながら叫ぶ。

 その直後、地面から突き上がった杭がゾンビの胸を貫いた。図体がデカいだけに外すことはない。

 さらに、杭から放たれた蔦がゾンビの体を拘束していく!

 

「グオオオオオッッッッッ!!!」


 ゾンビが身悶えしながら、蔦を引き剥がそうと暴れまわっている。

 トドメだ。

 俺は首を目掛けて飛び上がり、刃を振るう。


「オオオオッ!」


 俺の魔力を継ぎ足される事によって長さを増した魔法剣の刀身が、滑るように腐肉を通り抜けた。

 ゾンビは叫び、身悶えを一つした後に手を首元へと向け……

 滑り落ちた。首は両断され、1メートルはある巨大な首が地面に転げ落ち、断面からはゼリー状の緑色の血が流れ出る。


 剣を収めながら、俺は飛び散った死体の一つに近寄り、眺めていく。

 そして、俺の疑念が事実であった事に、すぐに気がついた。


「こいつら、人間じゃない」

「? どう見ても、こいつらは人間じゃ……」


 俺は飛び散った死体を切り裂いて見せる。

 すると、流れ出たのは赤い血でなく、先程のゾンビと同じ緑色の血。


 人を模していながら、人ではない。

 この場に転がっていたのは、出来損ないの肉人形。そうとしか言いようのない物だったのだ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 ゾンビを倒し、更に先へと進む。

 レールに沿って行けば更に何かがあるであろうという予測の元、暗い坑道に似た道を歩いていく。

 

 その中で、テミスが口を開く。


「コーネリアが何をやっていたのか。なんとなく理解出来てきた」

「ああ。命に関する研究だろうな。彼女は、人を作り出そうとしてる。それが彼女自身の意思によるものなのか、それとも誰かに強制されているのかは分からないけど」


 魔術によってこの世に魂を縛り付けてでも行わなければならない研究。

 それが王国の施設の地下で行われている。

 ……つまり、相当大規模な計画だという事だ。国自体がこの計画に関わっている。下手をすれば、国王自身が。


 このローメニア王国は現国王ロンバルド12世の元、大陸の中で順調な歩みを遂げてきた。

 しかし、一気に伸長する事になったのは二十年戦争と呼ばれる内乱とその後の亜大陸からの異人達の侵攻が切っ掛けである。

 だからこそ、この国は『黒の王冠』と深く関わりがある。

 ――『黒の王冠』。忌まわしい名を持つあの組織と。

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