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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第一章 幼少期編
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令嬢に悪戯を


メルキュール・フランソワーズ・スヴォエ。前のウォルターとしての人生で散々悩ませられた相手だ。仲間たちより数段劣っており、没落貴族という格好の攻撃材料があった俺は、彼女とその取り巻きに散々辛酸を嘗めさせられた思い出しか無い。

 暇があれば俺に付き纏い、小馬鹿にした口調で散々に揶揄された挙句にこちらが反撃しようものなら、幾倍にして返してくる嫌な女だ。


 血筋に裏打ちされた高い選民思想、よく分からないイェスマンの取り巻きに囲まれ、意味のない絢爛とした格好をして甲高い笑い声を上げるのがクセという分かり易いまでの悪役の令嬢。

 もう性格が歪みきっているのがあの憎ったらしい目元を見ればよく分かる。

 

「随分と小さく可愛らしいお屋敷ですのね! 使用人達の屋敷かと思いましたわ!」

「はあ……、私としても、スヴォエ様とは比べ物にならない小さな領地でして……」

「比べるのも失礼だわ! こんなしょぼくれた場所と私どもの広大かつ優雅な領地を!」


 俺と同い年である筈なのに、完全に上から目線で父を叱りつけているメルキュール。頭を下げ続けている父。

 上司に頭を下げ続けていた俺のようだ。ホント、なんだかなあ……

 父はメルキュールの対処に苦慮している様子が見て取れる。父親は娘が何を言おうとお構いなしと言った様子で、口元の髭をしきりに弄っている。あの子にして、あの親あり、という事か。


 将来的にはどういう手段で辱めてやろうか。今から沸々と怒りが腹の中で滾ってくるのを感じる。

 能力的には対した事も無いのに、家柄と金、そして取り巻きの力で全てをゴリ押しするスタイルだった筈だ。

 今の俺なら、なんてことはない相手。だが、付属物が厄介だ。


 そんな事を考えている内に、彼らは家の中へと入ってくる。またメルキュールの無駄にデカい声が聞こえる。


「何ですの、この汚い家は! 廃墟じゃあるまいし! 私どもの納屋の方が余程綺麗でしてよ!」


 前言撤回。将来まで待つ必要はない。

 俺のやり方でたっぷりと歓迎してやることにしよう。


 俺はアホな子供のフリをしつつ、顔を見せる。

 貴族の子供として、最低限のマナーを払いながら。


「こんにちは!」


 当然、メルキュールは顔を顰めてこっちを見る。既に見下しているベルンハルト伯の子供など、彼女としては塵芥よりランクが下の存在だろう。


「君、どこから来たの? 随分と元気そうな子だね! その洋服は何? その手に持っている綺麗な扇子見せてよ!」

「貴方、何ですの!」


 俺は目を爛々と輝かせながら彼女ににじり寄っていく。それだけで彼女が威嚇してくるが、それで引き下がるような俺ではない。


「僕はウォルター、君のお名前は?」

「ち、近寄らないで下さいまし!」


 明らかな拒絶の意を示している彼女に対して、無邪気な子供らしくガンガン距離を詰めていく。


「良い機会だ、少しばかり遊んでもらうと良い。私はベルンハルト伯と少しお話があるからね」


 父からも突き放されたメルキュールは、絶望に満ちた表情となる。

 すかさず俺はトドメを刺すように言う。


「じゃあ、あっちで遊ぼうよ! 面白い物があるんだ!」

「……」


 父に逆らうことも出来ず、俺に渋々付いて来るメルキュール。ものすごい形相で俺を睨みつけている。

 もうこの時点で俺は笑いを堪えている。


「汚い、狭い、こんな家によく住めますのね」

「へえ、君の家は随分と広いんだね、そんな事を言うなんて」

「そうですのよ、私の住む家は、このローメニア王国でも随一の贅を尽くした建築で……」


 適当に自慢話をしているメルキュールを無視して、俺は厨房の奥へと向かっていく。確か、そこに巣があった筈だ。

 忙しそうに動き回っている使用人達の横をすり抜け、勝手口から外に出ると裏庭が広がっている。そこの大きな木には、ブランコが結い付けられている。

 俺はそれを指し示した。


「ほら、あのブランコ! 楽しいんだよ」


 俺がそう言うと、メルキュールは鼻で笑う。

 随分と低レベルな遊びをしているのね、と言いたげなのが表情だけで分かる。

 しかし、所詮は子供。仕方ないという装いでブランコの方へと向かっていき、座った。

 

