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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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ダンジョンの入り口で

 俺は、シルヴィアに向き合い、冷たく言い放つ。

 

「わかった。同行しても良い。だけども、背中から斬りつけるような事はしないでくれよ」

「まさか! そんなことをする必要が無いじゃないでしょうに」


 どこまで本気で言っているのやら。

 まともに相手にする事なく、俺はアザリアに小声で話し掛ける。


「見張ってくれ」

「言われずとも。始末する必要は……」

「今の所は良い。ただ、怪しい動きを見せるまでは動くな」

「手緩いですね」


 手厳しいアザリアの言葉に手をひらひらとさせて答える俺。

 残った仲間たちが怪訝そうに俺を見ている。そう内緒話をする訳にも行かない。


「アンタらの事情は知らんが……」

「ん、どうしたんです?」

「仕事に差し障りが無い事だけを祈るよ」


 ブレヴィルは苦笑しながら俺とシルヴィアを見る。どこか余裕を感じるのは、なんだかんだで豊かな経験故だろう。


「早く行きましょう。私も仲間たちを振り切ってここに来ています。彼らに見つかると厄介な事になると思いますので」


 シルヴィアはそう言って先導して図書館の中へと入っていく。

 

「あの女は何を考えているのでしょう。全く」

「会長様の考える事を下々の者が理解しようとする事自体が無駄な行いなんだろうさ」


 俺がそう言うと、苦笑で答えるメル。

 そして彼女は、俺に体を投げ出すように抱きつきながら、小さな声で言う。


「気を付けて、ウォルター。どうか、無事で戻ってきて」

「……ああ、大丈夫さ」


 子供の様に俺の服にしがみつくメルをなんとか引き剥がして、俺は図書館へと足を踏み出した。


「彼女はもう先に向かっている様ですね」


 月明かりが差し込む入り口ホールに、シルヴィアの姿は見えない。

 俺たちを置いて奥に続く閲覧室、そしてその向こうの書庫の方へと向かったのだろう。


 手提げのランタンに火を灯し、明かりとする。

 明かりによって鮮明に色が浮かび上がった赤い絨毯の引かれた道に沿って書庫へと向かうと、見慣れた光景が目に入ってきた。

 ステアマルク学院の大図書館だ。昼間は生徒達を初めとして街の人々が多く行き交うこの図書館の中も、今の時刻はひっそりと静まり返っている。

 

 二メートル程の高さの本棚が果てがない様な程に長く、そして均一に並ぶこの光景は昼間ならともかく、この時間帯だと迷宮に迷い込んでしまったかのように思える。

 キルシュとテミスの二人は図書館の中を目を丸くして眺めていた。


「うわあ、すごい……」

「師匠のところの方が凄いだろ、あそこは空間からしておかしいし」

「蔵書量が違います! それに、お師匠様のところの本棚には私の読みたいような、本は全然……あ、これ読みたかった奴!」


 赤い背表紙の本を手にとって、中身を読もうとしているキルシュ。俺がそれを取り上げると名残惜しそうにしていた。

 二人の男女が抱き合っている姿が描かれている表紙からすると、恋愛ものだろうか。

 確かに、チェルナ―師のところにはありそうもないジャンルの本だ。


 俺たちがやり取りしているのを、興味深そうに眺めているテミス。


「その、聞きそびれてしまったのですが、そちらの方は?」

「あ、あの、私は、キルシュ・ベルンハルトです」

「私はテミス・ウルビア。君のような子供がこんな事をするのに疑問を抱いていたのだが、妹さんだったか」

「妹、妹に見えますか!?」


 突如テミスの手を取るキルシュ。少し気圧された様子で彼女を見るテミス。

 いきなりの行動に戸惑っているようだ。


「親しげな態度と同じ名字、妹以外の何だと言うんだ?」

「養子ですよ。もう随分と長い付き合いになるんですけどね」

「ウォルターさん、言わなくていいのに!」

 