 その間に俺は、悪戯の仕込みを済ませていく。厨房からくすねてきたチーズとパンを撒き散らすと、可愛らしいネズミが壁に空いた隙間から姿を見せる。

 そう、メルキュールはネズミが大の苦手なのだ。前世の学校時代でも、さんざんネズミで大騒ぎをしていた。


「何をしているんですの」

「うん?」

「私を押しなさい。言われないと分からないの?」


 どこまでお嬢様気質なんだか。仕方が無いので弱々しく押してやる事にした。それもネズミが姿を見せるまでの辛抱だ。

 そして、遂にネズミが姿を見せた。その姿を見た途端に、メルキュールは悲鳴を上げる。それと同時に強く彼女の背を押す。


「キャアアアアアアアアア!!!」


 甲高い悲鳴を上げるメルキュール。だが、無情にもブランコは揺れ続けている。

 その彼女の足元をチョロチョロと可愛く走り回るネズミたち。


「下ろし、下ろして! 下ろしてくださいまし!」


 俺は、聞こえなかったフリをして、もう一度強く押そうとした。

 しかし、その前に彼女は飛び降りて逃げ出していった。前の人生でも見ることの無かったというか、悪役令嬢としてはイメージの出来ないほどの俊敏さだ。

 俺は彼女を笑いながら追いかけていく。


「おーい、待ってよー!」

「嫌っ!!!」


 そりゃそうだろう。

 失笑しながら、厨房に駆け込んだ彼女の後を追う。

 そして、ダイニングホールにたどり着いた時点で、彼女は振り向き、俺に対して恐怖の表情を浮かべながら叫ぶ。


「近寄らないで下さいまし! 汚らわしい! この、クズで下品で最低の男!」

「なんで怒ってるのかなあ」


 俺がもう一歩近づいた途端だった。足元が突然爆発する。

 何かと顔を顰めた俺を見て、彼女が勝ち誇った笑みを浮かべながら、口元に手を当てる。いつものあの女の仕草だ。


「私は、魔法がもう使えますのよ! 貴方の様な、才能も無さそうな貧乏貴族では想像も出来ないでしょうけど!」

「俺も魔法を使えるよ、ほら」


 そう言って、俺は掌の上に凝縮させた光を点滅させる。まだ習っていないが、前世で覚えた技術だ。このくらいの事は平気でできる。

 しかし、それが悪かった。それを見た彼女の瞳からは涙が溢れ出し、地団駄を踏む。


「こんの……!劣等種のくせに!」

 

 そして、俺に対して指を指し示す。攻撃魔法を使うつもりだ。

 俺は身構え、防御魔法を使う準備をした。だが、いつまで経っても魔法は発動しない。


「……?」

 

 彼女の表情が一変した。そして、頭上で何かが爆発した。

 視線を上に向ける。天井からぶら下がっているシャンデリアが砕け、その破片が飛び散る。キラキラと破片が輝く中で、俺はある物を目にした。

 天井とシャンデリアの接合部が砕け、ゆっくりとメルキュールの頭上からシャンデリアが落ちてくる姿を。


 彼女もまた、その光景を呆然と見つめていた。

 身体が勝手に動き出す。俺は、体当たりをするように彼女に飛びかかった。

 二回転、三回転。ゴロゴロと転がる途中で、後ろからいろんなものが砕け散る音が聞こえ、何かが俺の背に突き刺さる感触があった。

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