 妹と呼ばれるのをどこか楽しんでいたのだろう。顔を赤くして怒るキルシュ。


「悪かったよ。でもキルシュもエレオノーラと変わらない俺の可愛い妹だ。産まれがどうであろうとね」

「むう……」


 褒めたが、それでもまだご機嫌斜めの様子を見せているキルシュ。ふくれっ面のまま先へと歩いていってしまった。


「なるほどな、なるほど…… 本当に君は興味深いな、ウォルター。今回の仕事も受けて正解だった」

「感謝してます。受けてもらえなかったらどうしようかと思ってましたから」

「得体の知れ無さよりも君への興味、そしてこの場所への興味が勝ったよ。私の予想通り、随分とおどろおどろしい雰囲気を感じる」

「……ですね」


 どうやらこの先の先、書庫の方から感じる妙な威圧感をテミスも感じていたようだ。俺の気の所為で無かった事に安堵すると同時に、何が待ち受けているのかという嫌な想像が頭を過る。


「まあ、いざという時でも君達位は逃してみせるさ。悔しいが、あのご老体も中々やるようだ」

 

 そう言って顎で指し示したのは、手にボウガンを握りしめたブレヴィルだ。既に表情は固く、一歩一歩を確かめるように歩いている。その立ち振舞いにスキは一切見受けられない。

 そこからは、言葉もなく進んでいった。


 そして、暗い書庫の一番最奥部、ホコリまみれの本が詰め込まれた本棚と本棚の間に、目指していた扉は存在していた。

 探していなければ、通り過ぎてしまうほどに存在感の無い扉だった。

 木製の汚れた扉は、人一人がようやく通り抜けられるであろう大きさの片開き扉。ここがダンジョンの入り口などとは、とても思えない。

 

 しかし、俺にはこの先に待ち受けている物が何であるかが分かる。

 導かれるように小さな鍵穴に鍵を差し込み、捻る。すると小さな解錠音とともに扉は開け放たれた。

 扉の向こうには地の底へと続いているかのように見える長く暗い階段がどこまでも広がっている。


「さて、行くか」


 俺は階段に向けて一歩踏み出そうとする。しかし、無理やり肩を掴まれて引き戻された。

 ブレヴィルだ。


「俺が先行する。罠の有無を確かめたい」

「あ、ああ」

「そして嬢ちゃん。アンタが俺の後ろから来い」


 ブレヴィルがそう言って指し示したのは、シルヴィアだった。

 

「アンタ、魔法が使えるんだろ? 俺はそっち方面はまるっきりダメでな。アンタが近くに居てくれると助かる」

「……はい」


 シルヴィアは渋々ブレヴィルに続いて階段へと入り込んでいく。彼はああ言っていたが、俺から引き離す為の措置だろう。

 彼なりに気を使ったという事なのだろうか。


「ウォルター様、私どもも行きましょう」


 アザリア、テミスの後に続いて結局五番目の入場となった俺。

 すっかり興が削がれたが、安全ではあるのは確かだ。

 そう慰めながらキルシュと共に階段を下っていく。

 

 階段の先に広がる暗闇の向こうに何かの気配を感じとる事は出来るが、まだ近くはない。

 そう余裕を感じていた時だった。


「あれ、皆が」


 キルシュの視線の先には、四人が階段の途中で突然立ち止まっていた。四人は一様に渋い表情をして、暗闇の向こう側を眺めている。

 ランプの明かりすら闇に吸い込まれていくような錯覚に陥る。

  


「何があった?」

「先がありません」

「……は?」

「言った通りだ。この階段はどこまでも続いている。というよりは、我々が同じところをグルグルと堂々巡りをさせられていると言うべきか」


 つまり、無限ループしてるという訳か。俺は振り返り、階段を登っていく。

 随分と下ってきたのでもう入ってきた入り口を見通すことも出来ないほどに深い闇が広がっている。その闇に向けて足を進める……が。

 

「なるほどな、確かにループしてる」


 すぐにぼんやりとした明かりが階段の向こう側に浮かび上がる。俺以外の五人だ。

 

「どうやら戻ることも出来ないみたいだな」

「先に進む方法を探さなければならない、という事ですね」

「どこかにスイッチかなにかが隠されているのでしょうか?」


 アザリアは壁を探り始める。

 それを切っ掛けとして、それぞれが思い思いの方法で先への道を探し始めた。

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